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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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961話 怨嗟の行く末

 その()は、意識の外から飛び込んできた。

 確かに、倒したリュウコに止めを刺す事に、多少の忌避感があったのは間違い無い。

 何故なら、ここは彼等獣人族の戦場。私はただ、正々堂々だの大義だのと謳いながら、まるで逆の手段を取る連中に対する、個人的な感情でこの戦場(場所)に立っているだけの部外者に過ぎない。


 ――だからこそ。


 ただの部外者が、敵の中でも希少であろう多少はマシな考えを持つこの女を殺してしまう事に、薄紙程度の躊躇を抱いた。

 だが、私がリュウコを始末する理由など、戦場を見渡せばいくらでも転がっているだろう。

 仮とはいえど結んだ協力関係だ。多少気に入った敵兵等とは比べるべくもない。

 故に。

 意識を失ったリュウコの首を刈り取る程度の軽い一撃であったとはいえ、油断と言える程の好きではなかったはずだ。

 だというのに……。


「ゥ……オォォォォッッ!! 離れろォッッ!!!」

「――っ!?」


 無茶苦茶な勢いで飛び込んできた男は、振り下ろしたテミスの大剣を受け止めるどころか、崩れ切った体勢にも関わらず弾き返してきたのだ。

 しかもその威力は、大きく弾かれた大剣に合わせて跳び下がらなければ、振り下ろしたはずの大剣がこの手から弾き飛ばされてしまいそうな程で。

 その一撃に鋭く息を呑んだテミスは、跳び下がった空中でクルリと一回転すると、男の振るった戦斧から受けた威力をいなして石畳の上へと着地する。

 だがあの男は確か、私を見た途端に激高して襲い掛かってきたほどの狂戦士だ。


「クソッ……!!!」


 退けば、追撃を受ける事は免れないッ!!

 そう考えたテミスは、男の剛力を以て振るわれる戦斧を受け止める為、大剣を地面へと突き立てて盾のように構え、防御の姿勢を取った。

 だが……。


「馬鹿野郎……ッ! 傷も治り切ってねぇくせに無茶しやがって……」

「……!? はぁ……?」


 男は跳び下がったテミスなど歯牙にもかけていないかのように見向きもせず、瓦礫の中に半ば埋もれたリュウコを抱き上げ、噛み締めるように呟きながら崩れた瓦礫の無い建物の壁へとその背を預けていた。

 その、人格すらも入れ替わってしまったかのような行動はあまりにも予想外で。

 テミスは大盾のように構えた大剣の陰で、驚きに息を呑みながらも眉を顰めてその警戒を深める。


「罠か……? いや……だが武器を手放すなどあり得んだろうッ!!」


 しかし、リュウコを移動させた男は、再びゆっくりとした足取りでリュウコの埋まっていた辺りまで戻ると、彼女を抱きかかえる際に手放した戦斧を再びその手に握り締めた。

 無論。その間の男は、怒りで我を忘れる程の敵を前にして、両腕が塞がった上に一番の武器も持っていないという無防備を晒した訳で。

 その不気味なまでの異質さが、テミスに反撃の機を伺うに留まらせていた。


「フン……小賢しい人間風情が。ひとまず、襲い掛かって来なかったことは褒めてやろう」


 そして、そんなテミスの困惑に答えるかのように、男は手に取った戦斧を携えたままテミスへと視線を向けると、鼻を鳴らしながら口を開く。

 だが、テミスへと向けられた視線には、相も変わらず強い怨嗟と侮蔑が込められており、その身体から発せられる濃密な殺気が、未だ彼の戦意が欠片も削がれていない事を物語っていた。


「いきなり殺す気で斬りかかってきたお前に褒められる筋合いは無いな。それとも、お前達は初対面の相手には全力で武器を叩きつけるのが礼儀なのか?」

「囀るな。人間(ゴミ)が。不愉快だ」

「…………。ククッ……。話しかけてきたのはお前だ。斬りかかってきたのもな。勝手に突っかかって来ておいて不愉快などと……面白い冗談だ」

「っ……!!!」


 だからこそ、テミスも男も言葉を交わす事を選んだのだろう。皮肉にも、人間の鏖殺を願う男が対話を持ち掛け、理由なき戦いを厭うテミスが挑発するという形で。

 いきなり態度の変わった男と、人間離れした異様な強さを持つ化け物。互いが互いの隙を伺い、言葉を交わしながらその一挙手一投足へと意識を向ける。

 男にとってそれは、リュウコの忠告に従って断腸の思いで選択した道だった。

 彼女がああも容易く敗れた相手だ。冷静に、慎重に……。決して驕らず、事実だけを認識する。

 怒りに灼き切れそうな頭で、男は必死にそう自らを律していた。

 しかし……。


「……それで? お前は一体、どんな御大層な名目で私を殺したいんだ? ……なにせ名前も知らんような初対面だ。悪いが身に覚えが無いのでな。説明……して貰えるか?」


 テミスは氷のように冷たい冷ややかな言葉で問いかけた後、ニンマリと蝋燭の溶け歪んだかのような笑顔を浮かべると、再び男を煽り立てるような口調で問いを重ねたのだった。

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