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16/27

ないです

 僕の名前は百合園蕾。常夏高校三年の男子高校生だ。

 他の人と比べると、身長も体重も低い数値なのはちょっとしたコンプレックスでもある。

 今年度に入ってすぐにやった身体測定では、一五九センチメートル、体重五三キログラム。

 それが僕の身長と体重だ。


 だった、はずなのに……。


「うーん、やっぱり、一五五センチメートルの五〇キログラムね……」

「そ、そんな……」


 僕の身長は四センチも縮んでいたのだ。

 ショックを隠しきれない僕の下に、努がやって来た。


「……確かに、前より縮んだ感じはあるな……いや、言われなきゃ分からなかったけど」


 まあ元々努より身長は低かったので、努からしたらあんまり分からない物なのかも知れない。


「前の記録が間違えてる……ってこともないのよね?」

「ない、と思います……」


 そりゃ、絶対にないとは言い切れないけど、今はそれしか情報がないんだ。

 となると、僕の身長が本当に縮んだのだろう。

 魔力の使いすぎで身長が縮んだ? もしくは若返った?


 ……いや、多分違う。


「……次って、ブルーミングリリィに変身した状態で同じ計測するんですよね」

「ええ、そうだけど……」

「じゃあ、もうお願いします」

「え、いいの……?」

「……確かめたいことがあるんです」


 桂木さんは首を傾げながらも了承してくれたので、僕は首から提げていた鍵を外し、手に握った。


「オープン・ザ・リリィ・ドア」


 そして変身のワードを唱え、ブルーミングリリィとなる。

 

 目線は全然変わらない。変わらないけど、変身体では強制的にヒールブーツを履かされる。

 あまり高くないとはいえヒールだ。

 それをはいているのに目線が変わらないと言うことは、変身中はさらに身長が縮んでいると言うことに他ならない。


「おぉ、これがブルーミングリリィ」

「じゃあ桂木さん、よろしくお願いします」


 身長の計測は、まずは普通に身長を測ってから、ヒール部分をメジャーで測って、引き算するという方法がとられる。


「結果が出たわ。……正直驚きだけど、聞く?」

「もちろんです」


 そして告げられたのは、一五一センチメートル、四八キログラムと言う記録だった。

 ……悪い方に、予感が的中してしまった。


「……念のために聞きますけど、サンとレインの記録って、変身前と変身後で変わりました?」

「っ! 待ってて。今確認してくるわ」


 桂木さんは何かに気付いたように面を上げ、そう言って走って出て行った。


 僕の予想は二つあった。

 前提にあるのは、僕の体はブルーミングリリィにふさわしい……つまり、汚れを知らない少女の肉体に変化していること、ということだ。

 そして、一つ目の予想は、それを前提として完全な女の体にならないで、現状で変化が終了しているパターン。

 もう一つの予想は、つまり完全に少女の身体になるまで変化は止まらず、今なお変化している最中であるというパターン。


 その予想を証拠付けるものとして、身長と体重の変化に着目したのだ。


 数分後、走って戻ってきた桂木さんの答えは、「シャイニングサンもポーリングレインも、変身前後で身長体重共に変化なし……」というものだった。


 あぁ、予想の内、答えはやはり後者のようだ。


 困惑してどういうことかと訊いてくる努に、僕の考えを伝える。


「妖精は、生殖行為をしないで、自然的に発生するんだって。

 僕は一応母さんから生まれた人間だけど、妖精の成分も確かにある。

 だから魔法が使える訳なんだけど……」


 生殖行為をしない、ということは、厳密に男女分かれているとは言えないのだろうか。

 男女の差が曖昧というより、どちらにもなり得るというか……何かのきっかけで簡単に変わってしまうほど不安定なモノなのかも知れない。

 そして、僕には確かに妖精の部分もある。


 僕は男として生まれた。人間で生まれたことによって、一応、ちゃんと性別が固定されている存在だ。

 だけど、僕には魔力を生み出す……魔法少女になる力があった。

 そして、魔法少女になってしまった。


 魔法少女になるには、将来的に大きな影響力を持つ子供を生み出す可能性がある処女、という限られた存在でなければいけない。

 じゃあ男の僕は? 精子がどうにかなるのか。


 ……この処女でないといけないというのは、処女膜が重要であるらしい。

 医学的には処女膜という膜はないのだそう。だけど、魔術学的には、処女膜というのは魔力の器である重要な入れ物だそうで、それが破られれば、せっかく生み出した魔力が垂れ流しになって霧散し、魔法は使えないらしい。


 男の僕には処女膜などない。変身中はあるのだろうけど、それでも前提条件には当てはまらないのだ。

 それでも、僕は魔法少女になれる。それはなぜなのか。


「努、僕って最近、女みたいになったって言ったよね」

「え? ああ……」

「もし、女っぽくなって行ってるんじゃなくて、本当に女になって行ってるとしたら?」


 つまりは、ブルーミングリリィの姿は、もし僕が最初から女として生まれて今の年齢まで育ったら……というifの姿なのではないだろうか。

 そしてブルーミングリリィに変身したことにより、元の肉体もそのifの肉体に変化して行っているのではないか。


 他の二人の魔法少女は、身長体重は変身前と変わらないはずなのに、僕は変わる。

 それは、魔法少女と人間の身体で変わっているのではなく、男と女の身体で変わっているのではないだろうか。


 となると、将来的には僕の身体は完全に女性になり……身長体重もブルーミングリリィの一五一センチメートル、四八キログラムになるのだろう。

 そう、ブルーミングリリィは、僕の肉体の変化の終着点なんだ。


 処女……女でないと魔法少女にはなれない。しかし僕は、性別が曖昧な妖精の一面を確実に引き継いでいる。

 魔法少女になる、という支点が作用して、その曖昧な性別を変えてしまっているのだろう。


「……全部、ただの予想でしかない。所詮妄想でしかないけど。だけど、可能性はある」

「……」

「……」


 黙り込む三人。だってそうだろう。まさか性別が本当に変わっていくとは、夢にも思わない。


「そう、ね。確かに可能性はあるけど、まだ予想の内を出ないわ」

「桂木さん……」


 桂木さんは、コロリと表情を変え――少し引きつっているようだけど――疲れたし、残りの計測もさっさと終わらせて、どこかに夜ご飯を食べに行こう。私がおごるわ。と言った。


 気を遣わせてるなぁ……と感謝しながら、僕はその提案に乗るのであった。


 そこから、視力や聴力、血液採取をして、今度も先ほどやった握力や立ち幅跳びなど、基礎運動能力の測定をして、検査を終えるのであった。




「……さて、本当は予定になかったけど、今度はレントゲンとMRI検査もした方が良いかもしれないわね。変化が進む前に……できるだけ早い内に」

「……そうですね」


 桂木さんの運転する車の中で、僕たちはそう会話をしていた。もしこれからどんどん女体化していくのであれば、その進行度を知るためにも、身体の中の検査もするべきだろう。

 今日は予定になかったし、準備もしていなかった。一週間くらいしたら準備が出来るだろうから、来てほしいと言われ、僕は頷くのであった。




「さて、好きなのを頼みなさい。経費で落とすからじゃんじゃん食べなさいよ~!」

「あの、すみません、俺まで……」

「いいのいいの! だって考えてもみなさい。政府からしたら、結局の所魔法少女には戦ってもらわないと困るのよ? ブルーミングリリィの戦う理由の大半があなたにあるんだから、つまり蕾くんと努くん、二人がそろってブルーミングリリィなのよ」


 ちょっとその論理には首を傾げたが、勢いよく断言するものだからなんとなく納得してしまった。

 努も色々と考えることに疲れたのか、なんだかよく考えていない表情で「じゃあ遠慮なく……」とメニューを開いていた。


「うーん、どうしよう……」

「何で悩んでるんだ?」


 どっちにしようか迷っていると、努が僕の持つメニューを覗き込んできた。

 僕は写真を指さしながら、努に訴えかける。


「このイン&オンダブルチーズバーグと、トロ~リ卵のビーフシチューオムライス、どっちが良いと思う?」

「んー、じゃあ両方頼んで、俺と半分ずつ食おうぜ」

「ほんと? やった」


 正直ちょっとそう言ってくれるのを狙っていた。


「あら? もう決まったの? じゃあ店員さん呼びましょうか」


 僕はボタンを押し、やって来た店員さんに努の分もさっさと注文してしまう。

 桂木さんは和風キノコスパゲティを頼み、料理がやって来るのを待つばかり。


「そういえば、桂木さんと母さんってどんな関係だったんですか?」

「んー、癒やす側と癒やされる側?」

「あ、それ分かります」


 なぜか理解を示す努。


「蕾もかなり癒やし系キャラですから」

「ほんともう、ゆりちゃんそっくりだわぁ……」


 まあ遺伝子的には全く同じですからね……と言い、苦笑いをこぼす。

 母さんのほんわか学生時代の話を聞いている内に料理が運ばれて来たので、いただきますと、各々早速食べ始めた。

 食べながら、今度は桂木さんの……職場のことや、僕たちの学校での話をする。

 桂木さんは何とも苦労人なようで、頭の硬い上司に悩まされているらしい。


 話の途中途中、僕たちは互いの器から料理をかっぱらっていく。

 それは昼休み中もよくやることなのであるが、桂木さんが興味深げに見てきた。


「どうかしたんですか?」

「いや、本当に仲いいなーと思って」

「えー? 普通ですよふつー」


 僕がそう言いながら、努の皿のハンバーグを頬張ると、桂木さんは微妙そうな表情を浮かべる。


「……本当に付き合ってないのよね?」

「ないです」


 何を言い出すんだ。


「もしもですよ? 万が一僕が女として生まれていたら、そういうこともあったかも知れないですけど……僕男ですから。それに恋人同士なら、勝手に皿から持っていくんじゃなくて、こう……あーんってさせ合うんじゃないですか?」


 僕がオムライスをスプーンですくい、努の口の方に運ぶまねをする……と、なんと努が本当にそれを食べてしまった!


「あ! よくも食べたな!」

「いや、悪い悪い……据え膳食わねばってな。怒るなって。ほら、俺のもやるから」


 そう言ってフォークに刺したハンバーグを向けてくる努。

 ハンバーグに罪はないので、食べてやる。うん、おいしい。


「はぁ……」


 なぜかそんな僕たちをみて、桂木さんは寂れた表情で一人パスタを啜った。

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