表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

974/2322

941話 夢幻の邂逅

「ハァ……やれやれ。やぁっとまともな戦いができるかと思えばコレかい……。拍子抜けだねぇ……」


 鈍重な風切り音と共に振り切った太刀を担ぎ上げると、リュウコは眼前で逃げ出していく兵士たちの姿を呆れたように眺めながら、うんざりとした口調で呟きを漏らした。

 その間にも、猛々しい口上と共に襲い掛かって来た融和派の兵士たちは、涙と鼻水をまき散らしながら逃げ去っていく。


「これならまだ、冒険者達(アッチ)側に行った方が愉しかったねぇ……。何やら手強いのが居るらしいじゃないか?」

「フン。珍しくこんな戦場に顔を出したかと思えば……軟弱な融和派の連中に何を期待しておる」

「別に? そもそも、アタシは今回の件だって乗り気じゃないんだ。こうして来てやってるだけでも感謝して欲しいね」

「ほざけ。戦狂いめ。その慢心の所為でつい最近、痛い目を見たのを忘れたか」

「慢心……? いいや……。アレは確かに、全力だったさ」


 リュウコが垂れ流すぼやきに、傍らで大きな戦斧を振るう男が耐えかねたように口を挟む。

 しかし、リュウコは話し相手を求めていたのか、たちを肩に担いだ格好のまま、男の言葉に答えを返していった。

 だが、数度言葉を交わした後、吐き捨てるように告げられた男の言葉に、龍子は口を閉ざして利き腕へと視線を落とす。

 そこにはつい先日、遥か南の地で出会った戦士に付けられた刀傷がはっきりと刻まれていた。


「あぁ……あの戦いは良かった。だからこそ……また戦えるかもしれないとここへ来たのに……」

「お前は……またソレか。猫宮ッたらあの猫宮家だろ? 謀られたんだよ、お前は」

「それならそれでも良いさ。アタシはあの戦いお陰で……久々にこんな熱い気持ちを思い出したんだからね」

「付き合い切れん。元よりそのケはあったが、任務から戻って来てからいっとう酷いぞ」


 灰色一色で塗り固められたかのような空を見上げながら語るリュウコに、男は言葉と共に呆れ果てたように大きなため息を吐いた。

 それでも、リュウコはただゆっくりと空から視線を下しただけで、この場が戦場とは思えぬほどにのんびりとした態度は変えなかった。


「アンタも、戦ってみりゃわかるさ。それにしても、相も変わらず退屈だねぇ……この国は……。ンッ……?」


 こんな、一方的な戦いなんて何の価値も無い。

 せめて、相手が腹立たしい人間であればまだ幾ばくかはマシなものの、自分達と同じ獣人族……しかも弱者に向けて刃を振るった所で何の意味があるのか。

 そんな辟易とした気分を、深いため息と共に言葉に乗せて吐き出した時だった。

 ふと、視界の隅に、この瞳に鮮烈に焼き付いている戦士の姿が過ったように見え、リュウコはパチパチと何度も目を瞬かせた。


「……どうした?」

「ッ……ククッ……。いや、何でもない。何でもない……が……」


 リュウコは怪訝な顔で問いかけてくる男に、口元にニンマリとした笑みを浮かべながら言葉を返すと、不意にその足をピタリと止める。

 その路地の端……崩れかけた建物の傍らには、まるでついさっきまで怪我人がそこに居たかのように、てかてかと光る血だまりが輝いていた。

 それを、視線だけを動かして見たリュウコは、大きく息を吸い込んで怒鳴り声をあげる。


「あ~……あッ!! 本ッッッ当!!! にやってらんないよッ!! 汚い裏切りに弱い者虐め。獣人族の誇りは何処へ消え去ったんだかッ!!」

「ッ……!! オイッ!! 流石のお前といえど言葉が過ぎるぞッ!!」

「だってそうじゃないかッ! 今回だってあの融和派のセンゴク……だっけ? アイツが余計な事しなけりゃ、もっと楽しめただろうにさァッ!!」

「リュウコ。喋り過ぎだ! それに連中の奇襲を受ければ、失われるのは我等が同胞の命なんだぞッ!」

「……元々、そういうモンだろ? アタシ等はさ。強けりゃァ生き残り、弱けりゃ負けて死ぬ。それに、同胞の絆だの誇りだの言いながら、こうして同族にも喜んで刀向けてりゃ世話ないってのッ!!」

「っ……!! 急にどうしたッ!? 気持ちは判らんでも無いがここは戦場だぞ! 時と場所を考えんかッ!」


 周囲の喧噪すらも掻き消すような大声で怒鳴り始めたリュウコに、見かねた男が遂に戦斧を手放してその肩を掴んだ。

 だが、リュウコはニンマリとした笑みを浮かべたまま、明後日の方向へ視線を向けたまま言葉を続ける。


「いーいじゃないか! 愚痴ぐらいッ! アタシ等はどうせこのまま突き進んで、邪魔な融和派連中を叩き潰せって話なんだから。誰が聞いていようと関係無いだろッ!?」

「っ……!! リュウコッ……!! まさかお前ッ……!!」

「ハン……。…………」


 続けられたその言葉に、男は顔色を変えて飛び退き、手放した戦斧を拾い上げた。

 その姿に、リュウコは小さく鼻を鳴らしただけで、自らの太刀は肩に担いだまま微動だにしない。

 そして、僅かな沈黙の時間が続いた後。


「……フム。やっぱ気の所為かね」

「っ~~~~!! ……ったく。いちいち肝を冷やさせよって。炙り出す気とはいえ少しは言葉を選ばんか」

「なに、心配せずとも全部本心さ。この戦いが気に入らないってのも。さ、行くよ。つまらない戦いなんてちゃっちゃと終わらせたいからね」

「ハァ……お前というヤツは……だが……」


 そう言って駆け出したリュウコの後ろで、男は苦笑いを浮かべて深いため息を吐いてから、その背を追って駆け出していったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ