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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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87話 いつの間にかそこに在るモノ

「お待ちくださいテミス様ッ! 我等十三軍団に撤退要請が出ていますっ!」


 激昂してフリーディアを追わんとしたテミスの頭の中に、マグヌスの声が響き渡る。


「黙れ! 戦闘中だ!」

「テミス様ッ! 第三・第五軍団長の連名による緊急要請です!」

「知った事かッ!」


 脳内に響く声に怒りを叩き付けると、テミスは地を蹴って猛烈なスピードでフリーディアを追尾した。全体的な速力ではこちらが劣るが、馬は車のようなものだ。スピードに乗るまでの僅かな時間であれば、まだ後一撃を加える事くらいはできる。


「第二軍団による大規模支援攻撃が来ます!」

「っ――何ッ!?」


 ズザァーッ! と。テミスは土煙を上げながら思わず足を止めた。我々が後方から奇襲をかけているのは魔王軍にも伝わっている筈……だというのに、あの馬鹿魔女は我々ごと吹き飛ばそうと言うのかッ!


「あの……無能めっ! 戦況すら見えんのかッ! 何処まで我らの邪魔をすれば気が済むのだッ!」

「ちょっと!? テミス様? アタシはこんな所で吹き飛ぶのはゴメンなんですケド?」

「チッ……解っているッ! 少し待て!」


 テミスは強烈な舌打ちと共に、会話に割って入ってきたサキュドに怒鳴り散らした。人間軍が全面的に撤退を始めている今、この名ばかりの支援攻撃は無意味だ。おおかた、手柄を得るついでに我々を抹殺する一石二鳥とでも考えているのだろうが、ここでフリーディアを……白翼を取り逃がすことがどれほど魔王軍に損害を与える事か!


「ルギウス! リョースでもいい! 応答しろッ!」


 テミスはすぐに目を閉じると術式を発動し、苛立ちを隠さずにその名を叫ぶ。気付けば戦場は死体と遺棄された物資のみになっているし、多少の不意打ちを受けた所で今ならば対応できる。それよりも、無駄な支援攻撃を止める事の方が優先だ。


「おおっ……繋がってくれたかっ! テミス軍団長! 今すぐに――」

「支援攻撃など要らん! 奴等は既に撤退を始めている! 全力追撃だ! 邪魔をするなっ!」


 頭の中に響いた優しげな声を遮って、テミスは怒りをぶちまけた。最初に逃がした指揮官の仕業かはわからないが、前線の兵がこちらに流れて来ていない。ならば我々しか居ないこの区域に『支援』など、追撃を阻む利敵行為であるとさえいえる。


「……すまない。第二軍団は既に独自行動を始めている……友軍に攻撃を加える訳にもいかない以上、僕にできるのはせめて危険を知らせる事だけなんだ」

「ふざけるな! あんな駄魔女、切り捨ててでも追撃部隊を出せ! お前は平和の芽を刈り取られて何も思わないのかッ!」

「――テミス。そこまでだ」


 突如、ルギウスとの通信に壮年の男の厳しい声が混じってくる。


「リョース! 貴様ならわかるだろうが! この行為の愚かしさが! 何故止めないッ!」

「テミスッ!」

「っ――!」


 テミスは脳内に響き渡ったリョースの一喝に、思わず目を見開いた。この男が声を荒げる姿を見るのは、最初に会ったあの時以来の事だった。


「貴様の気持ちは分からんでもないが、我々は魔王様の軍なのだ」

「……そんなことは解っている! だからこそ軍に益の無い間抜けは処断するべきだろう!」

「解っていないな。それを決めるのは魔王様であって我々ではない。我々は貴様とは違うのだ」

「……!」


 リョースが静かな声で告げてようやく、テミスは理解した。テミス達は独立軍団、魔王に認められ、魔王にすら歯向かう事を許された唯一の軍団だ。その一方で、リョース達軍団長は名は同じでも意味する役割は全く異なる。正義の名の元に完全に自由に動けるテミスとは違って、ドロシーを含めた彼等は魔王の部下であり配下なのだ。完全に同じ地位にある者に苦言を呈すことはできても、テミスのように実力行使で黙らせる権限は与えられていない。


「……ままならんものだな。しがらみが多いのはどちらも同じという訳か」

「フフッ……その台詞を君に言われるとはね」

「全くだ」


 しばらくの沈黙の後、テミスが声を静めて応えると、愉快な笑い声が頭の中を埋め尽くした。しがらみのない私に言われるのは当たり前だと思うのだが、彼等は何故笑っているのだろうか?


「っと……いけない。とにかく時間は稼ぐから、君達は早く戻ってくるんだ。もう十分に役目を果たしてくれた……僕としては、こんな所で君達を失うわけにはいかないんだよ」

「フッ……第五軍団長殿は我々を高く評価して下さっているようで?」

「フン……連中の術式は恐らく流星群だ。足の迅い貴様等なら間に合うかもしれんが、備えておくと良い」

「ご高配感謝いたします。第三軍団長殿」


 最後にそう返すと、テミスはため息と共に苦笑いを浮かべながら、左手に握って居た剣を鞘へと戻して剣を収めた。結局何も好転してはいないが、何も為さないままこんな所で力尽きる訳にはいかない。


「フン……気に食わんな。まるでフリーディアと同じ言葉ではないか――マグヌス! サキュド!」


 そうひとりごちりながら、テミスは再び部下たちに命令を下す。情けないが、今の体の状態で術式を躱し切れるかは分からないから、リョースの情報はありがたい。


「ハッ!」

「阿呆共の流れ弾は流星群だ。私が合流地点に到着するまでは対抗術式でも準備しておけ」

「了解しました!」


 そんなマグヌスの硬苦しい返答と、サキュドの無言のため息を聴きながら駆け出したテミスの口元は、僅かに緩んでいたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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