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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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929話 老獪なる者


 テミスにとって融和派は味方ではない。ただ、敵ではない(・・・・・)というだけで、今こうして会議に出張っているのも、シズクとのよしみと、力を貸すと告げたムネヨシへの義理でしかなかった。

 それは、融和派の者達がテミスの存在を受け入れようとしない以上、至極当たり前の落し所だと言えるだろう。

 だが、如何にして眼前に現れた困難を切り抜けるかという難題で頭が一杯の頭目たちが、そんなテミスの意図に気付くはずも無く、彼等は不敵な微笑みを浮かべたまま壁に背を預けたテミスに視線を注ぎ続けていた。


「………………」

「っ……! そ……それで……?」

「それで……とは?」


 しばらくの沈黙の後。

 一向に口を開かないテミスに痺れを切らしたのか、ゴクリと生唾を呑み込んだ頭目の一人が、僅かに震える声で口を開いた。

 しかし、それに対するテミスの答えは簡素なもので。

 壁に背を預けたまま薄っすらと目を開き、涼し気な笑みと共に問いを返す。


「これだけ我等の案を虚仮にしたのだッ!! む、無論の事……何か妙案があるのだろうッ!?」

「確かにッ……! それでなくては、あのような態度など取れぬというものッ!」

「そうだッ……! ホレ、ならば勿体付けておらんでさっさと説明せんかッ!」

「クス……」


 その言葉を皮切りに、頭目たちは次々と口を揃えて言葉を並べると、しきりに頷きながらテミスへとその視線を集中させた。

 だが、テミスはただ冷笑を浮かべただけで言葉を発する事は無く、ただ冷ややかな視線を頭目たちへと返すだけだった。

 そんなテミスの挑発的な態度に、頭目たちが矛を収める訳も無く、堰を切ったかのように怒声が、テミスへ向けて浴びせられ始める。


「ッ……!!」

「テミス……さんッ……!!」


 けれど、その様子を傍らから見ているシズク達は、いつ頭目たちがテミスの逆鱗に触れるか、もしくはテミスの堪忍袋の緒が切れてしまうか気が気ではなく、ひたすらに血の気の引いた顔で状況を見守る事しかできなかった。


「…………。フム……」


 最早会議の体など為していない混沌とした状況の中。ムネヨシは静かに息を吐いて立ち上がると、その双眸を見開いて室内を睨み付ける。

 するとその瞬間。

 テミスへ向けて気炎を上げていた頭目たちが一斉に黙り込むと、怒声や罵声が重なり合い、喧騒と化していた会議室は一瞬にして静寂を取り戻した。


「なるほど。貴重な意見を感謝する」

「別に……私はただ、思った事を述べただけだ」

「つまり、それ以上の事はする気は無い……と?」

「無駄な議論を廃したんだ、十二分に義理は果たした。これ以上尽くしてやる義務は無い筈だが?」

「っ……。フゥゥ~~……」


 ピシリ。と。

 訪れた静寂の中で、ムネヨシがテミスへと静かに語りかけると、途方もない緊張感がその場を支配する。

 互いに視線を合わせる二人は、睨み合っている訳でも無いのに、まるで互いの首に匕首を突き付け合うかの如き迫力で。

 部屋の中に居合わせた全ての者が、その迫力に圧倒されて固唾を呑んでいた。


「……この際だ、正直に言おう。現状は我等の手には余る……手詰まりなのだ。どうか、この私に免じて手を貸しては貰えないだろうか」

「っ……!?」

「なんと……!」

「ムネヨシ様ッ……!」


 だが次の瞬間。

 テミスの前まで歩み出たムネヨシが深々と頭を下げてそう告げると、会議室の中に驚愕と感嘆の声が漏れる。

 それもその筈だろう。

 ムネヨシとて融和派の中の一大派閥を統べる頭目の一人だ。そんな者が、突如現れた人間の少女に頭を下げるなど、ギルファーの者達からしてみればあるはずの無い光景なのだ。

 故に、ムネヨシと同格である他の頭目たちは驚愕しながらも怒りに顔を歪め、シズクたちは彼の使命感に胸を打たれているのだろう。

 しかし、ギルファーと同盟関係を結んでいる訳でも無く、ましてやギルファーの人間でもないテミスにとって、そんなものは価値があるはずも無く。


「断る」


 たったの一言。

 深々と頭を下げたムネヨシへと視線を向けたまま、テミスは冷たく言い放つ。

 無論その態度はギルファーの者達にとって、立場の垣根すら飛び越え、礼を尽くして頼み込んだムネヨシをテミスが無碍にあしらったのと同義で。

 固唾を呑んで様子を見守っていた他の頭目たちだけではなく、感涙に打ち震えていたシズク達までもが、目を見開いて驚愕を露わにした。

 だが、そんな一触触発の様相を呈してきた空気の中。


「フフ……これでも落ちんとは……。やはり、中々に手強いな」


 ただ一人。

 テミスへと首を垂れていたムネヨシは静かに顔を上げると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて嘯いたのだった。

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