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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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915話 予期せぬ再会

「待ってくれッ……!!」


 身を翻したテミスが、数歩を駆け出した時だった。

 人間の子供を護っていた者らしき低い声が、テミスの背を呼び止めた。

 他国であるギルファーの街中で刃傷沙汰を……しかも獣人らしき連中を切り殺したとなれば面倒事は必須。呼び止めるその声に、テミスが立ち止まる理由は一つも無い。

 だが……。


「テミス……!! お主はもしや……テミスではないか……?」

「っ……!?」


 不意に告げられた自分の名に、テミスは思わず駆ける足を止めてしまった。

 名を呼ばれたものの、その言葉には問いかけるような揺らぎがあった。故に、歯牙にもかけずに走り去ってしまえば、何処で私であると判断したのかは知らないが、コイツも人違いだと諦めを付けたかもしれない。

 だが、そんな事に気が付いた時には既に後の祭り。

 自らの正体など未だ知る者が居るはずの無い遥か北の地で、怪し気な者から唐突に名を呼ばれた衝撃は大きく、半ば反射的に再び身を翻したテミスの身体は、既に臨戦態勢に入っていた。


「おぉ……やはり……か。その漆黒の剣に目を見張るような太刀筋、よもや……とは思ったのだがな」


 しかし、呼び止めた大柄な人影はテミスの警戒を気に留める素振りすら見せず、深くかぶった外套の影で、どこか感慨深げに頷いている。

 確かに、こうして改めて言葉を交わしてみれば、聞き慣れてはいないものの、何処か記憶の片隅に引っ掛かる程度には聞き覚えのある声で。

 だからこそ、テミスは警戒を解くことなく慎重に口を開く。


「…………。お前……何者だ?」

「フッ……ククッ……クククッ……!! 確かに、こうして相まみえるのは久方ぶりではあるが、あまり寂しい事を言ってくれるな。そう警戒するな儂だ」

「なっ……!!? お前……オヴィムじゃないか……」


 そんなテミスの様子に堪えかねたかのように、大柄な人影はクスクスと笑い声を上げながら静かに外套のフードを外して素顔を晒した。

 そこには、確かに以前、郊外の森の中で相見えた男の顔があり、テミスは見知った顔に警戒を解くと共に胸を撫で下ろして駆け寄っていく。

 何故なら、テミスはもしも彼がオヴィムではなく、何処かの町ですれ違った程度の者であったり、以前敵対した間柄の者であったら、切り結ぶ羽目になる事すら覚悟していたのだ。


「てっきり私に連絡を寄越した後、お前達はすぐにこの地を発ったものだとばかり思っていたぞ……。ン……? 待てよ? と、言う事は……」


 ニヤリと笑みを浮かべたオヴィムが、再び外套のフードをかぶり直すのを横目に、テミスはふと、紡ぎかけていた言葉を途中で止める。

 この外套を被った大柄な人影は、人間の子供を守って戦っていたのだ。その人影がオヴィムであったという事はつまり……。


「……お久しぶりです、テミスさん。また、助けられてしまいましたね」

「っ……!!」


 言葉と共に、オヴィムの背に隠れるようにして立っていた小さな人影が前に出ると、外套を外さぬままテミスへ向けて深々と頭を下げた。

 姿こそ見えないものの、オヴィムの姿と声で記憶が呼び覚まされていたお陰か、その声には確かに聞き覚えがあった。

 尤もテミスにとっては、第一印象のせいでさんざんゴネ続けていただけのクソガキという印象が強かったが、思えばファントを旅立つ間際にはやけに聡明で大人びた態度だった気もする。


「アルスリード……やはりお前だったか……。うむ、元気そうで何よりだ」

「はい。ありがとうございます! ですが、テミスさんがどうしてこちらに?」

「ン……まぁ、あれから色々とあってだな……。そうだ、ときにオヴィム……お前の報せは助かったぞ」

「フフ……それは何より。返し切れぬ程この身に受けた大恩、僅かばかりでも返せたのであれば僥倖だ。だが……」


 進み出たアルスリードと挨拶を交わした後、傍らを振り返って言葉を続けたテミスに、オヴィムは笑みを浮かべて頷きながらも、酷く言い辛そうに口を開いた。


「思いもよらぬ久方振りの再開だ、積もる話は山々なのだが……流石にちと場所を変えぬか?」

「っ……!!」

「あ……」


 そう言葉を紡ぎながら、オヴィムがその視線をチラリと足元へと向けると、それを律儀に追ったらしいアルスリードは思い出したかのようにビクリとその身を跳ねさせ、本気で失念していたテミスは苦笑いと共に言葉を零す。

 そう。我々はつい先ほどまで、まさにこの場所で切った張ったをしていたのだ。

 なればこそ、周囲は凍り始めた血で赤く染まり、足元には死体が転がっている訳で。

 幸いな事に、ただでさえ少なかった人通りは今や完全に途絶えているが、この場が歓談に向かないのは間違い無いだろう。


「……そうだな。ならば面倒だがさっさと処理をしてしまおう。死体が見付かると面倒事になりそうだ」

「いや、それならば問題は無い。兎も角、我々は早急に場所を変えよう。着いてきてくれ」

「ン……? だが……」


 オヴィムは、自らの提案にテミスが同意したのを確認すると、小さなため息と共に腰を折ろうとするテミスを引き留める。

 そして、テミスが首を傾げながら体勢を戻す前に、既に足早に歩きはじめていた。


「……っ!? って、ちょっと待て!!」


 気付いた時にはすでに数歩、アルスリードにすらその距離を離されていたテミスは慌てて声をあげると、駆け足でオヴィムの背を追ったのだった。

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