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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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88話 流星弾雨の只中で

「フッ……奴め。本当に我々を殺す気らしいな」


 テミスは疾駆する馬の上で空を見上げると、ニヤリと頬を吊り上げて呟いた。見上げた空はいまだ昼過ぎであるにも関わらず、まるで夕暮れ時のように暗かった。それだけではない。こうして見上げている今も尚、空はどんどんと暗くなっていった。


「何と言うか……孤立した気分になりますね。決死の思いで敵軍を突破したと言うのに、最後の最後で味方の攻撃に晒されるとは……」

「実際、似たようなモンでしょ。ここにもう連中が居ない事をわかって撃ってんだから……テミス様の言う通り、アタシ達に狙いが定められていても不思議じゃないわ」


 テミスの左右では、手元で複雑な魔法陣を描くマグヌスとサキュドが、愚痴を零しながら馬を走らせていた。


「無駄口を叩くのは構わんが、恐らくそろそろ来るぞ?」


 テミスが呆れたような笑みを浮かべて視線を送ると、地響きのような音が周囲に鳴り響き始めた。


「問題ありません。御身をお守りする術式です。余裕が無ければ無駄口など叩きませんとも」

「小突いたら死んじゃいそうなくらいボロボロのテミス様は、アタシ達が守って差し上げませんとね」

「やれやれ全く……耳の痛い話だよ」


 テミスがため息とともにぼやくと、部隊の中に明るい笑い声が沸き起こる。怪我無く無事な者の手元には、それぞれ輝く魔法陣が展開されていた。


「では諸君、アレでも一応奴等は仲間らしい。我等はここで死ねば、仲間の攻撃に巻き込まれて死ぬ間抜けと言う事になる。そんな不名誉な称号を得たいと思う奴は、我々の中には居ないだろう」


 テミスがそう語り掛けると、笑い声と共に威勢のいい返事が返ってくる。どうやら今回の作戦を通じて、かなり度胸が成長したらしい。


「なればこそ、生きて帰るぞ! 無傷で帰還した暁には、私がお前達の分まであのいけ好かない連中を煽り倒す事を約束しよう!」

「それは是非。ご一緒させていただきますわ」


 テミスの号令にサキュドが同調すると、一際大きな笑い声が立ち上がる。それと同時に、甲高い笛のような音と共に薄暗い空に赤い筋が走り、無数の隕石が降り注ぎ始めた。


「防護班! 術式展開! 総員。以降の舵は私の指示に従え!」

「了解ッ!」


 ドロシーたちの放った魔法の発現を確認すると、テミスは即座に命令を発した。マグヌスを始めとする十三軍団の面々がそれに呼応すると、テミス達の周りを光り輝く薄い殻のようなものが覆い隠した。


「次だ! 加速班! 術式展開!」

「多人数型加速術式、妖精女王(ティターニア)の加護! 発動します!」


 号令と共にテミス達は薄緑に発光すると、その速力を一気に増して降り注ぐ流星の雨を縫うように躱しながら、一気に魔王軍本陣へと駆けていくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お帰りテミス。見事だったよ。それで……部隊の損耗はどうだい?」


 流星の降り注ぐ戦場を駆け抜けたテミス達を真っ先に出迎えたのは、柔らかな笑顔を浮かべたルギウスだった。天幕の外で待っていた彼は、テミス達の姿を見つけると大きく両手を振って名を呼び、テミス達が到着した頃には傍らにいたシャーロットにその態度を咎められていた。


「御覧の通り、ハルリトが敵に負傷させられた程度で大した損害は無いさ。まるで小雨でも降っているのかと思うほど雅な帰路だったよ」


 テミスは声の音量を上げると、周囲に宣伝するかのようにルギウスに答えた。実際はドロシーたちの術式による負傷者こそ出していないものの、こうして無事に辿り着けたのは奇跡に近かった。


「…………魔導師の看板に、偽りは無しか……」


 ボソリと。誰にも聞こえない声でテミスは呟くと、流星群の魔法の威力を思い浮かべた。絶え間なく不規則に降り注ぐ隕石を完全に躱すのは難しく、途中からは防壁を強化して一点突破をするしかなかった。それでも、流星群の効果区域を抜け出す頃には、十三軍団全員の魔力は枯渇寸前だった。


「まぁ、こうして終えてみれば何とかなったという所か……この地に芽生えかけていた平和の芽を摘み取られたのが何よりの痛手だがな……」


 そう言いながら、テミスはマグヌスとサキュドに手振りで解散を指示すると、ルギウスと肩を並べて天幕を潜る。兵士たちは戦いが終われば休むだけだが、責任者には後始末が待っているのが悲しい所だ。


「ああ、それは問題ないさ。彼等なら保護してるからね。折を見て、町に送り届けるよ」

「何っ!?」


 さらりと言い放ったルギウスの言葉に、テミスは足を止めて目を丸くする。今回の戦いで同盟を結んでいた人間領の村と第五軍団の関係は滅茶苦茶になったと思っていたが、まさかそんな手まで用意しているとは……。


「ハハハ……テミスの驚く顔が見れて何よりだ。それに、君達には大きな借りが二つもできてしまった、必ず何かの形で返させてもらうよ」

「ククッ……なら早速一つ、頼みと提案があるのだが?」

「な……なんだい……?」


 そう前置きをするとテミスは、若干身構えたルギウスに意味深な笑みを向けると、その頬を更に吊り上げて邪悪な表情に変え、楽しそうに口を開くのだった。

10/25 誤字修正しました

2020/11/23 誤字修正しました

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