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もう俺がいるからなんだ

待たせたなぁ!

 タランチュラ型の魔獣との戦闘から早くも二週間。

 あれ以来、魔人や魔獣の襲撃はなく、僕は久々に平穏な生活を送っていた。


 ……いや、一つ変わったことがあった。なんと母さんから新しいスマホをもらったのだ。

 白地にシャンパンゴールドの縁取りがされた、上品な女子っぽいデザインのスマホで、すでにインストールされていたコネクトンには、他の二人の魔法少女である藤堂茜と飯島蒼衣のアカウントが友達に追加されていた。


「……普通にアカウント名が百合園未咲なんだなぁ」


 なんでも、母さんは、茜ちゃんと蒼衣ちゃんから「未咲ちゃんと連絡先を交換したい」という熱い要望を受けたそうだ。

 そこで「未咲は以前の戦闘でスマホを壊しちゃって……」という理由付けをし、政府から「魔法少女活動時補償」でお金をぶん捕ると、僕に未咲用のスマホを買い与えてくれたのだ。


 そういうわけで、僕は今毎日のように女子高生二人とコネクトンでチャットのやり取りをしているのだけど、正直どういう反応を返すのが正解なのか分からない。なんて返信すれば良いのか……僕は毎日頭を悩ませているのだった。




 そしてもう一つ、これは今日の放課後に予定されているのが、ブルーミングリリィの身体測定や健康調査だ。

 サンとレインも受けているらしいこのヘルスケアは、魔法少女が万全の状態で魔獣と戦えるようにという意図があるらしい。

 しかし僕の場合、本当にそれだけの理由で検査されるのか……なんとも嫌な予感がする。


 登校途中、努と合流した僕は一緒に学校までの道のりを歩く。

 努とはあれ以来さらに仲良くなったと思っている。

 実際、努は「ブルーミングリリィの精神安定に必要不可欠な協力者」ということで、すでに魔獣対策課と何らかの契約を結んだそうだ。

 例えば、僕が知り得た国家機密は、努も知って良いとか……そういう特権も与えられているそう。


 だから今日の検査の件も、努に相談してみることにした。


「うーん、綺咲さんの立ち会いの下で検査をしてもらえるようにするとかはどうだ?」

「それが、今日は母さん、東京に行ってるんだ……」


 このタイミングで出張に行かされた母さん。もしかして仕組まれたことなのか、とても不安になる……。

 僕が暗い顔でうつむいていると、努がポンポンと僕の頭を撫でた。


「……よし、今日の放課後、俺が一緒に着いてく」

「えっ!?」


 突然そんなことを言い出す努。そんなことが許されるのだろうか。


「俺は"ブルーミングリリィの精神安定に必要不可欠な協力者"だぞ? 今回の件で間違いなく蕾は不安に思ってる……なら、俺が精神安定のためについて行くのは当たり前だろう?」

「努……」


 門前払いされたり、結局の所別室で待たされたりする……常識的に考えてそうなるだろうけど、僕は努がそう言ってくれたことが、何より嬉しかった。


 僕が感極まって努の顔を見上げると、努はなぜか「うっ」とうめくと、僕の頭から手を下ろして後ずさった。


「努……?」

「あ、あの顔は反則だぞ……」


 何だろう、間抜けな顔でもしていたのだろうか……。

 僕は少し複雑な思いを抱きながら努の先を歩くのだった。




「……あれ?」

「どうした蕾?」


 僕たちが学校に着き、下駄箱の前に立った時だ。

 僕の上靴の上に一通の手紙があった。


 これはまさか……!


「ら、ラブレターっ!?」

「なにぃ!?」


 なんと、僕は生まれて初めて恋文なる物を受け取ったのだ!


「お、おい待てよ……果たし状とか、そういう類いかもしれないぞ?」


 未だ信じられない様子の努。失礼なやつ!


「ここじゃなんだし、教室行って開けてみようよ」


 まあそう言う僕も、期待はしてるけど百パーセントラブレターとは思っていない。

 もじラブレターだったとしても、こんな冴えない僕に出すくらいだ。罰ゲームかなにかという線もありえる。

 あまり期待しないで……でも少しウキウキとしながら、僕たちは訳もなくコソコソとしながら教室へ向かった。




「『百合園蕾さん。今日の昼休み、お話ししたいことがあります。裏庭で待っているので来てくれると嬉しいです。』か……。どこの誰かは書いてないね」

「裏庭なんて人目が着かない場所……やっぱり果たし状なんじゃないか?」


 なんで努は果たし状にこだわるんだろう。ヤンキーモノの作品好きなのかな?


「お話ししたいこと、って書いてあるじゃん。少なくとも果たし状ではないよね」

「確かに……」


 しかし、気になる点が一つあった。

 白い、何の変哲もない封筒に入っていた、白い便せん。書かれた文字は緊張していたのか、少し硬い。

 ラブレターと言うには少し無骨な印象を覚える。

 果たし状でないにしても、ラブレターではないのかも知れない。


「昼休み、俺もついて行こうか?」

「……なんでさ」


 突然、努が突拍子もないことを言い出した。というか、手紙を見つけた時から様子がおかしい。


「だってよう……俺、見たことあるぜ? 男子高校生が手紙で呼び出されて行ったら、ヤンキーがぞろぞろ出てきて……」

「努はドラマかなんかの見過ぎだよ!!」


 僕は呆れて、努のその提案を蹴った。


 ……その結果、あんなことになるだなんて。このときの僕は思ってもみなかった。







 四時間目の授業が終わり、お弁当も食べずに僕は席を立った。

 休み時間の度になんだかんだ言ってきた努も、直前となると何も言えなくなったらしい。自分の席からチラチラと視線を送ってくるにとどまっている。

 ……本当に努は今日、一体どうしたんだろう。


 まあ、様子のおかしい努のことは後からでも良いだろう。

 それよりも今は、目先の問題が先だ。


 ……僕、百合園蕾は、そうとは知らなかったけど男版百合園綺咲で、そのせいか男としては非常に微妙な顔をしている。

 また仕事で忙しい母さんのために家事を行うため、友達付き合いもほとんどしてこなかった。

 それに、勉強もいまいちなら、運動はもっと苦手。


 そんな僕がモテるはずもなく、今までプロポーズなんてされたことは一度もなかった。


 そして現在、これまで通り勉強と家事で毎日忙しい上、魔法少女業もしなくてはいけないのだ。

 正直手が回らない……。元々僕は、そんな器用な人間でもないのだから。

 申し訳ないけど、もしこれが本当の告白だとしても、僕は断らざるを得ない。


 どうやって断ろうか……。僕の目の前にある問題点はそこに収束していた。


 一度玄関へ向かい、そこで靴を履き替えて外に出る。

 上から見ると平たい口字型の校舎。裏庭と言っても、玄関の反対側というわけではない。

 底辺を玄関とすると、右側が南で、左側が北だ。

 南側に校庭と各クラスの教室があって、反対の北側に音楽室や理科室など特別教室があるんだけど、その教室の窓から見えるのが、通称裏庭。

 なんでわざわざ、日当たりの悪い北側に花壇を設置したのか、環境委員としては文句を言いたいけど、僕が入学するずっと前からこうなのだ。今更どうこう言っても仕方のないことなんだろう。


 話がそれたけど、玄関を出て右に向かって進んで、右に曲がれば……そこは、僕たち環境委員が育てた花々が咲き誇る秘密の花園がある。


 ……そこに、一人の男子生徒がいた。


 もしかして僕以外にもこのタイミングで告白のイベントがあるんだろうか!?

 となると、先に来ていたあの男子生徒に場所を譲るべきだろうか?


 思わず立ち止まってあれこれ考えていると、花をぼーっと見ていた男子生徒が僕に気がつき、声をかけてきた。


「あ、ゆ、百合園蕾さんですか……!?」

「へっ? そ、そうですけど……」


 なんだなんだ? 僕のことを知っているのか?

 実際、他の環境委員より積極的に花の世話をしに来る僕は、名字も相まって意外と知られているらしい。情報源はコミュ力の高い努だから、信憑性は高い。

 もしかしたら、花の世話をしに来たと思われたのかも知れない。


「あ、ああごめん! 今日は花の世話に来たわけじゃないんだ! ちょっと誰かに呼び出されてね……」


 僕が慌てて弁明すると、その男子生徒はホッとした様子だった。良かった……。


「あの、百合園さん」

「ん、なに?」


 僕は早々に立ち去った方が良いだろうか……と思っていると、男子生徒に話しかけられた。

 男子生徒……だけだと分からないよね。

 眼鏡はかけてないけど、真面目そうな顔立ち。髪も短く整えられていて、勉強も出来そう。

 ただ少しお堅い印象を受けたので、努ともまた違った雰囲気を纏っている。


 そんな彼が、緊張した面立ちでまくし立てた。


「百合園さんを呼び出したの、俺なんです。あ、俺、東雲宗谷しののめそうやって言います!

 実はしばらく前、理科室でレポートを書いていたとき、何気なく窓の外を見ていたら、花に水やりをする百合園さんがいて……その、一目惚れだったんです!」


「……ほぇ?」


 え? 一目惚れ? 何を言っているんだこの青年は?


「すごくキラキラしてて、上品で……名前ともすごく合ってて、素敵だなと思ったんです。

 それから何回か水やりしてるのを見てたんですけど……見てるだけじゃ、我慢できなくなって」


 一歩、近付いてきた。


「こうして、直接言葉にして伝えなきゃって!」


 さらに近付いてきた。


「どうか、僕と付き合ってください!」

「ひぇっ!?」


 ヘヴィメタバンドのヘドバンかと思うほどの勢いで頭を下げ、右手を差し出してくる東雲青年。

 あまりの潔さに一瞬尊敬すら覚えてしまった。


「って、いやいやいやいや! 何言ってるの!?」

「告白です!」

「分かってるよ! じゃなくて!」


 ゼイゼイと息を切らしながら僕は説得に当たる。


「まず第一に、僕は男だよ!」

「知ってます! 最初は男子用の制服を着てる女子なのかなと思ったんですけど、今はちゃんと男だって分かってます!」


 分かった上での告白!?


「あ、あのね、君は男でも良いのかも知れないけど、僕は相手は女の子じゃないと無理なんだよね。それに君のことも知らないし……」

「これから好きになってもらえるように頑張るので!!」


 ポジティブか!


「ええとね、僕、勉強に家事にバイトに、色々忙しいんだよね。正直誰とも付き合ってる暇はないんだけど……」

「負担にならないようにします! あ、俺勉強できるんで、教えましょうか! きっと効率も上がると思うんです!」


 ひぃぃっ! 何言ってもダメだこいつ!!


 僕が断り切れず戦々恐々としていると、突然誰かに肩をつかまれた。


「……悪いな。こいつはお前を傷つけないように色々理由付けしてたけど。本当のところは、もう俺がいるからなんだ」

「つ、努!?」


 僕の肩に腕を回し、胸板に僕の頭を押しつけるようにする努。

 一瞬僕に目線をやり、キザったらしいウィンクをして来た。


 あ、助けようとしてくれてるんだ……!


「広瀬、努……!」


 努に忌々しげな目を向けながら言う東雲くん。なんだなんだ、努はそんなに有名人なのか。


「百合園さんの正夫とは噂されてたけど、まさか本当だったとは……!」

「まってなにその噂。それと正夫ってなに」


 おおっと、たった一言で色々と爆弾が落とされたぞー?


「ま、そういうわけだ。悪いな。もう行かせてもらうぜ」


 そう言って努は僕の肩を抱いたまま歩き出した。

 チラリと告白してきた青年を見れば、悔しそうに地に手をついていた。


「いや、一体何なんだよ……」


 本当にもう頭がパンクしそうだ……。僕は泣き言を言いながら努に連行されるのであった。

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