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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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947話 信頼の足跡

 凍り付いた血だまりを後にしたシズク達は、迷路の如く入り組んだスラム街の中を駆け回っていた。

 しかし、行き止まりや回り道など、入り組んだ地形も相まってただただ体力を消耗するばかりで、未だ目的地である冒険者ギルドを見つけ出す事はできていなかった。

 そして、数回目の行き止まりに突き当たった時。

 遂に先頭を駆けていたシズクは荒い呼吸を繰り返しながら足を止めると、突き当たった壁に拳を付いてその場にしゃがみ込んでしまう。


「っ……!! シズクッ!!」

「ッ!! ……。フゥッ……フゥッ……」


 姉の異変に、最後尾を駆けていたカガリは即座に隊列を崩して飛び出すと、しゃがみ込んだシズクの身体を受け止めるようにして傍らから支えた。

 一方で、ムネヨシは息を乱しながらもその様子を確認した後、自身は静かにシズク達に背を向け、カガリが負っていた役目である周囲の警戒を引き継いで取り掛かる。


「ゼェ……ゼェッ……!! どうしてッ……!! ギルドはもう近い筈……なのにッ!!」

「シズク。お願いだから無茶はしないで! 一度少し休んで私たちにも訳を聞かせて?」

「そんなッ……!! 暇はッ……!!」


 シズクの身を案じたカガリがそう告げるが、シズクは頑なな態度で彼女の提案に首を振ると、息も整わぬままに再び立ち上がろうともがく。

 今、こうしている間にも、仲間達は危機に瀕しているのだ。

 だというのに、この程度の辛さや苦しさで私だけが休んでいては、命を懸けて戦っているであろう同胞たちに顔向けができないッ!!

 胸の中に滾る思いを力に変え、シズクは悲鳴を上げる身体に活を入れると再び立ち上がる。

 しかし、ガクガクと震える膝や虚ろな瞳、そしてじんわりと血の滲み始めた肩口の傷を見れば、体力を消耗している彼女が既に限界なのは、誰が見ても一目瞭然だろう。


「フム……カガリの言う通りだ。一度休息を取ろう。それに恐らく……このまま無策に走り続けても無駄であろう」

「ムネヨシ……様……?」

「複雑に入り組んだ道筋に隠された路地。フッ……かつては我等獣人族を守護していた街並みが、今や我等に立ちはだかっているとは……。皮肉な話だ」


 周囲を見渡しながら、ムネヨシはゆっくりとした足取りでシズク達の側へと近付くと、彼女たちから数歩離れた石畳にドサリと音を立てて腰を下した。

 事実。ギルファー全盛の時代に建てられた町の外縁部には、多少の利便性を犠牲に万が一外敵が侵入した際の対策が施されている。

 だがそれが故に、人口が減った今では不便な区画に好んで住み着くものは少なく、こうしてスラムと成り果てている訳だが。


「それよりもシズク。聞かせては貰えないか? お前が何故、我等の目指す地が近いと確信しているのかを」

「っ……フゥッ……ハァッ……!! 畏まり……ました……」


 腰を下ろしたムネヨシが穏やかな口調で続けると、苦しみに歪んだ表情を浮かべていたシズクも、ガクリと頷いて再び腰を下ろす。

 尤も、シズクの場合は再び崩れ落ちるといった具合であり、傍らでカガリが体を支えていなければ、そのまま地面に倒れ伏す羽目になっていただろうが。


「……あの血だまりは恐らく、最初に姿を眩ませた四人のものでしょう」


 そして乱れていた息が落ち着くと、シズクはムネヨシの問いに答えるべく、ゆっくりとした口調で自らの推論を語り始めた。


「私がテミスさんを連れて来た日の翌日です。私が宿へテミスさんを呼びに行ったら、彼女はまだ微睡んでいたようでした」

「フム……?」

「そして、その後のテミスさんの足取りを追う中で不可思議な噂を聞いたのです。冒険者ギルドに程近いとある酒場で、店に居合わせた全員に酒を奢った女性が居た……と」

「あぁ……確かにありました。剛毅な方も居るものだ……としか思いませんでしたが」

「それだけならば、私もカガリと同じ感想しか抱かなかったと思います。ですが、その女性の羽織っていた外套はミズチの皮で拵えられた高級品との事」

「……なるほど。シズクが贈ったという例の外套だという訳か」


 シズクの口から並べられた理由は、一見すれば何の関連性も無く、てんでバラバラにも思えるものだった。

 その並べられた情報全てには、テミスであると思われる人物が関わっているのも事実ではあったが、先程の血だまりとギルドを結びつけるには未だ至らず、カガリとムネヨシはシズクへと視線を向け、無言で話の続きを促している。


「はい……。そしてその外套を羽織った女性には、大男が一人と子供が一人、席を共にしていたとの事。ですがテミスさんはあの日ギルファーに来たばかり。既知の知り合いがいるとは思えません」

「つまり……」

「助けた……のでしょう。その大男と子供を先程の場所で。過激派の者達を切り捨てて」

「まさか。確かにそれなら道理は繋がるけど、いくらなんでもこの町に着いたその日に人を切るなんて……」


 常識的に考えればあり得ない。

 そう考えたカガリが思わず口を挟んだのも無理は無いだろう。

 シズクの推論通りなら確かに説明は付くが、あの時のテミスの立場を考えれば、不用意な行動は控えるはずだ。

 町を散策した折にスラム街へ迷い込んだだけならばまだしも、他国の兵士を四人を相手取るどころか、その手にかけるなど自殺行為に等しい。

 だが。


「そういう人なんです。テミスさんは。だから私は、あの人に助けを求めたんです」


 小さなため息とともに首を傾げるカガリと眉根を潜めるムネヨシに、穏やかな笑みを浮かべて見せると、胸を張ってそう言葉を添えたのだった。

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