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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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948話 見定める者達


「オヴィム。こっちだ」

「ウム」


 同時刻。

 路地の行き止まりで腰を下ろし、休息を取っているシズク達の周囲には、彼女たちを密かに取り囲み、監視している者達が居た。

 このスラム街は今、戦場と化している。そんな中を狂った魔牛の如く縦横無尽に駆け巡ったのだ、この町を護る者達に補足されない方が不思議である。

 だが、そんなシズク達がこれまで、スラムの者達からの攻撃を受けなかったのは、皮肉にも先程の戦いの所為で損耗した、その少なすぎる戦力の為だろう。


「っ……あそこだ。……どう思う?」

「フゥム……」


 冒険者の一人に導かれ、前線へと辿り着いたオヴィムは、シズク達の姿を見ると、喉を鳴らして深く息を吐いた。

 あれでは、前線を担う冒険者たちが困惑するのも無理は無い。

 敵と思わしき格好の者達ではあるが、とても敵だとは思えない。判断を乞う。

 連絡を受けた当初は、頓珍漢極まる内容の呼び出しに苛立ちすら覚えたオヴィムではあったが、その姿を認めてようやく得心を得た。


「確かに、数が少な過ぎる。それに……一人は怪我人ではないか」

「あぁ。それだけなら斥候の可能性も捨て切れねぇんだが、町中を走り回って欠片も隠れる気がねぇと来てやがる」

「……巻き込まれた市民では無いのか?」

「それはねぇ。見ろよ……服装や装備はギルファーの正規兵なんだ」

「なる……ほど……」

「な? 困るだろ? 現に連中、敵である俺達がこうして見ているってのに暢気に腰を下ろして休憩ときてる」

「休憩……か。フッ……クク……そうだな……」


 オヴィムは眉を顰めて困惑を露わにしながらも、的確に報告を続ける冒険者の言葉に僅かに頬をほころばせると、その穏やかな視線をシズク達へと向ける。

 そういえば以前、敵であると理解していながら酒を持ち込み、その敵をも巻き込んで酒盛りを始めようとした奴が居たな……。

 そんな冒険者の言葉に、オヴィムはふと、自らの記憶を彩る白銀の戦姫の顔を思い出した。

 勇猛かつ奇策と噂に名高い彼女であれば、たとえこうして敵に見定められた窮地であろうと、酒宴の一つくらいは開いてみせるだろうが。


「……どうする? 斥候に出ていた奴等の話では、どうも連中は仲間割れを始めたみたいだって話だが」

「敵意が無いのであれば、傷付けたくは無い……か」


 冒険者の男は思案するオヴィムの顔をチラリと横目で眺めると、酷く持って回った言い方で言葉を重ねる。

 粗暴な者こそ少なくないが、冒険者というのは元来、自由と歓楽を尊ぶ者達だ。

 だからこそ、請け負った依頼や自らの生活の肥やしにならない殺しは厭うし、叶うならばこんな戦争の真似事をするよりも、酒を飲んで笑っていたいのだろう。

 しかし、目の前に居るのはいくら無害に見えるとはいえ、敵の格好をした者達なのだ。そう易々と信ずるわけにはいかない。

 ファントを発って以来、冒険者としてそれなりの活動をこなしてきたオヴィムには、そんな冒険者たちの葛藤がよく理解できた。


「あぁ……。だが、今ギルファーのギルドに居る冒険者の中で、一番実力があるのはアンタだ。だから今回ばかりは、どんな判断だろうと俺達は従うぜ」


 オヴィムが冒険者の男の内心を言い当てると、男は僅かに頬を赤らめながら視線を逸らすと、腰に提げた短剣へと手を伸ばす。

 それは、明らかに照れ隠しではあったが、同時にオヴィムは彼の言葉の裏に潜んだ決意の固さを感じ取っていた。


「フゥ……。何もこうして見ているだけでは始まるまい」

「ッ……! やるのか……?」

「いや……相手は獣ではないのだ。まずは話してみよう」

「連中の前に姿を現すのか……? 流石に無茶だッ!」

「それで襲い掛かってくるのならば致し方なし。敵と見做して切るまでよ」

「いや……でも……よォ……」


 意を決して口を開いたオヴィムに、冒険者の男はどこか歯切れが悪いものの、何やら口の中でゴニョゴニョと呟いながら食い下がる。

 だが明後日の方向へと泳いだ視線は、しきりに傷付いた猫人族の少女と、その傍らで身体を支える少女へと向けられていた。


「フッ……ククッ……。解った解った。見目麗しい女子であるからな……善処はするさ」

「バッ……!! 違ぇって!! その……怪我してるのが可哀そうだなぁ~って思っただけだっつぅの!」

「フフ……女に甘いのは美徳だが……気を付けろよ? この世には悪鬼羅刹が如き強さを誇るくせに、見惚れる程の美貌を持つ女も居るのだからな」

「何じゃそら。まるで噂の血濡れの戦姫様じゃねぇの。ホントに居るのなら是非お会いしたいものだぜ」

「…………。存外、近くに居るかもしれんぞ?」


 オヴィムは低く喉を鳴らして笑いながら冒険者の男と軽口を交わすと、シズク達の元へと向かうべくゆっくりと足を踏み出したのだった。

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