表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

931/2314

898話 畏れの底に秘めた思い

 ファントを出立して数日。

 テミスとシズクはひたすらに北上を続けていた。

 無論。ファントの勢力圏などとうに抜けており、時には町や村へと立ち寄りながら、時には街道を外れた場所で野宿をしながら、ギルファーを目指して突き進んでいる。

 しかし、魔王領が比較的に安全であるとはいってもそれは人間領に比べての話で、旅人の荷を狙う宿屋や寝込みを襲う盗賊が居ない訳ではない。

 更に、外を出歩く時は外套で覆い隠しているとはいえ、テミスとシズクは人間と獣人の二人組。良からぬことを企む輩は少なくなかった。


「その……なんというか……」

「フン。他愛のない。悪さを働くのならばせめて相手を選ぶ程度の知能は身に付けろ。いや……相手を選んだからこそ……か?」


 道中、必要最低限の事を喋る時以外は、テミスから視線を逸らして口を閉ざしていたシズクがおずおずと口を開いたのは、宿泊していた宿の部屋を襲撃してきた暴漢達をテミスが片付けた時だった。

 同時にシズクは、酷くつまらなさそうに鼻を鳴らすテミスを見つめながら、自らが思わず漏らしたため息に、感嘆の念が混じっている事を自覚した。

 何故なら、今回の襲撃もそうだったが、悪漢たちは決まってシズクとテミスが別れた瞬間に、テミスを狙って襲い掛かっている。

 それはつまり、シズクよりもテミスの方が御し易しと判断しての事なのだろうが、テミスは毎度息一つ乱す事無く悪漢たちをねじ伏せていた。


「ン……? シズク……戻ったか。身を清めた後で悪いのだが、こいつらを片付けるのを手伝ってくれ」

「わ……解った」


 そして、テミスはズルズルと打ち倒した悪党たちを戸口の方へと引き摺り出すと、そこから覗き込んでいたシズクに声をかける。

 その後、慣れた手つきで打ち倒した悪党の懐の中を漁ると、小さな袋を取り出して部屋の中へと放り投げ、残った悪党は廊下へと打ち捨てた。

 そんな作業にシズクが加わり、五分と経たずに荒れていた部屋の中が片付くと、再び気まずい沈黙が室内を支配した。

 だが、そんな雰囲気などテミスは気に留める様子もなく、今は先程の盗賊たちから奪い取った小さな袋を開け、中身の貨幣をひとまとめに集めている。


「あの……」

「どうした? なにか用か?」

「いや……その……ですね……」


 作業を続けるテミスへシズクが声をかけると、テミスは戦利品を開封する手を止め、身体ごとシズクへと向き直って視線を向けた。

 しかし、意を決して声をかけてみたものの、視線を合わせた途端に固めたはずのシズクの覚悟は音を立てて崩れていき、視線をせわしなく動かしながら曖昧な言葉を紡ぐ事しかできなかった。


「なんだ……? これの事(・・・・)ならば先日話した時に納得したはずだろう?」

「いえっ……!! は、はい……。納得しています! その事では……なくて……」


 手に残った空の小袋をシズクへ向け、ひらひらと振りながらテミスが問いかけると、シズクはビクリと肩を跳ねさせた後、ブンブンと首を横に振りながら上ずった声で言葉を返した。

 ――金を奪い取るのは命の対価。

 それは、はじめて強盗に襲われた時、相手をひたすらに追い込んだ後、金を奪ったテミスを諫めたシズクに告げられた理論だった。

 曰く。舐めてかかった相手に返り討ちに遭い、誇りを打ち砕かれるだけでは意味がない。

 自らを支える自身とも呼べる誇りを完膚なきまでに折り砕かれる痛みを、身ぐるみを剥がされるという実害を伴って味わう事により、彼等は初めて自らの蛮行を顧みるのだという。

 確かに、この手の輩は襲った相手に慈悲をかけられて見逃されたとしても、運が良かったと嘯くだけで終わりだ。

 故に、シズクはテミスの行いを諫めるつもりは無いし、むしろ金も命も奪って余りある強さを持ってるにも関わらず、生かして返すだけ慈悲深いとまで考えていた。

 だからこそシズクは、テミスに引き摺り出されるまで傷が癒えたにも関わらず病院に籠っていた事や、ファント出立の際に感じた不穏な空気に後ろめたさを感じていたのだ。


「だったら何だ? 決して短くない旅だ……私が気に食わないのは理解できるが、何か問題が起こる前に、いい加減まともに口を利いてくれないか?」

「ぅあ……えとっ……その……っ!」


 しかし、シズクの心中を知り得るはずも無いテミスは、深いため息と共にシズクを見据えて言葉を返す。

 無論。一度固めた決意の崩れたシズクが、テミスから放たれる圧力に抗える訳も無く、目尻に涙すら浮かべて意味のない言葉を繰り返した。


「ハァ……。ったく……仕方のない奴だな……。付いて来い」

「え……?」


 するとそんなシズクを見たテミスは、再び肩を落として大きなため息を吐くと、不敵な笑みを浮かべて身軽な動きで立ち上がったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ