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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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910話 真意の在処

 ムネヨシに通されたのは、館の奥にある何の変哲もない一室だった。

 室内には畳のような草を編んだ分厚い敷物が敷かれており、その上に大きな椅子と背の低い机が設えられている。その光景は和風・洋風という概念を有するテミスにとって、石材と木材を組み合わせて作られた建物からは酷く浮いて見えた。


「こちらへ。後程給仕の者に茶を持たせましょう」

「…………」

「いかがされましたかな?」

「いや……ただ、罠がある可能性を考えていただけだ」

「っ……!!」


 部屋の入り口で戸を開け、身体を捌いてテミス達を招き入れようとしたムネヨシに対して、テミスは不自然に立ち止まって部屋の入り口を凝視した後、悪びれる素振りも無く答えを返した。

 仮にもここは人間を敵対視する国なのだ、そこで人魔平等を謳うファントの主の名を名乗ったのならば、相応の警戒はして然るべしだろう。

 しかし、黙って後ろを付いてきたシズクはそうは思わないらしく、テミスの背を突いて小声で抗議の声をあげる。


「テ……テミスさん! ムネヨシ様はそのような事をされる方ではありません! それは流石に失礼が過ぎるのでは……っ!?」

「お前は知っていても私は知らん。当り前の警戒だ」

「ですが――!!」

「――シズク」

「っ……!!」


 テミスが促されるがままに、案内された部屋の中へ足を踏み入れながらシズクの抗議に応じていると、テミス達の後ろから部屋の中へ入ってきたムネヨシが、彼女へと視線を向けて柔らかな口調でシズクを制した。


「……申し訳ありませぬ。重々ご承知かとは思いますが、シズクもまだまだ青い所が御座いましてな」

「クク……構わんさ。フム……すまないがいい加減に暑くなってきた。外套を脱がせていただいても?」

「勿論ですとも。でしたらその間に、私は茶を用意させましょう……おい! どうせ覗いて居るのだろう? 行け!」


 凍て付くような外気が支配する外とは違い、館の中はとても快適な暖かさに保たれている。それ故に、厚手の外套を身に纏っているのは少々辛いものがあったのだ。

 そんなテミスの申し出を快く受け入れたムネヨシが、何者かへ呼びかけるように声をあげると、隣室へと通じていると思われるテミス達が通ってきた扉とは別の扉から、慌ただしい音が響いてきた。


「重ねてご無礼を。優秀な者達なのですが、いかんせん好奇心旺盛に過ぎまして」

「なに、私が聞かれて困る話ではない。ムネヨシ殿がその連中が耳にしても問題無いと考えるのならば問題無い」

「フフ……寛大なお言葉、感謝いたしますぞ。それで……」


 当たり障りのない会話を交わしつつ、テミスが外套を脱いで背負っていた荷物を傍らへ置くと、ムネヨシは穏やかに緩められていた目をキラリと光らせて静かに口火を切る。


「テミス殿。貴女はご自身を、あの元・魔王軍第十三軍団軍団長にして、融和都市ファントを治めるかの御仁であると仰るのですな?」

「あぁ」

「フム……。確かに、噂に違わぬ美しき姿だ。ですが、失礼ながら町を治める立場にあるお方が、このギルファーまで来られるとは……」

「だろうな。だがまぁ……実の所を言えば私の真偽など、本当の所はどうでも良い……取るに足らない話だ」

「ホゥ……?」


 しかし、テミスは探るように己を見つめるムネヨシの視線を意に介すことすらなく、ムネシゲの正面の椅子へと腰かけて不敵な笑みを浮かべて言葉を返した。

 実際、これから行う話の内容はテミスでなく、フリーディアやマグヌスでも問題の無い内容だ。つまるところ、たとえ私が何者であろうが、ファントからの使者である事を示す事ができれば良いのだ。


「悪いが、下らん腹の探り合いは嫌いでね。私の真贋に拘るのならば、あとでシズクにでも確認をすればいいさ。兎も角、私はファントの手の者……お前達ならば、シズクが連れて来た時点でそれは理解できるはずだろう?」

「…………。確かにそうですな。我々とて獣人族と他種族の融和を掲げる者、人魔の融和を掲げるファントはいわば、志を同じくする同志と言えます」

「ンクク……同志……ね……。まぁ良いさ、ここで揚げ足を取っても面倒だ」


 ムネヨシの言葉をテミスがわざと反復してみせると、部屋に漂う穏やかな雰囲気がピシリと硬直する。その様子を黙って傍らから眺めているシズクにとっては、変わらず穏やかな雰囲気が流れて居るはずなのに、何故か同時に得体のしれない緊張感を感じる不穏な場所となっていた。


「フ……フフ……失礼。思った事は口に出す性分でね。気に障ったのならば謝罪しよう。ならば……そうだな、詫び代わりだ。まずはシズクの口から報告を受けると良い。それを私が補完する形で説明としよう」

「……。私は、構いませんが……?」

「へっ……?」


 しかし、事態は一変。

 薄い笑みを浮かべて告げられたテミスの一言により、突如として矢面へと引き摺り出されたシズクは、二人の視線を受けて首を傾げながら、裏返った声を漏らしたのだった。

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