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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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939話 忠義の献盾

 貧民街(スラム)外縁部を包囲する部隊への背後からの襲撃。

 ムネヨシ率いる融和派の立てた作戦は絶大な効果を発揮し、その包囲網の一部を貫く事に成功。陣形の崩れた過激派の兵士たちをなぎ倒しながら、破竹の如き快進撃を見せていた。


「ハハハッ!! なんだよ……簡単じゃねぇか……」

「見たか? 奴等の慌てふためく顔。普段あんなに威張り散らしているクセにいざ戦いとなったらあのザマよ」

「当り前だ! 俺達は全てを救う為に戦ってるんだ!! 奴等とは気概からして違うのさ!」

「これなら……行けるッ!! スラムの連中を助けるどころか、過激派の連中だってッ!!」


 その甲斐もあってか、指揮を執りながら最前線を駆けるムネヨシに随伴する兵士たちの間に漂っていた張り詰めた弓の弦のような悲壮な緊張感は消え、今や多くの兵達が上げ止まる事を知らない士気による使命感と達成感に目を輝かせている。


「っ……ムネヨシ様……」

「良い。今はまだ……な」


 だが、それはあくまでも幻想。

 圧倒的に有利な状況下で、背後から襲い掛かるという不意打ちを敢行して初めて得られたものだ。

 その現実を知るシズクは、共に駆ける兵達の様子に危機感を覚えると、静かな声で随伴するムネヨシへ向けて口を開く。

 しかし、既にムネヨシ自身も把握していたらしく、真一文字に結んだ唇を僅かに綻ばせてシズクに言葉を返した。


「我等の目的は変わらん。このままスラム側の戦力と合流し、即座に離脱する。シズク、付近の状況は?」

「はい。っ……!」


 同時に、ムネヨシから告げられた問いにシズクはコクリと頷くと、隊列の中から飛び出して傍らに積み上がる瓦礫の上へと飛び上がる。

 そして、飛び移るようにして瓦礫の上を駆けながら、一気に開けた視界の中を素早く見渡した後、眼下を猛進するムネヨシ達の元へと戻って口を開いた。


「我々の後列の部隊が、敵の増援と交戦を開始した模様。また、我等の前方に留まる敵部隊と思わしき集団を確認しました」

「数は?」

「敵の増援は二個中隊ほど。近隣に配置されていた部隊が即応した模様です。前方の集団は約一個大隊規模。このまま進めば数分で会敵しますが、部隊の詳細は不明。以上です」

「フム……」


 シズクが報告を終えると、ムネヨシはピクリと眉を跳ねさせて小さく息を吐く。

 そのしぐさが、ムネヨシが深く思案している時に見せるものだと知っているシズクは、まるで勝ち戦が如き熱狂に包まれる周囲の兵達とは異なり、背に氷柱でも差し込まれたかのような怖気を感じた。

 本来ならば、思案する余地もない状況なのだ。殿の者達が食いつかれたとはいえ、第一目標である包囲の突破はほぼ完璧に成し遂げられている。加えて、前方に確認された部隊はたったの一個大隊規模。このまま、数の利を以て轢き潰せるはずなのだ。

 だというのに、ムネヨシは即座に判断を下さずに思い悩んでいる。

 その事実が、シズクには恐ろしい不吉の前触れに思えた。


「ムネヨシ様……?」

「ウム……。ムゥ……。シズク、号令を。後方の敵は接敵した部隊に任せて我々は前進する」

「っ……!! はい。前方に敵と思わしき集団を確認ッ! 総員ッ! 戦闘準備!!」

「応ッ!!」


 数秒の沈黙の後、ムネヨシが眉間に深い皺を寄せながら判断を下すと、その命に従ってシズクは声を張り上げた。

 これで、襲撃部隊は後方の増援に応じる迎撃部隊と、前方の大隊と戦う主力部隊の二つに分かれる事になる。

 それはシズク達の戦力を削ぐ事も意味している。だが同時に、幸か不幸か突破した包囲の孔を維持して退路を確保できたという事でもあり、前方の部隊が逃げ延びてきたスラム側の者達であったならば、このまま包囲の外まで脱出させる事ができるだろう。


「ッ……!! 前方集団を目視ッ!! ムネヨシ様ッ! ご指示をッ!」

「いったん様子を見る。決してこちらから攻撃を仕掛けるなっ!」

「了解ッ!」


 やがて、前方に多数の人影が見え始めると、シズクは報告すると同時に再び指示を仰ぐべくムネヨシの名を叫ぶ。

 だが、シズクの憂慮を掻き消すように、即座に放たれたムネヨシの命令は冷静沈着そのもので。

 シズクは周囲の兵達が応ずる声と共に、自らも呼応すべく口を開きかけた。

 ――時だった。

 シズクの耳が、雄叫びの声と進軍する兵達の足音に紛れた微かな風切り音を捉えたのだ。


「了か――ッ!!! ムネヨシ様ァッ!!!」

「っ……!? グッ……!?」


 瞬間。

 シズクは反射的に傍らのムネヨシを突き飛ばすようにして前へと飛び出すと、その肩でムネヨシを目がけて一直線に飛来してきた矢を受け止める。

 だが、シズクの身を穿った矢はそれで止まる事は無く、そのまま簡素な防具に覆われたシズクの肩を貫くと、ムネヨシの甲冑を浅く傷付け、カシャリと淡い音を立てて石畳に落ちた。


「がッ……あああぁぁッ……!! ご無事……ですかッ!? ムネヨシ……様ッ!?」

「お姉ちゃんッ!!」

「っ……!! 助かったぞ、ジズク……!! 奴等は敵だッ!! 撃ち返せェッ!! 突撃せよッ!」


 肩を射抜かれたシズクは飛び出した勢いをそのままに、逆側を随伴していたカガリに身を寄せると、必死の形相で主の名を呼んで振り返る。

 そこでは、シズクの献身によって護られたムネヨシが力強く頷き、声を張り上げて勇猛に指揮を振るっていたのだった。

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