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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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927話 企みの先に

「掃討作戦など言語道断ッ!! 一刻も早く過激派の連中を止めなければッ!」

「その前に貧困街(スラム)への脱出援助では? 犠牲者を減らす方が優先だ」

「冗談ではない! これ以上争いに巻き込まれるのは御免だッ! 我々は関わるべきではないッ!」


 数十分後。

 シズクたちに連れられて融和派の拠点に戻ったテミスを出迎えたのは、屋敷中に響く怒号の嵐だった。

 無論。屋敷に集まる融和派の者達全てが怒鳴り合っている訳では無く、頭目と呼ばれる者達が集まる一室、その僅かに開かれた扉から漏れ出ているのだ。


「スラムには冒険者ギルドもあるのだぞ! 奴等を掃討なんてしたらどんな報復が待っているかッ……!」

「だが、実際問題我々に何ができる? 秘密裏に過激派の作戦を奴等に伝えてやるくらいしかあるまい?」

「そんな事をすれば! 今度は我々が過激派の連中に睨まれるではないかッ! 何が起ころうと、徹頭徹尾関わってはならん!」

「馬鹿を言うな! 関わらなかったとて他種族の連中が聞き分けるはずも無かろう!」

「だからこそ! 秘密裏に手助けをし、表向きは関わらぬようにするのだ! そうすれば我々に害は及ぶまい!」


 しかし、漏れ聞こえる声を聞いただけでもわかるほどにそれぞれの意見は平行線をたどり、議論は停滞している。

 それを知ってか知らずか、頭目たちの議論を聞いている兵士たちの顔も昏く、時折ひそひそと言葉を交わしてはため息を吐いている有様だ。


「やれやれ……この期に及んで議論百質を楽しんでいるとは……とことんおめでたい連中だな」


 そんな惨状を耳にしながら、テミスは皮肉気な笑みを浮かべて吐き捨てるように呟くと、沈痛な面持ちで並び立つシズク達へと視線を向ける。

 取り乱したシズクが落ち着くのを待ってからここへ来る道中で、テミスは彼女たちからある程度の情報を聞き及んでいた。

 曰く、連日の失踪に業を煮やした過激派は既に兵力を集め、スラム街を消し去ろうと動き出しているという。だが、それに対して融和派の意見は一向にまとまらず、このままでは何もできないまま過激派の暴挙を見ている事しかできない。

 冒険者たちが今のギルファーを保っているテミスの言葉の真偽を調べ、この町の真実を知ったシズク達はそう考え、状況を打破すべく方々を駆けずり回ってテミスを探し出したのだという。


「っ……。そもそも、テミスさんがあんなことしなければ、事がここまで大きくなることも無かったじゃないですか……」

「そうだな。だがその影で、何人ものスラムの連中がお前達のような連中に嬲られ、時には殺されるのだろう」

「だ……だからって……!」

「あぁ。お前達は兎も角、過激派の連中があそこまで馬鹿なのを見抜けなかったのは私の失策だ。だからこうして、お前達と共にここに来ているんじゃないか」


 意地の悪い笑みを浮かべるテミスに、シズクは鋭い視線を向けながら唇を尖らせて反論する。

 どうやら、彼女たちの諜報能力はテミスの予想を遥かに超えて高いらしく、ここ数日に起きた獣人失踪事件の原因が、テミスであることまで突き止めていた。

 尤も、テミスの狙いは今回の騒動を通じて過激派の目を融和派に向けさせ、二つの派閥を交戦状態に持ち込む事だったのだが。

 つまるところ今回の一件は、人を人と思わぬような調べ方をする過激派の兵達を斬るだけではなく、その戦力を削ぎ落とす意味合いもあったのだ。

 加えて、融和派の連中はその信念ゆえに最後の一線は越えない調査を進めるため、相応の目には遭うが死にはしない。故に、過激派の疑いが融和派に向く。

 ……という、陰で暗躍するテミスからしてみれば、一口で三度美味しい展開を狙っての目論見だった。


「……だが、肝心の頭目連中がコレじゃ無駄足だろうな。今更私が何を言った所で、聞く耳を持つとも思えん」

「いいえっ! 少なくとも! ムネヨシ様は聞いて下さるはずです! そこから何とか、この状況を打開してください!」

「ったく……無茶を言うな。例え連中がまともに話を聞いたとしても、圧倒的に不利なのは変わらんのだぞ……」

「へぇ……? 不利を覆す秘策があるからこそ、陰でコソコソ色々な事をなさっていたのではないのですか?」


 最早手の施しようがない程に壊滅的な現状にテミスはかぶりを振るが、その手を握るシズクは、まるでテミスをムネヨシに会わせれば全てが解決するとでもいわんばかりに、頑な態度を崩さなかった。

 しかも分の悪い事に、背後から身を寄せたカガリが耳元で囁くように煽り立ててきて。


「ハァ……ったく……。仕方のない連中だ。やるだけはやってやるさ……」


 融和派の兵士たちがヒソヒソと言葉を交わす中、テミスはシズクに手を引かれながらそうぼやくと、うんざりとした表情を浮かべて怒声の元へと足を運んだのだった。

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