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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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897話 背中を押されて

 翌朝。

 燦然と煌めく朝日が照らし出す中、テミスは青い顔をしたシズクを傍らに連れ、ファントの門に立っていた。

 外套を羽織った二人の背は大きく盛り上がっており、その外套の下に大荷物を潜ませているのが見て取れる。


「それでは、行って来る」

「っ……」

「ハッ……!! どうか、お気を付けて。留守は安心して我等にお任せください」


 柔らかに告げられたテミスの言葉に、二人を見送るべく見送りに出てきていたマグヌスとサキュドが、片や誇らし気に胸を張り、片やその傍らで自信に満ちた笑みを浮かべて言葉を返す。

 しかしそんな二人の隣には、昏い表情を浮かべたフリーディアが佇んでおり、その傍らではカルヴァスとミュルクが彼女を護るかのように控えていた。


「あぁ。可能な限り逐次連絡を寄越すとしよう。だが、あちらの状況が不透明な異常、不用意に援軍を出そうなどとは考えるな。私の事は何とでもなる、この町の事を第一に考えろ」

「テミス様……。っ……承知いたしましたッ!!」

「…………」


 使命感に溢れるマグヌスに、テミスが釘を刺すように忠告をすると、マグヌスはその瞳を感涙に潤ませ、噛み締めるかの如く大きく頷いてから敬礼を返す。

 だがその様子を傍らから眺めるフリーディア達の表情は優れず、ミュルクに至っては疑心に満ちた瞳でテミス達を睨み付けている。

 無論。その視線にサキュドが気付いていないはずも無く、感動に打ち震えるマグヌスの傍らから、ミュルクへ向けて冷ややかな視線を向けていた。

 そして、気が済んだのか会話を終えたマグヌスがテミスへ身体を向けたまま一歩退くと、サキュドはその隣を音もなくすり抜けて口を開く。


「……テミス様。それはつまり、この町に潜む不穏分子の掃討をしても構わないという事で?」

「フッ……不穏分子だと? 何を指しているのかは知らんが、確実に敵性存在であると確認したならば排除して構わんさ。ただ……独断で突っ走るなよ?」

「ウフフ……お分かりのクセに……テミス様もお人が悪いわ? ですが、承知いたしました」


 その問いに、テミスがニヤリと口角を歪めて答えを返すと、サキュドはクスクスと笑い声を漏らして応じながら、瞳だけを動かしてジロリとミュルクを睨み返した。

 そんなサキュドの様子に微かに息を吐いた後、テミスはチラリとフリーディアへ視線を送る。

 この様子を見るに、ここ最近のファントを取り巻く事情は、サキュドもよく知っているのだろう。

 だからこそ、口だけで腕の無い者を嫌う彼女の性格を鑑みれば、この機を逃す事無く一掃する腹積もりが伺えた。

 対して、今回の件をきっかけに疑心を向ける者達が、何やら良からぬことを画策しているという噂も耳にしていた。

 故に、テミスはあえて戦いを禁ずることはせず、敵だと判じた場合のみの掃討を許可したのだ。


「ハッ……何が反乱分子だ。仮にも町を護る責を負うヤツがこんな時に何処へ行くのやら。逃げ出す準備でもしてるのかね?」

「っ……!! リック!! 口を挟まないと言ったから同行を許したのよ!?」

「勿論ですフリーディア様。これはただの独り言です。多少は見直しても良いと思いはじめた途端に裏切られた馬鹿な騎士のね」

「リックッ!!!」


 だが、サキュドの言葉を挑発と受け取ったのか、ミュルクが大きな独り言(・・・)を漏らす。すると即座に、昏い表情を浮かべていたフリーディアが目尻を吊り上げて諫めにかかる。

 ここまでは白翼騎士団と黒銀騎団にとっては、ある意味で見慣れたいつもの光景だった。

 しかし……。


「……フリーディア様。ここはどうか御許しを」

「なっ……!? カルヴァス!? 貴方まで何を……ッ!?」

「クスッ……。テミス様、ご安心くださいな。この町は我々が(・・・)お守りします。テミス様がお戻りになる頃には、より綺麗な町になっているかと」

「っ……!!!」


 毎度の事であれば、フリーディアと共に逸るミュルクを諫めるはずのカルヴァスが、フリーディアを止めた瞬間だった。

 ゾクリ。と。

 眼前のテミスでさえも僅かに肌が粟立つほどの殺気を放ちながら、サキュドが満面の笑みを浮かべて再びテミスへと一礼する。

 それは言外に、テミスへと疑心を向けるミュルク達を掃除する(・・・・)と宣言しており、テミスは自身の予測を越えて深まりつつある溝に小さくため息を吐いた。


「……各々、己が信に従うのは構わんが、正義を見失うのは許さんぞ? 何故、私が出るか……その理由もよく考えてみろ」

「勿論です。我が忠に誓って」

「フン……」


 そんな様子から、僅かに最悪の事態を予見したテミスが改めて言葉を重ねて釘を刺すが、両者の纏う気配が揺らぐ事は無かった。

 根も葉もあれど、所詮は時と共に真実が明かされる噂。懐疑の芽たる自分自身が居なくなれば、ある程度は落ち着きを取り戻し、あとは時間と共に落ち着きを取り戻すものと思っていたのだが……。


「……。お前達、くれぐれもこの町を頼んだぞ」


 そう僅かに考えこんだ後、テミスは視線をマグヌスと合わせ、その後にフリーディアと合わせて告げると、二人が小さく頷いたのをしっかりと確認してから、その身を翻してギルファーへと出立したのだった。

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