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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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912話 誇り高き大義

 ギルファー(この国)の実情が、シズクに聞いた話と乖離している。

 テミスがそう確信したのはつい先ほど、この融和派の屋敷の玄関口で、カガリとかいう士官と剣を交えた時だった。

 仮にも、この屋敷は獣人と他種族の融和を謳う者達が集う拠点。つまるところ、このギルファーという国の中で、最も他種族に対して友好的である場所の筈なのだ。

 しかし、蓋を開けてみればこの通り。

 人間だと認識した瞬間に刃を向けられ、数々の罵倒を浴びせられた。

 これが友好の態度だというのならば、かつての魔王軍とロンヴァルディアなど、蜜月の関係の恋人同士と例えても良い程だ。


「元より、シズクが命を賭してまで嘘を吐いたなどとは思っていない。故に改めて、聞かせて貰おう。お前達の言う所の『融和』の意味を」

「…………」


 テミスは静かな口調でそう言い放つと、先程の諍いを示す意味で扉へと向けていた視線をムネヨシへと戻す。

 そこでは、弱り果てたかのように俯くムネヨシが、がっくりとその肩を落としていた。


「なに、例えお前達の語る『融和』の意味が、獣人族による他種族の支配なのだとしても、今この場所で暴れたりなどしないさ」

「いえ……ですが……現状はあまりにも……」

「フッ……クク……。ならば問いを変えよう。その現状とやらは、一個大隊で戦の最前線に立たされ、数個師団を相手取るのとどちらが困難だ?」

「なっ……? は……?」


 クスクスと笑いながら告げたテミスの素っ頓狂な問いに、項垂れていたムネヨシも思わず内心を忘れて顔を上げる。

 無論。テミスとて冗談でこのような問いを投げかけた訳ではない。

 かつて実際に潜り抜けてきた困難。血と泥に塗れながらも、苦難を切り拓いてきた実績だ。

 戦場でのやり取りとギルファーの現状を比べる等、そもそも計り方からして間違っている事などテミスとて重々承知している。

 だが、ムネヨシのようにはじめから諦めていたのでは何も始まらない。泥を啜り、砂を食み、血反吐を吐きながらも食らいつくような無茶を通すにしても、現状を理解しなければ無為に終わるだけである。

 だからこそ、まずは知る。抗うにしろ諦めるにしろ、全てはそれからなのだ。


「っ……フフ……。失敬。では改めて、私の方から詳しくご説明させていただきましょう」

「あぁ、頼む」


 しかし、テミスの真意こそ完全には伝わらなかったものの、ある程度の意図は伝わったのか、ムネヨシは静かに胸を張ると、テミスへ顔を向けてゆっくりと語り始める。


「お察しの通り、獣人族が他の種族と友好的な関わりを持ち、共に手を取り合って生きていく……そうあるべきだと考えているのは、融和派の中でもシズクや私を含めたごく少数の者達のみです」

「フム……となると、融和派を名乗る残りの連中は……」

「彼等が掲げるのは乖離と隔絶による融和……過激派の者達のように報復こそ唱えぬものの、胸に宿った怒りと悲しみを忘れ得ぬ者達です」

「なるほど。どちらも争いを厭うという一点においては同じ。過激派という強大な相手を前に手を結んだという訳か」

「はい。たとえ過激派の唱える通り、我等獣人族が他種族を隷属させる立場となったとしても、その先に待っているのは更なる報復……復讐の連鎖への未来でしかありません」

「…………」


 静かに、しかし力強く語るムネヨシの言葉に、テミスは密かに息を吐いて黙り込んだ。

 きっと、ムネヨシの言う事は正しいのだろう。過去の遺恨を忘れ、胸を焦がす復讐の炎を呑み込んで、平和な未来へと向けて歩み出す……。

 だがそれは同時に、虐げられた彼等の想いに蓋をして、犠牲を強いるのと同義で……。


「フッ……皮肉だな……」

「えっ……?」

「いや、すまない。こちらの話だ。こんな時、胸を張って誇れる大義の一つでもあれば良かったのだがな……。生憎、そんな物を持ち得ない私には、少々眩しく見えてね」


 テミスは、思わず零した自らの言葉に首を傾げたムネヨシに皮肉気に微笑みかけると、僅かに愁いを帯びた口調で答えを返した。

 もう、私にはどうする事もできないのだ。彼等の報復を許せば、その刃が向けられるのは力無き無辜の人々だ。

 無論。そんな理不尽を見過ごす訳にはいかないし、悲劇が生まれるのを看過するつもりもない。

 だが……。


「ひとまず、現状については理解した。我等も新たな惨禍が生まれる事の無いよう、お前達真の融和派に力を貸そう。そして願わくば、掴み得た争いを避けた未来で、手を取り合いたいものだな」


 僅かな沈黙の後。

 テミスは普段の彼女からは想像もしえない、まるで借りてきたかのように柔らかで優し気な笑みを浮かべると、静かにムネヨシへ右手を差し出してそう告げたのだった。

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