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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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952話 渾身の切り札

 空気が灼け付いている。

 凄まじい緊張感の中で言葉を交わすムネヨシとオヴィムの姿を見守りながら、シズクはただ息を殺していた。

 センゴク様が裏切り、周囲を包囲された囲いの中には、選りすぐりの腕を持った兵達がそこかしこに蠢いている。

 事は既に、私たちだけで切り抜ける事ができる段階を過ぎてしまった。

 だからこそ、ムネヨシ様は協力関係にあるテミスさんの力を当てにしている。けれどそれ故に、ギルファーの名の下に集う者として、立てねばならぬ義理がその存在を秘匿させているのだろう。


 けれどその一方で。

 このオヴィムと名乗った冒険者にとって、私達は関わりすら持たない見ず知らずの他人なのだ。

 そんな我々がいくら必死に真実を語ったところで、スラムの者達の命を預かり、冒険者たちの指揮を執る彼が、私達を受け入れられないのも無理は無いのだろう。


「スゥッ……」


 ドクドクと早鐘を打つ心臓がうるさい。

 意図して深く吸い込んだ息が、体の隅々まで行き渡るような感覚。

 そんな中……。

 ――テミスさんは、こんな事態になる事すらも予見していたのだろうか?

 シズクの脳裏をふと、一つの疑問が駆け抜けていった。

 誰もが、こんな事態になるなどとは欠片も考えすらしなかったあの段階で、テミスさんはただ一人それに気付き、私に言伝を託した……?


「クス……」


 否。それは無い。

 ふと考えただけでも、ゾクリと背筋が凍えるような一抹の疑問を、シズクは小さな笑みを浮かべて即座に否定する。

 この言伝を預かった時、テミスさんは万に一つの保険だと言った。

 それに、私は知っているはずだ。

 いくら卓越した能力を持ち、凄まじい強さを有していたとしても、テミスさんはファント(あの町)に生きるただの人間であると。

 ならばきっと、これは目先の大義に熱を上げ、己が目を曇らせた私達が取り零した一つの可能性なのだろう。

 ほんの少し冷静に、あと僅かに深く思案していれば……あるいは気付けたかもしれない可能性。

 だから彼女は、きっと保険(・・)なんていう言い方をしたのだろう。

 だったら、私にできる事はただ一つ。

 テミスさん(誇らしき友人)の信頼に全力で応えるのみ。


「…………」

「…………」

「っ……」


 シズクはそう改めて胸の中で決意を固めると、溢れ出た思いが凛とした表情を形作る。

 その眼前では、僅かな沈黙の間に薄れた驚愕と、進み出たまま黙り込むシズクへの困惑が混ざった表情を浮かべるオヴィムが、黙したまま続く言葉を待ち続けていた。


「シズクには故あって力を貸している。恐らく、私では間に合わんだろうからよろしく頼んだ」

「なっ……!?」

「っ……!?」


 そして、シズクが言伝を語り始めるや否や、そのあまりに砕けた内容に、眼前のオヴィムも背後のムネヨシも驚愕の息を漏らしていた。

 確かに、こんな言い回しはとても彼女らしいと言えばそれまでなのだが、伝える側のこの異様なまでの気まずさは、やはり覚悟を決めていても心が軋みそうになる。

 しかし、シズクは目尻に涙を浮かべながら気を取り直すと、最早脳裏に浮かぶテミスの口調すらも真似て、半ばやけくそ気味に残りの言伝まで語り切るべく言葉を続けた。


「さて……一応、私の縁の者である証拠に追伸だ。双竜双牙……素晴らしい奥義ではあったが、私はその先へと辿り着いたぞ? とても面白い思い付きだ。では、我が親愛なる(つい)たる竜の再会を待つ。……です」


 しぃん……。と。

 シズクがテミスからの言伝を語り終わると、その場に恐ろしい程の沈黙が訪れる。

 ともすれば、今もどこかで切り結んでいるであろう戦友たちの剣戟の音までもが聞こえてきそうで、シズクは急速に沸き上がる羞恥に顔を火照らせると、呆気にとられたような表情を浮かべているオヴィムから視線を逸らした。


「っ~~~!!!!」


 でもこれが、今の私にできる精一杯の事だ。

 シズクは顔から火が出そうな程に羞恥に身を焦がし、心の中で涙を流しながらも、そう確信していた。

 恐らくこれが、オヴィムさんにこちらの意図を伝え、かつムネヨシ様の義理も通し、そしてテミスさんの信頼にも応える唯一の方法のはずだ。


「……私達は敵ではありません。どうか、ご助力を……」


 しばらくの沈黙に耐えた後、シズクはオヴィムの真正面から一歩後ろへ退くと、未だその頬に赤みを残したまま、深々と頭を下げて言葉を紡ぐ。

 だが、冷静沈着な態度とは裏腹に、頭を下げたシズクの心臓は、狂ってしまったかのようにバクバクと早鐘を打っていたのだが……。


「フッ……クククッ……ハァ~ッ……ハッハッハッハッ!!!!」


 突如。

 そんなシズクの緊張感を吹き飛ばすかのように、オヴィムの大きな笑い声が沈黙を打ち砕いたのだった。

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