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08.  師匠が決まる日

「なあ、エクトル。この前の魔法、『テンペストストライカー』だったって、本当か?」


 入学式の日から数日が経ち、『最強学院』での授業が始まる日になった。入学死のあの日、最高得点取得者として教員に呼ばれた俺と、あえなく水中に突き落とされた三人組とは、その後から会っておらず、今日が久しぶりの再開になる。


「ああ、そうだぞ?」


 フリッツの言葉に頷くと、魔法のついて興味があると言っていた食いついてきた。


「本当っ? わたしも予想でしかなかったんだけど……。だって、あの魔法は『テンペストストライカー』にしては……」

「……威力が高すぎる。……あの魔法で五十人もの人間を吹き飛ばすには、相応の魔力を支払うか……とんでもない倍率の増幅器が必要……」

「それに、だぜ?」


 アンナとナタリーの疑問に付け加えるように、フリッツは更に『不可解だ』と思っている点を突きつけてくる。


「あの場には、エクトル以外にもアナウンス直後に魔法を使おうとしていた奴らはいたよな? アイツらはエクトルみたいに全員を吹き飛ばそうとはしていなかった、と思う。つまり、初級か中級魔法の起動速度よりも早く、ブーストされた上級魔法を使ったって事になるわけだ」

「……『詠唱破棄』?」

「うん、それかそこまで行かなくても、最低でも高度な『無詠唱』が必要なはず。『最強学院』に入学するような人が、『無詠唱』すら取得していないとは考えにくいもの」


 三人の分析を聞きながら、しかし俺は心の中でほくそ笑んでいた。だって、三人が俺の魔法の本質、『マナ魔法』と『常駐魔法』とはかけ離れたところで分析しているからだ。


 この分では、三人組が俺の本質に辿り着くのは遠そうだな、と思いながら俺はなんとか言わずに済む方法を考え出す。

「いや、外れだよ。『オド魔法』に関して、確かに俺は『無詠唱』を使えるが……『テンペストストライカー』を使うに当たっては、『無詠唱』を使ってない。他の技術だ。……それが何か、ってことは、まあ秘密だな」

「なるほど。……『家系魔法』か」

「まったく、フリッツ! 他人の『家系魔法』に探りを入れるのは失礼でしょ!」

「……魔法発動高速化? ……『詠唱破棄』を超える……?」

「ナタリー? あなたまで……。やめときなって、ね?」


 アンナがフリッツとナタリーを困ったように注意しているのを見て、俺は助け船を出すように告げる。


「まあ、その程度の『予想』なら構わないけどな。そこから進んで『解析』までしてたら……な? 好奇心は身を滅ぼすっていうだろ?」


 一応、他家の『家系魔法』を詮索というのはルール違反、失礼なことに当たるとされている。とは言え、自らの『家系魔法』の強化や、敵対関係の家を攻略する目的で他家の『家系魔法』解析というのはよくやられている。あくまで表立って行っていけない、公には禁止しているだけである。


「ああ、分かってるぜエクトル」

「……笑顔で言ったって、全然分かってるように見えないわよ、フリッツ……」


 フリッツが絶対解明してやる、とわくわくしたような笑顔で告げるのを、アンナが呆れたように注意すると同時……新入生およそ五十人が集められた部屋に、一人の男性教員が入ってきて、大声を張り上げた。


「静かにしろ! これから、師匠の振り分けに関して説明するぞ!」







 ◆  ◆





 『学院』と一応名がついているものの、『最強学院』の授業方針は通常の学院のものと異なっている。


 それはそうだろう、戦闘においてどうすれば強くなるか、なんてものは画一的な教育でなんとか出来るものではない。長所を伸ばすか、短所を埋めるか。手札を増やすか、一つの戦法に特化するか。戦闘における『強さ』を伸ばすというのは、個々で違ってくる。


 そのため、『最強学院』では基本的なところでは『師弟制』を採用していた。


 師匠が弟子の『最強』への道筋を作ってやり、それに沿った授業を弟子は履修していく、という形だ。その授業というのも特殊な形式で、簡単に言えば『最強学院』に在籍している者なら誰でも講義を開けるのだ。


 それは、学院側は用意した教員数に限りがあり、全員に教員が教えることが出来ない、だったり、『家系魔法』の関係で教員より在学生の方がその魔法に精通していることがある、という理由があるが、なによりも『他人に教え直すことで自らの理解度を深められる』という所を『最強学院』では重視している。よって、授業の講師よりその技術について理解が深いと感じた場合は、教員に審査を申請して、講義を開く許可を取れるのだ。




 ということを、男性教師は説明していた。が、俺にとっては既に去年も聞いたことだ。話半分に聞き逃して、俺は一つ心配していた。


(無能な師匠に当たらないといいけどな……)


 ということを。


 そう、学院側が用意した教員には、指導し、強さを育むスペシャリストには数の制限がある。そして学院側の意図から考えれば、そういった優秀な講師はより『コロッセウム』で優勝する可能性がある人材に割り当てたいと思うだろう。つまりレベルⅣシルバーから、レベルⅤゴールド。学院側が用意した根っからの教師は上位2レベルの学生しか弟子をとらない。


 つまり、レベルⅠ-Ⅲの学生は、自分以上のレベルを持つ同じ学生を師匠に持つことになるわけだ。


「俺の去年の師匠は、無能だったからな……。退学させられた半分は、あいつにあると言っても良いぐらいだよ、全く」

「エクトル。エクトル・メラネシア!」


 そんなことを考えていた俺は、男性教師が俺を呼んでいることに気付かなかった。どうやら、俺がそんなことを考えている内に、プリントを配付する段階に進んでいたらしい。


「……はい」


 俺は素直に返事をして男性教師から一枚の紙を貰ってくる。掌ほどの小さな紙には『エクトル・メラネシアの師匠配属について』と書いてあった。


「さあ、俺の師匠は誰なのかな……?」


 俺はそう呟きながら、男性教師の説明が入る前に、紙へと魔力を流し込む。紙は青白い光を微かに放ちながら、その文字列を『魔力による個人識別中……完了。エクトル・メラネシア、承認』の形に変えていく。


 そして、更に紙に浮かび上がった文字は……。


『あなたの師匠は、ウィリー・クロムウェルに決定しました』


というものだった。


「は……?」


 ウィリー・クロムウェル。入学式の日に出会った、『最強学院』で頂点に近い実力を持つ、生徒会長。


 俺はその現実に、絶句するしかないのだった。



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