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魔法少女ブルーミングリリィ! 君は……僕が必ず助ける!

今日は昼は学校、夕方からバイトだったので間に合わないかと思ってました……。

 努とのカラオケ大会を終え、そろそろ夜ご飯を食べに行こうということになり、僕達はカラオケボックスを出て夜道を歩いていた。

 街灯が並ぶ住宅路はぼんやりと朧げで、一人で歩くのは少し憚られる雰囲気だ。

 別に怖いって訳じゃない。なんとなく心細く感じるだけだ。

 他に人影がなくて、通いなれた道のはずなのに、いつもとは違う……まるで異世界に迷い込んでしまったような感覚に陥る。


 けど今は努がいるので、それほど怖くない。


 僕達は歩きながら取り留めのない話をする。


「明日は体育かぁ……もしかして明日魔人来るかな」

「やめてよ冗談じゃない……」

「すまんすまん」


 全く気軽に言ってくれる。あのまま魔法少女にならなければ僕は死んでいただろうし、魔法少女になった今は痛い思いをして戦わなければいけなくなった。

 できることならもう来ないでほしい……。




 しかし、運命とは残酷なもので。嫌だ嫌だと思っている時ほど、それはやってくるのだ。




 ──ゴソリ。


 不意に、手に持つ鞄が大きく震えた。

 それが何を意味しているのか。気付いた瞬間思わず首筋が粟立つ。


「つとむっ!」

「え?」


 突然様子が変わった僕を見て、訝し気にしている努の手を取り、僕は訳も話さず走り出した。


 ──どこだ? どこに現れる!?


 努がそばにいるせいで、それを訊くことはできない。できないけど、とりあえずと僕は自宅のアパートへ向かう。あえて狭い道を選んで抜けて行き、近所の寂れた公園を通り抜けようとした、その時。

 そこで鞄がもう一度、さらに強く揺れた。


 次の瞬間。


 ──ズドォォォン!


 巨大な何かが立ち止まった僕達の前に落ちて来た。

 それは巨大な豹……魔獣だ。

 もし止まらずに進んでいたら……。


 想像してゾッとした。


「お、おい! 蕾!」

「あ、つ、つとむ……」


 恐怖に立ち竦んでいると、肩を強く揺さぶられてハッとする。


「まさか魔獣が出るなんてな……魔法少女が来るまで逃げるしかないな」

「え、あ……」


 今度は努が僕の手を引いて走り出した。

 けど、ダメだ。


 チラリと振り返って見れば、嗜虐的な笑みを浮かべて悠然と歩いて来る魔獣。

 あいつはわざとゆっくり歩いて、獲物をいたぶって楽しんでいるんだ。

 もし一瞬でも本気を出せば、僕達は一瞬でやられてしまう……。


 ……いや、僕一人なら、倒せはしなくても時間稼ぎくらいはできるだろう。

 魔法少女に変身できる僕が……!


「努っ!」

「なんだよ!」

「僕が時間を稼ぐから、その間に逃げて!」

「はぁ!? 何言ってんだよ!」


 ううぅ……確かに変身すれば、戦える。だけど人前で変身なんかしたら、きっと社会的に死んでしまう!

 必然的に事情の説明もできない。何とか説得しなければ……!


 僕は豹が追って来てないことを確認すると立ち止まり、努を正面に据えた。


「詳しくは話せないけど、僕には身を守る手段があるんだ」

「はぁ? なんだよそれ」

「だから詳しくは言えないんだ。……そう、この前の襲撃の件で、母さんに違法的な武器を持たされたんだ。だから大丈夫」


 とても苦しい言い訳だ。信じてもらえなくても良い。努がこの場からいなくなってくれれば。


「じゃあ俺がその武器を使う。他に誰も見てないし、俺も言わない。少なくともお前より運動神経良いんだ。俺の方が時間は稼げる」

「ダメだ!」

「つ、蕾……?」


 この武器は……魔法少女の力は、少なくともこの場においては僕しか使えない……。僕じゃなきゃダメなんだ……。


「っ! 蕾!!」


 僕がうつむいて、空回りする頭で説得の言葉を考えていると、努が切羽詰まった声を上げて僕を突き飛ばした。


「えっ──?」


 スローモーションに流れる景色の中、焦った顔の努に影が落ちる。

 それは黄色い毛皮に、黒い斑点を浮かべて。

 ギラリと鋭く伸びる牙を、口を広げて。努の腹にそれを食い込ませていく。


「うっ!」

「あがぁっ!!!!」


 僕が地面に倒れ込んだ瞬間、親友の絶叫が鳴り響いた。


「あ、あ、あっ……!」


 声はそれ以降、聞こえない。獣はこちらにニッタリと視線をやって、ゆっくりと口を離した。


 その時、脳裏にはあるドラマのワンシーンが流れた。


 犯人にお腹を刺され倒れた刑事。仲間の一人が慌ててそれを引き抜こうとし、上司が止めるのだ。

「包丁が蓋になっている! 抜けば出血でショック死するぞ!」

 と。


「だ、だめ……っ」


 僕がそう言い切る前に、牙は完全に抜け、恐ろしい早さで努の体が血に呑まれていく。


「あ、あぁ……あああっ!!」


 馬鹿だ。僕は馬鹿だ。何が社会的に死ぬだ。そんなの、本当の死に比べたらちっぽけな羞恥心でしかない。

 僕があの時、すぐに変身していれば……!


「ティム……ティム……変身だ」

「つ、ツボミ……」

「早く。今ならまだ間に合うかもしれない」

「う、うん」


 僕は鞄のチャックを開けてティムから鍵を受け取る。


 豹は依然として、余裕の表情でこちらを観察している。その余裕が、お前の死因だ。


「ごめん……ごめん、努。すぐに助けるからね」


 初回は、下腹部……女性で言う子宮のあるところに鍵を突き立て、回す必要があった。

 でももう、鍵は閉ざされている。

 子を産める可能性を、唯人である未来はすでに閉ざされている。


 後はもう、鍵を開くだけでいい。

 魔力を生み出す可能性を、魔法少女である未来を開くのだ。


 それを開くには、鍵を握りしめて声高らかに唱えるだけだ。



「オープン・ザ・リリィ・ドア!!」


 唱え終わると同時に、鍵と僕の身体が光り出す。

 鍵はそのモチーフを残したまま三〇㌢程の杖になり、そしてそれまで封じられていた魔力を解き放つ。


肉体の変化は一瞬だ。瞬きする間に穢を知らない少女の体になり、次に魔法少女の衣装が身に纏う。


 光が散れば、そこにはもう百合園蕾はいない。

 腰まで真っすぐ伸びた黒髪。しなやかな四肢。身を包むのはあまりフリフリしていない、スラリとしたデザインの白いワンピースドレス。


 僕は……。



「魔法少女ブルーミングリリィ! 君は……僕が必ず助ける!」



 ……魔法少女だ!







「はぁぁぁっ!」


 人間離れした脚力で地を駆け、跳躍。両足を揃えて魔獣へと叩き込む。その速度は想定外だったようで、もろにターゲットの胴体を蹴り飛ばした。


 痛みからかもがいているのを確認し、僕は素早く唱える。


「リリィ・ヒーリング・ワウンド!」


 体から少し力が抜けて行く感覚と共に杖が輝き、倒れ伏す努の体に百合が咲き乱れ始める。


「うっ、ううぅ……」


 みるみる内に傷が塞がって行き、努が小さくうめき声を上げた。


「だ、大丈夫……!?」

「大丈夫だよ! ちょっと血は足りないけど、命に別条はない!」

「よ、よかったぁ……!」


 安心して思わず座り込んだ僕を、ティムが叱責して来た。


「安心するのはまだ早い! どうやらあっちも回復したみたいだよ……!」

「くっ、しぶといやつめ……!」


 ゆっくりと起き上がり、怒りを隠そうともしないで睨みつけてくる豹。しかし警戒しているのか、ジリジリと間合いを詰めてくる程度に留まっている。


「リリィ! 今、シャイニングサンとポーリングレインがこっちに向かってる! このスピードなら10分もしないで来るはずだ!」

「わかった!」


 僕は杖を構え、巨大な豹に相見あいまみえる。


 互いに相手の出方をうかがい、動くに動けない状況だ。

 こちらは倒れている努を庇いながら戦わないといけないが、時間を稼ぐだけで良いのだ。出来るだけ無茶をせず、堅実な戦い方をすればそれで十分だ!


 そしてついに我慢できなくなったのか、豹の魔獣が飛び込んで来た。努が後ろにいる僕はかわさず、それを体当たりで防ごうとする。が、体の重さが全然違った。


「わぁああああ!」


 いとも簡単にふっ飛ばされてしまう。


「あぐぅっ!」


 民家の石塀に叩きつけられ、たまらず息を漏らす。しかし痛がってる暇はない。すぐにまた突っ込んで来たのを既のところで避ける。


 くそう、回復魔法しか使えないのか!?


「ティム! 僕にはなんか必殺技的なのないの!?」

「魔法はキミの心の有様なんだよ! 普段からのキミに攻撃性があれば自ずと攻撃魔法が使えるはず!」


 何だよそれ! それじゃあまるで僕が、名実ともに癒やしキャラみたいじゃないか!


「っそうだ!」


 僕はある案を思い付き、道路の真ん中で仁王立ちする。


 豹は好機と見たのか真っ直ぐに飛び掛かってきて──それを僕は体で受け止めた。


「リリィ!?」

「っつう……! 心配しないで! リリィ・ヒーリング・ワウンド!」


 僕はそのまま魔獣を掴み、さらに回復魔法を自身にかける。


「へへっ、逃さないぞ……!」


 次に僕は、昔を思い出す。まだ母さんの苦労を知らず、自由に甘えて駄々をこねて、迷惑をかけていた頃を。

 きっとそれは眠っているだけで、僕の本性の一部であることに違いはないんだ!


 そして頭に浮かんだ呪文を唱える。


「リリィ・テイク・ア・ルーツ!」


 僕の前に無数の百合の種が現れ、それがトストスッと豹の体表に刺さっていく。しかしそれ自体は全く効いていないようで、変わらず抵抗を続けている。

 しかしこの魔法は、ここからが本番だ。


「スプラウト・アンド・ブルーム!!」


 そのキーワードと共に、植えられた種から……つまりは魔獣の表面からポツポツと芽が出て、スルスルと育って行く。

 そこでようやく異変に気付いたのか、豹の動きが止まる。


「残念ながら相手を倒すほどの力はないけど……これは相手の魔力を栄養に育つ百合。暴れる元気ももうないだろう?」



 ……母さんの苦労も知らず、好き勝手して迷惑をかけていた頃。

 実家から完投され、誰にも相談も、頼ることができなくて。

 唯一息をつける場所である我が家には、わがままな僕がいて。

 今ならわかる。あの頃の母さんはすごく疲れていた。

 寄生虫な僕が、無邪気に宿主である母さんの元気を奪っていた。


 この魔法は、まさにかつての僕その物だ。


 一つ一つ、無垢な百合の花が咲いていく。やがて魔獣の大きな体は、おびただしい数の百合の花で覆い埋め尽くされた。


「……我が魔法ながらきしょいな」


 抑えていた手を放し、数歩下がってその光景を見ていた僕は思わず顔を引き攣らせた。


「うん。倒せはしなくても、無事無力化出来たね。……あ、シャイニングサンとポーリングレイン、来たみたいだね」


 ティムが空を飛んで近付いて来て言った。確かにドタバタと慌ただしい足音が近付いてくるのが聞こえた。


「うーん、出くわしても面倒だし、僕達は撤退しようか」

「キミがそうしたいなら」


 もしここで出会せば、魔獣もぱっぱと倒して変身を解除する流れになるだろう。

 今回の件で、非常時には人目を気にせず変身する覚悟は決めたが、わざわざ自分から明かす必要はない。

 ティムからの異論もないようなので、僕は鞄と未だ気を失っている努を担ぎ上げ、その場を後にした。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 蒼衣とカラオケで歌い倒し、近くのファミレスで夜ご飯を食べていた時だ。

 私の鞄がガサゴソと動き、中からオッドアイの黒猫のぬいぐるみ……妖精のティアが顔を覗かせた。

 この流れはあれだ。


「魔人?」

「いいえ、今回は魔獣だけみたい」

「場所は?」

「あんまり遠くない。近くの住宅路」


 いつものように、冷静な蒼衣が必要な情報を聞き出す。


「あ、でも。例の魔法少女がいるみたい」

「え?」


 今度声を上げたのはワタシだ。


「うーん、確かあの子、戦闘力は低いはずだから……助けに行くなら急いだ方が良いわ」


 ティアのその言葉に私達は顔を見合わせ、コクリと同時に頷いた。




 そうして変身して急いで駆け付けた先で見た光景が……。


「な、なに……これ……キモい……」

「あ、新手の魔獣かしら……百合型の魔獣……? キモいわね……」

「いや、これは豹ね。表面の百合は……例の魔法少女の魔法みたい。効果は多分、宿主の魔力を吸って成長するってやつね」


 ドン引くワタシ達に、ティアが冷静に分析結果を伝えてくる。


「倒せてはないみたいだけど、無力化はできたみたいね。多分あなた達が駆けつけるのに気付いて逃げたのね」

「はぁ……急いで損したかも」

「まあどの道私達が来ないと倒せないんだから。諦めましょう」


 ワタシ達はため息をこぼしながら、トドメの魔法を唱えるのであった。

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