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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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958話 剣光一閃

 テミスとリュウコ。己が武器を構え、向かい合った二人の間の空気が張り詰める。

 視界に収めた相手の一挙手一投足から敵の攻撃を予測し、それに応じた攻撃を組み立てるのだ。

 無論。互いに予測をし合えば刻一刻とその読み(・・)は変化し、ただ意識の端で蠢くざわざわとした感覚と姿を変えていた。

 だが。


「っ――!!!」

「…………」


 呼吸すら詰まりそうな緊張感の中、リュウコはその目をギラギラと輝かせ、高鳴る胸と沸き立つ血潮に凶暴な笑顔を漏らす。

 まるで、強大な力を持つ魔族や技量に長けた竜人族を前にしたかのような威圧感。

 灼け付く空気が、今も尚ビリビリと肌を焦がす圧力が、目の前の()が強大であると証明している。


「どうした……来ないのか?」

「ハハッ……!! 嬉しい事を言ってくれるッ!!」


 ボソリ。と。

 大剣を構えたテミスが静かな声で問いかけると、リュウコの背をゾクゾクと悪寒が駆け抜けていった。

 しかし、胸を満たしていたのは、未だ見知らぬ強敵と出会う事のできた幸運への狂喜のみで。

 最早リュウコの頭の中は、目の前の少女と切り結ぶ剣戟の予測で溢れており、彼女が人間であるかなどという些末な事は消え失せていた。

 そして。


「大河龍虎……いざ尋常に……推して参るッ!!」

「フン……」


 リュウコは好戦的な光を輝かせた瞳を見開いて名乗りを上げると、正眼に構えていた太刀を引き上げ、肩越しに振り上げて猛然と突進した。

 対して、テミスはただ小さく鼻を鳴らしただけで名乗りに応ずる事は無く、氷のように冷え切った眼をリュウコへと向けている。


「ハハハッ!!」

「…………」


 直後。一閃。

 猛然と突進したリュウコのが力任せに斬り下ろした太刀を、無感情に持ち上げられたテミスの大剣が易々と受け止め、轟音と火花を散らす。


「まさか受け止めるとはッ!! やるじゃないかッ!!」

「ッ……!!」


 ギシギシギシッ!! と。

 リュウコがそのまま鍔迫り合いの形でテミスの大剣を押し込むと、圧倒的な力を受けた互いの武器が軋みをあげて少しづつテミスの方へと近付いていく。

 同時に、テミスの顔から余裕の笑みが消え、その目が鋭い光を宿すと、僅かに押し込まれつつあった大剣が動きを止め、鈍い音と共に完全に拮抗する。


「なっ……ぁ……!?」


 その異様な光景に、リュウコの背後で戦いを見守っていた男は、怒りを忘れて驚愕の息を漏らしていた。

 獣人と人間。そもそも、両者が剣を以て打ち合う事などあり得ないのだ。

 身体能力に優れた獣人の振るう剣を、貧弱な膂力しか持たない人間が受け止めるなど出来るはずが無い。

 しかも、今回に至っては獣人族の中でも無類の強さを誇るリュウコの剣なのだ。

 獣人族でもまともに受け止める事ができる者の少ないその剣を、ひとたび人間などが受ければ武器ごと両断されて然るべし。

 その決着など、火を見るよりも明らかなはず……だというのに。


「っ……!! クゥッ……!!」

「ッ……!!! なるほどッ……!! 大した……剛力だッ……!! どうやら、純粋な力比べでは勝てんらしい」

「――ッッ!! よくッ……言うよッ!!!」


 僅かな拮抗の後。リュウコが振り下ろした太刀に全身の力を籠めると、再び緩やかに鍔ぜり合った太刀と大剣がテミスの方へと動き出す。

 ギリギリと押し込まれながらも、不敵な笑みを零したテミスがそう呟くと、リュウコはその背に冷たいものが走るのを感じながら言葉を返した。

 本来ならば、力で圧し潰すなんて不格好な戦い方はリュウコの好みでは無い。

 派手に剣閃をぶつけ合い、鍛え上げた肉体と磨き上げた技量を競り合うのが、本来のリュウコの戦い方だった。

 しかし。


 ――このまま圧し潰すッッッ!!!


 数多の戦いを潜り抜けてきたリュウコの直感が、この機を逃してはならないと叫んでいた。

 故に、リュウコは己が直感に従い、格好(スタイル)気概(ポリシー)もかなぐり捨て、全身全霊を懸けて太刀に力を込めている。


「クッ……!?」


 その刹那。

 圧倒的な力によって圧し込まれ、膝を付いたテミスが支える大剣の切っ先が地面を浅く抉った時だった。

 リュウコの腕を鈍い痛みが襲い、僅かにその力に緩みが生じる。

 無論。テミスがその隙を逃す訳も無く、一瞬だけ剣を圧し返した後、全身の力を使って後ろに退くと、鍔迫り合いから脱して嗤いを零した。


「ククッ……!! よもや手負いでこれほどかッ……!! 見事だ」

「チィッ……!! ッ……!?」


 同時に、テミスを逃したことを悟ったリュウコが太刀を構え直すが、不敵な笑みとを浮かべて告げられた言葉と共に、ゆらりと振り上げられた大剣を見て息を呑む。

 掲げられた大剣の刀身は白く染まり、一目見ただけで凄まじいエネルギーが込められていると理解できた。

 問題は、いつの間にそんな力を溜め込んでいたのかだが……。


「その武勇に敬意を表して名乗ってやろうッ!! 我が名はテミス!! この一撃、心して受けろォッ!!」

「参ったね……」


 白く輝く大剣を振り上げたテミスが吠えるように名乗りを上げた前で、リュウコは己が全力を太刀へと込めながら、目を見開いて呟きを漏らした。

 直後。

 テミスの大剣が空気を裂いて振り下ろされると同時に、三日月状の斬撃がリュウコへ向けて放たれたのだった。

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