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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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943話 死出の凱旋

 一方その頃。

 兵士たちの出払った融和派の拠点である館の玄関ホールでは、酷く退屈そうな様子で刀を抜いたテミスが一人、ぼんやりとその刀身を眺めていた。

 つい先ほどまでは、手透きなのを良い事に、そこそこの広さがあってかつ温かいこの場所で素振りなんかをしてみていたのだが、どうにも不安感に似た心のざわめきが邪魔をして、集中する事ができていなかった。


「心配……なのか? シズク達が……? いや……」


 テミスは抜き放った漆黒の刀身をぼんやりと眺めながら独りごちると、改めて頭の中で現在の状況を思い返す。

 確かに今回の作戦は、一歩間違えば融和派の者達が全滅しかねない危険な作戦だ。

 だが、予測される敵の陣形を鑑みれば勝算は十分。冒した危険に吊り合って余りある成果が出せるだろう。


「ならば……なんだ……? この嫌な予感は……。私は一体、何を見落としている……?」


 ボソリと呟かれた言葉と共に、黒光りする刀の峰に映り込んだテミスの顔が思案に歪む。

 こういった時はたいてい、何か想定外の良くない事が起こっていると相場が決まっているものだ。

 だが、前線に出ている訳でも無く、情報を報せる伝令すら居ない今のテミスでは、ただ延々と頭を悩ませることしかできなかった。

 そんなテミスが、遂にはホールの床にドカリと腰を下ろし、うんうんと唸り声をあげ始めた頃だった。

 ガシャガシャと鳴る鎧の音が、ゆっくりと戸口の方から近付いてくる。


「ん……? 随分と早いな? もしや……奇襲を仕掛けて尚敵兵に打ち勝てず、尻尾を撒いて逃げ帰って来たか?」


 その音にピクリと顔を上げたテミスは、いつまでたっても捻り出せぬ妙案に落し所を見付け、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべて刀を収めた。

 もしも、早々に敗走を決め込んできたのなら、悔しがるシズク達をどうやって揶揄ってやろうか。

 いや、そもそもその前に、スラムを落されては困るのだ。ならば遺憾ながら、まずは敗走したシズク達の尻拭いをしてやるのが先だろう。


「クク……一体どれほどの貸しを作らせる気だ……?」


 既に間近まで近付いた鎧の音を聞きながら、テミスは喉を鳴らして満面の笑みを浮かべると、逃げ延びてきた敗残兵たちを迎えてやるべく戸口へと向かった。

 そして、テミスが戸口まであと数歩といった所まで辿り着いた時、ギシギシと軋む音を響かせながら、ゆっくりと玄関扉が開け放たれる。


「っ……!?」

「んん……? あぁ……そういえば、まだ……貴様が居たんだったな」


 しかし、開け放たれた扉の向こうにはテミスの予測していた面々は居らず、随伴の兵に扉を開けさせたセンゴクが一人、酷くつまらなさそうな顔をしてテミスの前に立ちはだかっていた。


「……作戦はどうした? 忘れ物でもしたか?」


 ゴクリ。と。

 テミスは警鐘を鳴らし始める自らの思考に従って、皮肉気な笑みを浮かべて数歩後ずさる。

 同時に、素早くセンゴクの後ろへと視線を走らせるとそこには、大した傷も無い兵士たちが数十名ほど、青い顔をして整列していた。


「フン……白々しい。貴様が唆して決行させた作戦は当然失敗したわ」

「何だとッ……!?」

「黙れこの売女め。貴様が過激派の連中に報せていたのだろう? 果敢に攻め込んだ者達は皆、待ち構えていた強者どもに殺られたわ。目論見通り(・・・・・)にな」

「ッ……!!!!!」

お陰で(・・・)、残ったのはワシ等一握りの者達のみ。だからあれ程手を出すべきではないと忠告してやったというのに……」


 ニンマリと下卑た笑みを浮かべたセンゴクがそう告げた瞬間。テミスは奥歯がギシギシと悲鳴をあげる程の力で歯を食いしばった。

 同時に、全てを理解する。

 胸の中に渦巻いていた言い知れぬ不安感の正体と、今のシズク達の窮状を。この眼前の喋る肉塊がしでかした、見下げ果てた所業を。


「ホレ。理解したのならばさっさとそこを退いて去ね。こうしてワシが戻ったからには、貴様のような畜生に、二度とこの館の敷居を跨がせる訳にはいかんのだ」

「…………ェ」

「あァ……? 何か言ったか? 己が罪を悔い、奴隷として償うというのならば……多少は考えてやらんでも無いが……」


 まるで無視でも追い払うかのような手ぶりをテミスへ向けながら、センゴクは上機嫌な高笑いと共に宣告を突き付ける。

 黙り込んだテミスを前にそのような暴挙を行えたのは、勝ち誇ったが故の慢心か……それとも、多くの配下をその背に従えているという自負からか。

 だがだからこそ、センゴクは見落としたのだろう。俯いたテミスの手が、流れるような動きで腰に提げられていた刀へと向かったのを。

 その直後……。


「薄汚い口でそれ以上囀るなと言ったんだッ!! この畜生以下のド腐れ外道がァッッッ!!!」

「ボ――ぎュ……ッ!!??」


 鬼気迫る怒声が轟くと同時に、背後の兵達すら気付かぬほどの神速で抜き放たれたテミスの刀の峰が、メシメシと鈍い音を響かせて、真正面からセンゴクの顔面を打ち据えていたのだった。

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