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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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945話 終わらぬ地獄

 一方その頃。

 ムネヨシ達が突入を敢行した戦場では、悲鳴と剣戟の音が鳴り響いていた。

 前方からはリュウコ率いる迎撃部隊が迫ってきており、気が付けば後方で敵の増援に応じていた筈の味方は影も形も無い。

 周囲を完全に包囲された絶望的な状況の中でも、融和派の兵士たちは一人の頭目を中心に辛うじて全方位からの攻撃に応ずる事のできる円形陣を組み上げ、驚異的な抵抗を見せていた。


「報告ッ! 北方、第二中隊被害甚大ッ!! 抑えきれませんッ!」

「西方、第四中隊損耗率拡大ッ!! 援護要請ですッ!」

「ッ……!! 北方ッ! 第一中隊から一個小隊を抽出! 救援を回せ! 西方は牽制攻撃と共に後退ッ! 防衛線を下げろッ!!」


 その中心では、次々と押し寄せてくる被害報告に、一人の男がギリギリと歯を食いしばりながら指揮を飛ばしていた。

 彼の名はミチヒト。他種族と積極的に関わり合い、友誼を結ぶことを是とするムネヨシとは袂を分かってはいるものの、先だって行われた会議の中では、冒険者たちを逃がすべく事前に情報を伝える案をあげるなど、消極的ながらもムネヨシと近しい志を持つ者だった。

 そんなミチヒトは、武功によって立身出世を遂げた頭目たちの中でも異例の経歴を誇り、元は救命団を自称する薬師の部隊を率いていた。

 故に、華々しい戦果こそ持たないものの彼の率いる部隊が破れたことは一度も無く、仲間達は敬意を込め不敗の将と密かに呼び慕っているのだ。


「ミチヒト様ッ!! ご再考をッ!! これ以上我等の中隊から増援を抽出すれば、本隊を……御身を護る兵が居なくなってしまいますッ!!」

「構わないッ!! 今はこの窮地を耐え凌ぐ事だけを考えろッ!! どうせどこか一点でも突破されれば全滅なのだッ!! 自愛を捨てろッ! 今こそ友の為奮起せよッ!!」

「っ~~~!! ハッ!! どうか……ご武運をッ!! 抽出小隊、我に続けェッ!!」


 ミチヒトが彼の傍らで控えていた女将兵の進言を却下すると、女将兵は固く拳を握り締めた後、己が主に深々と頭を下げて飛び出していく。

 その後ろに続く兵達もまた、女将兵の後を追う前に、その目に溢れんばかりの涙を湛えてミチヒトに腰を折っていった。


「クッ……ムネヨシッ……!! まだなのかッ……!! 何をやっているッ……!!!」


 側仕えさえも戦場へと送り出し、ミチヒトの周囲には夥しい数の負傷兵とそれを癒さんと奮闘する薬師しかいない。

 しかし、ミチヒトは歯を食いしばり、固く握り締めた拳から血を滲ませながらも、その瞳から光が消えてはいなかった。

 早々に突貫を試みた頭目の部隊を吸収した急造の部隊だ。全方を包囲された状態で、未だ堪えているのは奇跡以外の何者でも無いだろう。

 何故なら、既に部隊の損耗率は百パーセントを優に超え、本来ならばその圧倒的な戦力差に轢き潰されていて然るべきなのだ。

 だが、幸か不幸かミチヒト達は薬師の部隊。傷を癒し、痛みを忘れさせる薬をも彼等は有している。

 各種秘薬を用いた、傷付いた兵を即座に癒しての復活(ゾンビ)戦術。それこそがこの驚異的な粘りの正体だった。


「治療を施した兵は即座に西方の第四中隊に合流ッ!! 何としても圧し返せッ!」

「ぅ……ぁ……っ……」


 ミチヒトはそう指揮を下した後、即座に間近の負傷兵へと駆け寄ると、手早い動きで治療を施していく。

 しかし、その最中。

 うわ言のように口を動かした負傷兵はその瞳から大粒の涙を零すと、まるで糸の切れた人形のようにカクリと脱力してその動きを止めた。

 その身体の至る所には夥しい量の包帯が巻かれ、彼が幾度となく戦場に出ては傷付き倒れ、再び立ち上がってきたのを物語っている。


「グッ……ッ!!! クソォッ……!!!」


 だが、いくら奇跡を起こす薬師といえど、事切れてしまっては手を施す術など無く、ミチヒトは力を失った負傷兵の傍らで、固く握り締めた拳を石畳へと叩きつけた。

 これまで幾度となく、絶望的な戦場を渡り歩いてきた。

 猛追してくる敵から撤退する為に腕を振るい、消え逝く命を……傷付き動かぬ体で死を待つばかりの兵に、最期の意味を与えた事など何度もある。

 その誰もが、涙ながらに感謝したのだ。

 死に逝くと理解しているはずなのに。笑顔を浮かべて。

 ――護らせてくれてありがとう……と。

 だからこそ、ミチヒトはたった今事切れた彼が、名も知らぬ彼が伝えたかった末期の言葉も理解できる。出来てしまう。

 そんな地獄を無くすために、俺は頭目に名乗りを上げたはずだったのにッ……!!!


「救援はッ……ムネヨシはまだなのかッ……!!!」


 ゆらり。と。

 ミチヒトは声なき慟哭をあげてから立ち上がると、苦し気にうわごとを呻くように言葉を零しながら、次なる負傷兵の元へと歩み寄っていったのだった。

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