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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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922話 届かぬ拳、切り裂く刃

「さて……と……。まずは、どうするかな……」


 呆然とするシズクを宿へ残し、町中へと出てきたテミスはボソリと呟きを漏らすと、小さく息を吐いた。

 正直、融和派の者達がこれ程にまで使えない連中だというのは想定外だ。このままでは、ギルファーとの協力関係を築くどころか、過激派の連中を黙らせる事すらままならない。

 だからこそ、テミスは自らに余分な枷が嵌められる前に、彼等と袂を分かったのだ。


「フム……だが、どうあがいてもやはり基本は変わらんな……」


 昨日と何ら変わらぬ町の風景(・・)を眺めつつ、テミスは手ごろな壁に背を預けて一息を吐く。

 他の種族……特に手ごろな弱者である人間を目の敵にする過激派の排除は大前提だ。

 ファントが人魔の融和を謳う以上、獣人至上主義を掲げる過激派とは絶対に分かり合えない。

 仮に、私が過激派をねじ伏せたとしても、その矛先が私の目の届かない所で力無き者達に向くのは目に見えている。

 故に、こういった輩を廃するための手段はたった二つ。

 皆殺しにして抹殺するか、連中の根底の根付いた自らが強者であるという思想そのものを折り砕いて屈服させるか……だ。


「フッ……それにしても、なかなかどうして滑稽だな……」


 眼前では、首に輪を嵌められ、あるいは手枷を鳴らし、足枷を引き摺って、奴隷とされた人間達が甲斐甲斐しくも働いている。

 彼等のどろりと濁った瞳に映るのは、如何に目の前の恐怖や絶望から逃れるかという事だけで。労働の対価とは名ばかりの、主人が奴隷を潰さぬために与える僅かばかりの餌に縋り付いていた。

 人間が飼われ獣人が飼う。その主従の逆転した光景に、テミスはかつて見た『外』での光景がふと浮かび上がる。

 そうだ。他の国で奴隷とされた獣人族もまた、今囚われの身と堕ちた彼等と同じような目をしていた。胸の底に燻る怒りと憎しみを押し殺し、仇敵に媚び(へつら)って生を繋ぐ。


「……何処へ行こうと、虐げられるのは弱き者ばかりか」


 ぎしり。と。

 テミスは知らずの内に噛み締めていた歯を更に食いしばると、身体を預けていた壁から背を離して再び歩き始めた。

 そうだ。

 今、獣人族に飼われている奴隷たちが、獣人族を虐げていた訳ではないだろう。

 他種族を虐げる事を目的としているギルファーではどうかは知らないが、奴隷というものは意外にも高価なもので、市井で普通に暮らす人々がおいそれと手を出す事などできないものなのだ。

 仮に手に入れたとしても、市井の者達に買われた奴隷たちは、高価で貴重な労働力として、決して使い潰さぬよう重宝される。


「クク……当たり前の話だ……。道具(・・)である以上、雑に扱って壊れたり、動かなくなっては意味が無い。高価であるのならば尚の事だ」


 つまるところ、彼等が怒りを向けるべき矛先は、奴隷程度の買い物ならば高価だとも思わない金持ちや貴族たちなのだ。

 だが、そういった連中の守りは往々にして固く、襲って捕らえて奴隷にするには手間も犠牲もかかる。

 故に、連中は人間という種族全体を憎む事で、その振り上げた拳を殴り易く(・・・・)、かつ手頃で(・・・)安全な(・・・)対象へとすり替えたのだ。

 恐らくこうしている今も、この世界の何処かでは奴隷と堕ちた獣人たちが、屑のような人間に虐げられているのだろう。


「確かに……フリーディアの言う通りかもな……」


 ふと、テミスは胸の中を過った虚しさにも似た思いに足を止め、背後を振り返る。

 そこでは、相も変わらず奴隷たちがいそいそと働きまわっていて。

 たとえ彼等を解放した所で、今度は獣人を憎む人間が世に放たれるだけなのでは無いだろうか?

 今度は、いつの日か獣人に恨みを抱えた彼等が、奴隷と堕ちた弱き獣人を手に入れ、暴虐を働くだけではないのだろうか?

 そう考えた途端に、テミスは視界に映る世界が色褪せたように思えて。言い知れぬ恐怖が背筋を駆け抜けた。


「っ……!! クク……私としたことが……。その時はまた、斬ればいい」


 カチャリ。と。

 テミスは無意識のうちに動いた己の手が、腰の剣の柄へと触れた音と感覚で我を取り戻すと、皮肉気な笑みを浮かべてひとりごちる。

 そうだ。たとえ如何なる過去があろうと、己の為に他者を虐げ、搾取して悦に浸る光景には反吐が出る事に変わりは無い。

 ならば、結果として救われただけの連中がどうなろうと知った事では無い。私は私のセイギの為に、ただ悪を斬って捨てるだけだ。


「フッ……ならばコレ(・・)では収まりが悪いな? 連中はどうも、誇り(・・)とやらを異様に気に掛けるらしい」


 テミスは腰の剣に手を添えたままニヤリと微笑んで小さな声で呟いた後、バサリと外套を纏ったその身を翻して、路地裏へと消えていったのだった。

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