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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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918話 密かなる縁

「っ……それ程まで……とはな……。誰も彼もが国取りに夢中……という訳か」


 飲み物が運ばれてきた事により、オヴィム達は腰を落ち着けて話しはじめる切っ掛けを得ると、彼等の見てきたギルファーの現状を事細かにテミスへと語り聞かせた。

 曰く、ギルファーの未来を左右せんと奔走しているのは、元よりこの国の国政に関わってきた連中だけではなく、ある程度の金や店などの生活基盤を持っている連中や、国を守るべき兵士や衛兵までも加わっているらしい。

 その為、害獣の討伐や治安の維持などの、これまで国家が対処を担ってきた問題が噴出し、ギルファーは今、まさにその根幹が揺らいでいる状態だという。


「……確かに。言われてみれば()もそればかりだったな」


 ボソリ。と。

 テミスは己をこの国まで連れて来たシズクの顔を思い浮かべながら、目を細めて呟きを漏らす。

 よくよく考えてみれば、シズクとて本来はこのギルファーを護り、運営していくための戦力の一人だ。

 だが、彼女はファントに居た頃から、口を開けばギルファーがどうだの、融和派が何だのとばかり口にしていた気がする。


「ン……? 待てよ……? ならば何故……」


 しかし、そこまで考えてふと、テミスは奇妙な点に思い至って思考を止めた。

 確かに、シズクの手引きがあったとはいえ、テミスはこの町で衛兵やそれらしき連中を見た覚えがない。加えて、この付近でどのような害獣が出るのかは知らないが、ギルファーの近郊に差し掛かってからは、一度も見た覚えがなかった。

 つまるところ、国家がこぞって国取りにかまけていても、その辺りの機能がまだ、ある程度は生きているという事になる。


「ふふ……お気づきになりましたか……。不思議だとは思いませんか? この辺りは見ての通り厳しい環境です、そんな中で悠々と暮らしている人たちなんて、山の魔獣たちからすれば都合の良い餌でしかありません」

「う……うむ……」

「そんな害獣たちを駆除する兵達が居なくなったというのに、何故か未だにこの町は平穏を保っている……。それを……あの人たちは不思議にも思わない」

「っ……!!」


 呟きを漏らしたテミスに、アルスリードが何故か得意気な笑みを浮かべて語り始めるが、その表情はすぐに怒りのそれへと変わると、最後には悔し気に唇を噛み締めて黙り込んだ。


「まさか……冒険者たちが代わりを……?」

「フゥ……まぁ、概ねそういう事だ。儂が発てずに留まっておるのは、何やらきな臭い話しを耳にした故、密偵の真似事でもしてみるかと思い立ったのもあるが、そちらの事情もあってな……」

「密偵……? いや、待て。それよりも資金は何処から来ている? よもや無償という訳ではあるまい」

「いや、報酬はきちんと支払われておる。だが、誰が依頼しているのかまでは明かされておらん。探りを入れようにも手が足りなくてな」

「フム……」


 深いため息と共にそう答えたオヴィムに、テミスは小さく息を吐いて思考を始める。

 冒険者なんていう連中は基本的に根無し草だ。故に、善意で人助けをする事はあっても、割に合わない依頼を無償で受けるなどという事はあり得ない。しかもそれが、国の怠慢の尻拭いであるならば猶更だ。

 だが、正当な報酬が支払われているのであれば話は別。たとえ多少町が住みづらかろうと、留まり受ける者は少なく無いだろう。


「というか……この国にも冒険者ギルドがあったのか……」

「クク……心中は察するとも。儂とてギルドの強かさには目を見張ったものだ。だが、ファントや他の町のような表舞台ではなく、このスラムの奥……いや、中心に押し込まれてはいるがな」


 テミスが再び思考を切り上げ、眉を歪めて呟きを漏らすと、今度はオヴィムが喉を鳴らして笑いながら言葉を添えた。

 ここまで排他的な国なのだ。多種多様な種族の者達が入り乱れる冒険者なんていう職業を、ギルファーが受け入れるはずなど無いと思っていたが故に、無いものとして考えていたのだが。


「皮肉なものだな。高らかに誇りだの復讐だの謳っているくせに、その足元がてんでお留守なだけでなく、連中の言う宿敵に支えられているのだから」

「然り。だからこそ、足元を突き崩すような不逞の輩は、行方知れず(・・・・・)となるのだ。誰の目にも触れる事無く……な」

「おぉ怖い怖い……。私も、余計なものは覗かんように気を付けなくては」


 オヴィムはニヤリと頬を歪めて言葉を返すと、テミスはおどけた口調で応えながら、クスクスと笑い声をあげてジョッキを呷った。

 要するに、今のこの一帯はギルファーであってギルファーではない暗黒地帯。政争の最中に生まれた暗黒街という訳だ。


「……事情は理解した。ならば少しばかり予定変更だ。もしかしたら、協力出来得ることがあるやもしれん。お前達にもある程度、こちらの事を伝えておこう」


 短い沈黙の後。

 テミスはテーブルの上に身を乗り出すようにしてオヴィム達へ顔を近付けると、不敵な笑みを浮かべて口を開いたのだった。

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