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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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964話 獣の正義

 戦場で出会った敵の動きを分析し、予測を立て、まるで未来でも見てきたかのように先を読む。

 そんなものは所詮、空想であるが故の御伽噺と思っていた。

 事実。この姿(テミス)へと転生を果たしてから、達人と呼べるほどの実力を持った者達と幾度となく相まみえてきたが、そのような技を使う者は一人として存在しなかった。

 だからこそ、いくら数多の戦いを潜り抜けてきた歴戦の兵士といえど、ただの経験の積み重ねが異能の域に至るなどあり得ない。


「――ッ!! 貴様……予知か未来視か……その類の異能を持っているな? また女神気取りの女の差し金か?」


 ギャリィンッ!! と。

 そう判断したテミスは更に数度打ち合った後、大きく跳び下がって問いかける。

 魔法だの神モドキの放った能力者だのが存在する世界だ。フィクションじみた技術よりも、眼前の男がそういった連中の仲間であると見るべきだろう。

 だが……。


「予知に未来視……果ては女神……だとッ?」


 苛立ちの浮かんだ声で問われたシロウは、その瞳を血走らせ、憤怒の籠った声で口を開く。


「笑わせるな。それはお前の方だろう。連中より遥かに戦い慣れてやがるし、忌々しいことに覚悟も決まっている。だが、人間の癖に異様な力を持つお前の口から女神の名が出たのならば得心がいく」

「何ッ……?」

「フンッ……その驚いた顔、良い表情じゃねぇか。お前達はこの話をしてやるといつだってそんな顔をする。女神様とやらから力を授かった自分達が、無敵の聖人だとでも思っていたのか?」

「ッ……!!! まさか……」


 ニンマリと邪悪な笑みを浮かべたシロウがそう言葉を続けると、テミスは驚愕を露わにして言葉を詰まらせた。

 転生者の連中は確かに、この世界の者達とはくらべものにならない程に強力な力を持つ。

 だがそれは、無敵であったり、不可知の力によって窮地を救い出される等という保障の付いたものではない。その事実は、これまでの戦いの中で幾度となく転生者たちを屠ってきたテミス自身が証明している。


「クク……そうさ。長い事戦場に居りゃお前のような奴と遭う事だってある。だがそういった連中は得てして戦い方がなっちゃいねぇのさ」

「…………。なるほど」


 得意気に話し始めたシロウに相槌を打ちながら、テミスは胸の中で密かに得心する。

 仮に転生者たちが自分と同じ世界からやって来たのだとすれば、あれ程までの平和を享受していた連中だ……いくら強力な力があろうと、いきなり戦場に放り込んだところでただがむしゃらに力を振るう程度だろう。


「満足するなよ。傑作なのはここからだ。お前のお仲間はどいつもこいつも、口を開けば二言目には女神様だのなんだのと囀りやがる。だが……少しばかり嬲ってやりゃあそりゃ従順に言う事を聞くんだ」

「クス……だろうな」

「ッ……。悲惨なモンだぜぇ……? なにせ同胞を殺しまくってくれたんだ。たとえ便利な力を持ってようが関係ねぇ。男も女も最後は泣きながら死んでいく」

「フッ……」


 恐らくは、挑発のつもりなのだろう。

 シロウは残虐な笑みを浮かべながら、かつて自分達が捕らえた転生者の末路を朗々と語ったが、テミスはただ小さな笑みを浮かべただけで言葉を返す事は無かった。

 不快感が無い訳では無い。

 コイツの口ぶりからして、戦う力の無い転生者も大勢、虐め抜かれて死んでいったのだろう。

 なればこそ、アーサーのような人間がヤマトなどという町を作るのも至極当然な訳で。

 しかしテミスにとっては、かの町の成り立ちの一端に触れた程度の意味しか持たず、ただ平然と微笑みを浮かべて佇んでいた。


「……見かけによらず残酷な奴だな。お仲間の死に様だぞ? 大概の連中はこの話をしてやると、怒って襲い掛かってきたものだが」

「クク……お仲間? 馬鹿を言うなよ。そんな連中と一括りにしてくれるな。私はつい先日までそいつらと殺し合っていたんだぞ?」

「成る程。はぐれ者か裏切り者といった所か」

「何とでも言え。私が何者であろうと、私がお前を殺す事は変わらんさ」

「フン……どうかな……?」


 テミスは変わらぬ調子でシロウの挑発を一笑するが、同時にその瞳に冷たい光が宿る。

 到底そんな力量があるとは思えないが、転生者をも倒したと豪語する程の腕なのだ。それが真実ならば、幾多の戦場を駆け抜けたコイツはこれまでも、沢山の人間を嬲り殺してきたのだろう。

 この男の過去に、如何な悲劇があったのかなど知らない。

 だが、その悲劇に酔いしれ、罪無き者まで一括りにして恨みをまき散らすこの男は、ここで確実に殺しておくべきだ。

 そう判断したテミスが構えた大剣の柄を握り締める前で、シロウはゆらりと戦斧を構えながら昏い笑みを浮かべていたのだった。

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