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07.  入学実力考査

「貴様達が、いつか『コロッセウム』にて栄光の勝利を手にし、『最強学院』の名の下に世界最強を勝ち取る日を楽しみにしている。以上で入学式を終了とする。新入生はこの後、実力考査が実施されるのでその場で待機すること」


 一時間程度だろうか。体育館にて行われた入学式は、学長のそんな言葉で終わりを告げた。


 俺にとっては二回目の入学式だったが、つまらなくて仕方が無い、といった所だ。学長の話など殆ど聞いていなかった。『常駐魔法』と『マナ魔法』でどんな面白い、強力な組み合わせが出来るか、と考え続けて、なんとか時間を潰していた。


 それは、きっと周りの新入生達も同じだろう。体育館の中には椅子が敷き詰められていたが、半分以上は保護者や偉い人用の席のようだった。新入生自体はおよそ五十名と言ったところか。一応自由席であったが、新入生用の席はぴったりしか用意されおらず、周りには俺の知らない冒険者達が詰め込まれていた。

「よう、オレはフリッツ。同じ新入生同士、仲良くしようぜ」

「もうフリッツ、いきなり話しかけたら失礼じゃないの……。ごめんなさいね、わたしはアンナ・ヴァイス。それにこっちが……」

「……ナタリー・キューネ」

「この子口数少ないの、気分を悪くしたらごめんなさい?」


 そんな時、俺は一つ前の列に座る三人組に話しかけられた。男女女の三人組は、恐らく元々パーティーを組んでいたのだろう。気心の知れた仲であるように会話を交わす三人へ、俺は挨拶を返してみる。


「俺はエクトル・メラネシア。よろしくな」

「おっ、話が通じる奴だ! いやあ、入学式が始まる前にもいろんな奴に話しかけてみたんだが、あんまり付き合ってくれる奴がいなくてよ。皆自分の強さにしか興味ねえのか?」

「アンタの不躾な態度に引いてるのよ、フリッツ。まったく、アンタのせいでわたしまで避けられちゃう所だったじゃない」

「……フリッツ、黙って」


 フリッツと名乗った青年は、焦げ茶色の短髪に、薄紫の瞳。がっしりとした筋肉質の身体を持つ、いかにも『肉弾戦が得意です』といわんばかりの外観だった。パーティーの役割としては前衛壁役といったところだろうか。冒険者の中でフリッツのような性格の人間は少なくないが、話が合わなかったというのは、今期の新入生は『自らの強さを求める』人ばかりなのだろうか、と俺は数多の片隅で思う。


 そんなフリッツにツッコミを入れつつ口を開くのは、くすんだ緑色の髪に薄水色の瞳、健康的にすらりと伸ばした身体を動きやすそうな軽装で包む少女、アンナだった。フリッツが椅子に大ぶりの剣を立てかけているのに対し、アンナが腰に下げているのは短剣。恐らく中衛、遊撃手あたりをやっていたのだろう。


 最後に、濃い青色の髪を長く伸ばし、薄いオレンジ色の瞳。フリッツに辛らつな言葉を放っていた、同性であるアンナよりも背が低い少女、ナタリーである。ナタリーはどちらかというと動きやすさよりも魔法のブーストに重点を置いた装備をしている辺り、恐らくパーティーでは後衛火力役として戦っていたのだろう。


「なあエクトル、お前は『最強学院』の授業がどんな感じが知ってるか? オレはあんまり勉強は得意じゃないからよ……。っても、分かる訳ねえか、みんな新入生だしなあ」

「ああ、安心しろ。座学メインの授業もあるが、基本的には実践授業ばかりだよ。知識で変わるところより、新しい技術を身につけた方が戦闘では有利だからな」

「だよな、エクトルでも知らないよな。センクス。……て、えっ? お前『最強学院』の授業内容知ってんのか?」


 俺の授業内容に関する言葉に、フリッツの典型的なボケは無視して、女性陣が興味深そうに訊いてきた。


「へえ、座学もあるんだ。わたし、魔術の理論の方はいままでなあなあで済ましてきたから、そっちをもう一度学び直したいのよね」

「……エクトル、魔術制御理論の授業、ある?」

「ああ、魔術制御理論は必修だったな、師匠によるかもしれないが。それより、始まるぞ?」

「「「え?」」」


 三人の疑問系が綺麗に重なる中、俺の身体は突然浮遊の感覚に包まれる。


「実力考査だよ。学長がやるって言ってただろ? 去年と変わっていなきゃ、演目はバトルロワイヤルかな。フィールドから自分以外を弾き飛ばせば勝ちって奴だよ」


 俺の説明を三人は聞くことが出来たのだろうか。俺を包む浮遊の感覚は、すぐに視界自体を極彩色に変えていき……そして、俺の意識は暗闇へと閉ざされた。






 ◆   ◆







 もちろん、俺の体感時間では一瞬の内に、意識は現実へ帰還する。


 用いられたのは、恐らく転移系の魔法。体育館の中から、考査を行う会場へ新入生だけを移動させ……そして、この直後に考査は開始される。


 きっと、『最強学院』側は突然の事態に対処する能力も見たいのだろう。突然戦闘を行わなければならない事態に突入したとき、どれだけ早く頭のギアを戦闘用に切り替えられるか。そして、コンディションがいつもと決定的に違った状況でさえ、どれだけ最適解の行動を導き出せるか。


「こればっかりは、最強学院『二周目』だってことに感謝しなきゃなあっ!」


 そっと周りを見渡すと、考査会場は去年と同じ場所のようだった。コロシアムのような会場には水が張られ、そして俺が今立っている円形のフィールドだけが水の上に浮かんでいる。


「おい、エクトル……? これから、オレたち戦うのかよっ!?」


 フリッツが弱気な言葉を吐いた直後、俺の頭に直接声が流れ込んできた。


『勝利条件は、自分以外の全ての新入生を、水中に突き落とすことです。それでは、実力考査を開始してください』


 周りの新入生は、さっきまで入学式で浮かれたムードだったところから、たった数秒でサドンデスバトルに巻き込まれる事態を飲み込めていないようだった。いや、飲み込めている者もいないこともない。円形のフィールドの数カ所で、魔法を放とうと魔力が励起しているらしき反応は感じる。


 だが。


 それは……『常駐魔法』で『発動待機状態』にしておいた魔法より、圧倒的に遅い。


「『M:テンペストストライカー』」


 俺が少し手加減をして放つ風魔法上級範囲魔法は、来ると分かって強固で専用の『常駐防壁』を張っておいた俺を除き、全ての人間を木の葉のように吹き飛ばし、フィールド外へ吹き飛ばしていった。 



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