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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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930話 飛び交う策謀の刃

「当り前だ。そもそも、私を拒んだのはお前達だ」


 コツリ。と。

 テミスはムネヨシへ冷ややかな眼差しを送りながら壁から背を離して一歩進み出ると、吐き捨てるように言葉を紡ぐ。

 更に加えるのなら、頭目たちの態度。彼等の態度を見れば、テミスが手を貸す事が義務であり、当然のことであると考えている事など一目瞭然。

 自らの非を認め、泣いて縋るのならばいざ知らず、自分達の立場すら弁えられないようでは、この先如何なる災厄が起こるかなど容易に想像がつく。


「お前達、私を都合の良い便利屋か……いや、もっと酷いな……自分達の手駒か何かだと勘違いしていないか?」

「っ……!!」

「ま、まさか……手駒だなど……」


 鋭く斬り付けるようなテミスの指摘に、頭目たちは力無く否定の言葉を口にするが、宙を泳ぐ視線や弱腰な態度が、何よりテミスの指摘が的を射ていると物語っている。

 どうせ、浅はかなこいつらの事だ。既に事態の収拾など頭には無く、いかに自分が損害の責任から逃れることしか頭に無いのだろう。


「一体、私を担ぎ上げて何を企んでいたのやら……そんな連中に策を説いても無駄だと思うがね?」

「だがっ……!!」

「ならば、私の指揮に一から十まで従えるか? たとえ私が全体の舵を取ろうと、現場での式はお前たちなのだ。自らが納得せねば動かんお前達が、理解が及ばずとも十全に使命を全うし、不満を呑み下して命令を完遂できるとは思えんがね」

「ふ……ふざけるのも大概にしろォ!! 小娘がッ!!」


 淡々とした口調でテミスが言葉を並べ立てていると、一人の頭目が怒声と共に拳を机に叩きつけた。

 その頭目は、この会議に乱入したテミスに掴みかかった頭目であり、机に叩きつけられて尚ギシギシと握り締められ続けるその拳には、明確な怒りが見え透いている。


「我等は! このギルファーの為に命を懸けているのだッ!! その我等が納得せずして、何処の馬とも知れぬ貴様のような人間風情に従えるかァッ!!」

「……と。ほらみろ、既に御覧の有様だ。より正確に言うのであれば、私は手を貸してやりたくてもできんのだよ。故に、お前達はその凝り固まった誇りに懸けて、自らの命運を決しねばならん」


 だが、テミスは激高する頭目を掌で指し示すと、嘲笑うようにクスリと昏い笑みを浮かべて言葉を続ける。


「義理は果たしたと言っただろう? あぁ……だが、そうだな。仮にも己が責務を果たさんとしたムネヨシに免じて、蒙昧なお前達にもわかりやすい提案をしてやろう」

「貴様ァ……この期に及んで何を言い出すつもりだッ……!!」

「ククッ……」


 しかし言葉を紡ぐ最中、テミスは何かを思いついたかのようにピクリと肩を跳ねさせると、それまで浮かべていた昏い笑みをニンマリと深めて、悪魔の如き壮絶な笑みへと変化させた。

 そんな、壮絶な笑顔に気圧される頭目たちの問いを、テミスは喉を鳴らして嗤うと、クルリと振り返ってムネヨシと相対する。

 そして、邪悪な大蛇が鎌首をもたげるかのように、右手をゆらりとムネヨシの前へと差し出して口を開く。


「なぁ? ムネヨシ。いっその事、我等がファントへ来ないか? 今ならばお前やシズクだけでなく、お前の率いる派閥ならば喜んで迎えてやろう」

「なっ……ぁ……ッ……!?」

「フム……」

「なに……お前が自らの立場や誇りを棄てて下げた頭を、こうして無に帰す連中だ。誇りに殉じて滅ぶのならばそれも止む無し。連中もそれを望んでいるみたいだしな?」

「…………フフ。……確かに魅力的な話ですな」

「ッ……!! ムネヨシ! 貴様、祖国を裏切る気かッ!?」


 その場の誰もが、テミスの告げた突拍子もない提案に絶句する中。

 ムネヨシは小さく微笑むと、静かな声で答えを返す。

 まるで、テミスの提案を受け入れるかのようなムネヨシの言葉に他の頭目たちは色めき立つものの、差し出されたテミスの手は未だ握られる事無く宙に浮いていた。


「黙れ痴れ者がッ!! 仮にこの手が差し出されたのがお前だったならばどうする? 常に自らの保身を考えるお前の事だ、迷うことなくこの手を握っていたのだろうな? 更にこの窮状だ、他の者でもどうだか……」


 だが、響き渡ったムネヨシの一喝が、頭目たちの怒声や罵声を遮り、一瞬にして黙らせる。

 そして、ゆったりとした口調で言葉を続けたムネヨシはその視線をテミスへと戻すと、一拍の間を空けて言葉を続けた。


「お芝居はもう結構。流石のこやつらも理解しただろう。それに、今この手を握れば私は君に斬り倒される。そうだろう?」

「ンクク……それはどうかな……? 案外、本気だったかもしれん」

「フッ……密かに鯉口まで切っておいてよく言う。まぁ、その気持ちもわからなくは無いがね……」


 静やかな笑みを浮かべるムネヨシに、皮肉気な笑みを浮かべたテミスが言葉を返すと、二人はその会話の内容に凍り付く部屋の空気を余所に、クスクスと笑い声をあげたのだった。

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