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ほうほう! 君があの彼氏くんね!

 東雲くんのもとから僕を連れ去った努は、突然パンッと手を合わせて頭を下げた。


「すまない!」

「え、えぇ!? どうしたの急に……」


 なんで努が謝っているのか、検討もつかない。

 僕が首かしげていると、努は気まずそうにポリポリと頬を掻きながら言った。


「いや、他にも上手い言い訳あっただろうに、あろうことか付き合ってるみたいなのしか思いつかなくて……」

「あー……」


 まあこれからしばらくは、僕と努が付き合っているという噂が流れるかも知れない。

 けれど、僕が考えた言い訳を全部受け流した東雲くんだ。このぐらいのことを言わないと諦めてくれなかっただろう……。


「まあ、人の噂も七十五日っていうしね。気にしないでよ」

「すまないなぁ……」

「いいって。それよりも、助けてくれてありがとう」

「おう」


 それにしても、結局着いてきたのか……いや、結果的に助かったけど、何をそんなに心配していたのだろう。

 今日一日様子がおかしかった努。その理由を訊いてみた。


「あー、まあ、うん……そうだな」


 努は末期患者に病状を告げる医者のような面立ちで言った。


「お前、最近妙に女っぽいだろう? それで、男子の間でそこそこ人気が出てきてるんだよ」

「は……?」


 女っぽい? 人気?

 いや、同性に人気なのは、努が正にそうだ。話してて楽しいし、チャラチャラもしてなければ暗くもない。

 でも、何だか努の言う「人気」はどちらかと言うと、まるで異性のアイドル的な人気に聞こえた。


「ええと、それはブルーミングリリィが?」

「いいや、百合園蕾がだ。今回のラブレター、どうも女子からのというより男子からのに見えたからな……お前が怖い目に合うんじゃないかと思って後をつけてきたんだ……」

「そ、そう……」


 結果として助けられた訳だから文句は言うまい。

 だけど、なんだろう……同い年の男友達に対する接し方ではない気がする。 

 もっとこう……小さい子とか、庇護欲をそそられるような女子にする接し方だろう。

 おっとり癒やし系、とは言われるけど、こんな反応は今までなかった。

 変わったのは努や他の男子なのか、それとも……。


「ねえ努」

「ん?」

「僕、ここ最近変わった?」

「……何でそんなこと訊くんだ?」

「良いから教えて」


 ごまかしは許さない……と視線で訴える。

 最初は困った表情を浮かべていた努だけど、腹をくくったように口を開いた。


「蕾、お前最近、めっちゃ可愛くなった」

「可愛く……具体的には?」


 まさかマスコット具合が進行した、なんてことはないだろう。


「すごく、女子っぽくなった。正直に言って、女子に見える」

「ふむ……」


 ……思ったより、ショックはなかった。前々から感じていた違和感であり、他の人の反応からある程度予測は出来ていた。

 ただ、今回は親友の口からはっきりとしたことが聞きたかっただけだ。


「それって、ブルーミングリリィになってからだよね?」

「っ! 確かに、言われてみれば……」


 そこでもう一つ、思い当たる節を訊くと、肯定が返って来た。

 僕が女子に間違われるようになったのは、ブルーミングリリィになってからのことだったからだ。


「……これは誰にも言ってないんだけどさ」

「おう」


 少し下の話があるから、誰にも言えてないと言うのが正しいのだけど。


「僕のあれ、小さくなったんだよね」

「あれ」

「あれ」


 オウム返ししてくる努に、オウム返しで答える。

 元々自慰行為はしない方だったけど、最近は数少ないそれも全くしなくなっている。

 まだ性欲が落ち込む年齢でもないし、そう考えると原因は"魔法少女"にあると思えた。


「……確証はないんだけど、魔法少女になったことで、僕の身体がだんだんと少女になってる……可能性はある」

「……そうか」


 だからなんだ。そう訊かれると困るけど、これは僕にとって一大事であるし、これから先の大きな悩みでもある。

 その恐怖を共有できる人がほしかった。結局はそういうことだ。


「これから先どうなる変わらないけど……支えてほしいんだ」


 前の僕なら、こんなことは頼まなかった。

 だけど、あの日……タランチュラの魔獣と戦ったあの日。何でも相談し合える、親友であろうと決めたあの時のことが、僕を変えた。

 努も、そのことをちゃんと分かっていてくれてる。

 だからにっこりと笑って、こう言ってくれるんだ。


「……当たり前だろう? この先お前がどうなっても、支え続けてやるよ」







 放課後、自宅まで迎えに来た黒いワゴン車……ハイエースとか言ったっけ? に乗り込んだ僕と努。

 連れられた先は言わずもがな、母さんの職場……魔獣対策課だ。


 車から降りた僕たちを出迎えたのは、白衣を纏い、眼鏡をかけた女の人だった。

 茶髪に染めた髪を一つにまとめて、左肩から垂らしたその女性は、母さんと同じくらいの年齢に見えた。


「こんにちは、ゆりちゃんの息子さんね? そっくりだわ~」

「あ、あの……」


 ……どんなマッドサイエンティストが出てくるかと思えば、なんだか随分と軽いノリの人が出てきた。


「ああごめんなさいね。私は桂木穂乃香かつらぎほのか。ゆりちゃん……あなたのお母さんの同級生で、今は同僚よ。魔獣対策課、魔力研究部に所属しているわ」

「百合園蕾です……あと、こっちは」

「広瀬努です。蕾の精神安定に必要不可欠な協力者、って言ったら伝わりますか」


 どんなに善人そうでも、相手は母さんが言っていた魔力研究部。少し警戒しながら、自己紹介を交わす。

 どういう訳か努が名乗り終わると、桂木さんは目を輝かせた。


「ほうほう! 君があの彼氏くんね!」

「は?」

「へ?」


 彼氏くん……? 何を言っているのだろう?

 僕たちが訝しんでいると、桂木さんはとんでもないことを言い出した。


「魔獣対策課ではもう今一番ホットな噂よ! 何せ、あの新人魔法少女ブルーミングリリィの戦闘理由の多くを占める男子生徒が、政府公認の協力者になったって言うんだから! 恋仲説が一番熱いわ!」

「ちょちょちょちょ何言ってるんですか!? 僕たち男同士ですよ!? 恋仲なんてあるわけないじゃないですか!!」

「あまーい! 今時同性愛なんて基本中の基本よ! それに蕾くん……君、本当に男の子……?」


 そう言って睨みながら近付いてきて、ベタベタと僕の体を触ってくる。


「ひぃっ!? ちょ、やめてください! 男ですよ!」


 必死に抵抗するも、まるでタコか何かのようなねっとりとした動きで触ってくる桂木さん。

 努は!? と横目で見ると、なぜか顔を赤らめてそっぽを向く努。


 この裏切り者!


 たっぷり全身をまさぐられた後、ようやく解放された僕は両手をついて項垂れた。


「よ、汚された……」

「ふむ。一応男の子のようね。いえ、男の娘と言うべきかしら……」

「……なにいってるんですか」


 ダメだ、この人マイペースすぎてついて行けない……。

 桂木さんのことは放っておいて、僕は努に恨みの目線を送る。


「つとむぅ……なんで助けてくれなかったんだよぉ……」

「いや、その、すまん。見た目濃厚な百合だったもんで、男の俺には手出しできない世界だったから……」

「僕も男だよ!!」


 どいつもこいつも!!

 僕は二人を置いて、肩を怒らせながら建物に入っていった。







 さて、その後謝り倒してきた二人に、僕はあの条件……『検査などに努を同席させること』を出した。

 すると桂木さんはきょとんとした後、蕾くんが良いなら良いけど。と事もなげに言った。


 僕は入院患者が着るような長いジンベエのような病衣に着替えると、検査室に入る。

 そこで、桂木さんはなぜか改めて自己紹介してきた。


「じゃあ改めて……私は魔獣対策課、魔力研究部の桂木穂乃香よ。本来あなたの検査や違法な人体実験を行うはずだった人が逮捕および解雇されたから、急遽代わりに検査をすることになったわ」

「え……?」

「言ったでしょう? 私はあなたのお母さんの同級生だって」


 桂木、穂乃香……そういえば"ほのか"という名前に聞き覚えがある。

 母さんがたまに、飲み会の後「ほのちゃんが」~と話しているのを聞いたことがある。


「ちなみに今日ゆりちゃんがいないのは、あの人を人とも思わないセクハラパワハラモラハラクソ野郎を豚箱送りにした後始末のために、東京の本部に行ったからよ」


 桂木さんはセクハラ……の所でちょっと他人様には見せられないような顔をした。

 っていうか、母さんは、僕のために東京に……。


「安心してちょうだい。私は、あなた達の味方よ」


 そう言って、笑みを浮かべる桂木さんは、なんだか頼もしく見えた。




 検査は思いのほか普通の項目ばかりだった。身長や体重、視力、聴力、血液採取をした後に、腹筋やら反復横跳びやらと言った基礎運動能力の計測と言ったところだ。

 もっと胸に電極とか貼ったり、頭に怪しげな機械を取付けたり……そんなのを想像していたので、ちょっと肩すかしだった。


「ふむふむ……運動能力は女子平均よりちょっといいくらいかしらね。身長は一五五センチメートル、体重は五〇キログラムね」

「えっ!?」

「ん、どうしたの?」


 運動能力については何も言うまい。体を動かすのが苦手なのは小さい頃から自覚している。

 だが、それはおかしい。

 僕は桂木さんに告げられた身長体重に異議を唱える。


「ちょっと待ってください。前に計った時、一五九センチメートルの五三キログラムだったはずなんですけど!」

「え? そんなこと言われても……いえ、もう一度計測してみましょうか。今度は別の器具を使いましょう」


 僕の必死な訴えに、桂木さんは何かを感じたのか……もう一度計測してくれることになった。

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