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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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951話 託された言伝

 部隊の拘束。

 それはオヴィムにとっても、熟慮の末に捻り出した苦肉の策だった。

 この場所は、冒険者たちを束ねる臨時指揮所と化している冒険者ギルドまであとわずかの地点だ。オヴィム達としてはそんな所まで肉薄した所属不明部隊を、野放しにする訳には断じていかない。

 その場合、最も手っ取り早く確実な手段として間違いが無いのは、この三人を始末してしまう事だろう。

 だがあくまでも攻められたから守っているだけのオヴィムとしては、自らの常識と良識に照らし合わせて、また一介の冒険者の心構えとしても、殺人とは厭うべきものであった。

 故に、ムネヨシ達の身柄を拘束する選択は、一種の落し所だったのだ。


「……それは、我々を信じ得ぬと?」

「っ~~~!!! …………すまない」


 静かに、そして呟くような重たい口調で告げられた問いに、オヴィムは固く食いしばった歯の隙間から答えを絞り出す。

 ここはギルファー。ファントではないのだ。あのテミスが入れ知恵をしているのであらば兎も角、そうそう指揮官が最前線に出張っているなど世迷言にも程がある。

 同時に、最も仇となったのは彼等の戦力の低さだ。

 仮に救出作戦が本当だとしても、怪我人と共に転がり込んできた敗残兵に何ができるとも思えない。

 オヴィムは冒険者たちの命を預かる者として、破れかぶれの強行軍に付き合う訳にはいかなかった。


「我等が攻め落とされぬ限り、貴君らの安全は保障する。だから……」

「…………」


 苦し気にそう告げるオヴィムの前で、ムネヨシは言葉を返す事無くただ静かに佇んでいた。

 しかし、その内心は荒れ狂う嵐の如く慟哭と悲嘆が渦巻いており、圧し掛かる絶望と無力感が、視界を黒く染め上げていくような錯覚すら覚えた。

 いつだってそうだ。ギルファーの行く末といい、今回の作戦といい、窮状を切り抜ける糸口は見えている。

 だというのに、何故私の手にはそれを為す事のできる力が無いッ!!


「ッ……!!!」


 ぎしり。と。

 長年胸の内に溜め込んだマグマのような感情を飲み下しながら、ムネヨシは口惜しさに固く歯を食いしばった。

 我々三人の安全が保障されたところで意味は無い。今この瞬間に打って出なくては、妄執に駆られた過激派の連中と蒙昧なセンゴク達によってこの国は爆ぜ砕けてしまう。


「っ……!! 止せ。私に貴君らと戦う意思は無いっ!!」

「…………」

「ムネヨシ様……ご随意に」


 ムネヨシの震える手がその胸の中の激情に従ってゆっくりと持ち上がり、腰に提げられた刀へと向かっていく。

 いち早くそれを察知したオヴィムが鋭い声で警告を発しながら身構えるが、同時にムネヨシの後ろから進み出たカガリが刀を構えて静かに告げる。

 今、ここでやるしかないのだ。

 力づくにでもこの場を掌握し、唯一真実を知る我等の手で同胞たちを救い出さねば。

 誓ったはずだ。滅びへと突き進むこの国を救うのだと。


「クゥッ……!!! 結局ッ……!! こうなってしまうのかッ……!!!」


 ムネヨシの刀の鯉口が、キン……という軽い音を発しながら切られるのを見て、オヴィムもそれに応ずるべく自らの太刀へと手をかけた。

 オヴィムとて、戦いたくは無い。だが、刃を向けるのであれば、刃を以てそれに応じなくてはならない。


「何故だッ……!!」

「……何故」


 最早止まる事は無い。そう確信した二人の男の、苦渋に満ちた呟きが重なった時だった。


「待って下さい」


 チリチリと灼け付くような緊張感が満ちる中、凛と響く声と共に、刀を腰に収めたままのシズクが前へと歩み出る。

 その溢れんばかりの涙を湛えた瞳には、覚悟の光が煌々と宿っていた。


「シズクッ……!? 何を――」

「――カガリは退がっていて。ムネヨシ様もです」

「っ……!!!」


 一歩。また一歩と。

 シズクは自らの口を開きかけたカガリを制した後、武器を手にしたオヴィムの目をしっかりと見据えて、ゆっくりとその距離を詰めていく。

 その堂々たる様子は、かつて屋敷を護らんと刃を交えた時のテミスを見ている様で、オヴィムは思わず、シズクの纏う気迫にゴクリと生唾を呑み込んだ。

 そして。


「オヴィムさん。貴方は、アルスリードさんの護衛であるオヴィムさんで間違い無いですね?」

「ムゥッ……!? い、如何にもッ……だが何故っ……お主がそれを……ッ!?」

「…………。私の友人から、貴方へ言伝を預かっています」


 シズクは素早く周囲へと視線を走らせてから、驚きの表情で凍り付いたように動きを止めるムネヨシとカガリを一瞥する。

 その後、シズクはゆっくりとその視線をオヴィムへと戻すと、静かに口を開いたのだった。

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