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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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895話 残される者達

 テミスが自らのギルファー行きを決めてからというもの、ファントの町は蜂の巣を突いたかのような大騒ぎになっていた。

 無論、それはマグヌスやサキュドといった事情を知る一部の将校級の者達で、市井の人々や衛兵達などはいつもと変わらぬ平穏な日常を謳歌している。


「テミス!! 本気で行くつもりなの?」

「くどい。何度も言わせるな」


 しかし、テミスの決定を知った者は皆、口々に異論を呈し、フリーディアに至ってはこうして日に何度も執務室を訪れては、あの手この手を用いて引き留めようとしていた。


「仮にも貴女はこのファントの長なのよ? そんな貴女が向かわずとも、ギルファーへ派遣する人員は居るでしょう?」

「居らんよ。私以上の適任者など、例えライゼルやヴァイセ達を含めたとしてもな」

「っ……!! 彼等で不足だというのなら、私だって――」

「――馬鹿が。お前が居なくなったならば、白翼騎士団をどうやって御するつもりだ?」

「だったら!! 黒銀騎団はどうなのよッ!?」

「問題無い。指揮ならばマグヌスやサキュドでも執れるし、なんならお前の指揮にも従うさ……白翼騎士団(お前達)と違ってな」

「っ……!!!」


 テミスは書類に目を通す片手間でフリーディアの意見を悉く封殺すると、小さくため息を吐いて視線を上げた。

 確かに、私がギルファーへ向かうと決めたのは、ファントの町を治める者などという分不相応な役から逃れるという思惑もある。

 だが、この町に集う者達の中で、テミス自身がギルファーへ向かうのに最も適した人材であるというのも事実だった。


「……考えてもみろ。ギルファーの連中が獣人以外を快く迎えるとでも? そんな中、仮にサキュドを向かわせてみろ。奴の事だ、下手をすれば気に入らん連中を皆殺しにしかねん」

「なら私たちは? 白翼騎士団には誓ってそんな暴虐を働く者なんて居ないわ!!」

「役不足なんだよ。盗賊連中を思い出してみろ。奴等は人間と見れば間違いなく侮ってくる。そんな連中を時には躾てやる必要もあるだろう。お前達のやり方では逆にファントが舐められかねん」

「っ……!!」


 呆れたような半眼をフリーディアへと向けたテミスは更に理由を重ねると、頑として譲らないフリーディアに正論を叩きつける。

 実際、ミュルクやカルヴァスのような普通の騎士団連中ではなく、ライゼルのような私と同じ転生者であったのならば、力を見せ付けるのにさほど苦労はしないのだろう。

 だが、今のライゼルはあくまでもただの白翼騎士団の一員であり、力を見せ付けたところで前線で使い倒されるのがオチだ。

 それは、黒銀騎団に所属するヴァイセであろうと同じ事で。結局の所、ある程度の肩書を持ちながら、喧嘩を売ってくるであろう獣人を程よくなぎ倒せる者となると、真っ先に名が挙がるのはテミスなのだ。


「それに……ミコトやレオンはあくまでもエルトニアからの食客だ。他国の人間をまた貸しする訳にもいくまい」

「それは……そう……だけど……」


 断言するテミスに、フリーディアは歯切れ悪くそう答えると、何かを思い悩むかのように視線を彷徨わせた。

 おおかた、先日の一件で私への苦手意識が刷り込まれたらしいシズクに懇願されているのだろうが、どうあがいた所でこの決定に変更は無い。


「な……ならせめて私も一緒に行くわッ!!」

「ハッ……何を言い出すかと思えば……。そんな案など却下に決まっているだろう」


 遂に返す言葉に窮したのか、フリーディアは眉根に深い皺を寄せて数十秒ほど考え込んだ後、突拍子もない意見を叫び始めた。

 意図して自らの仕事を減らし、ファントの町の運営から一歩退いていたテミスだけならば兎も角、日々積極的にこの町の様々な業務に励んでいるフリーディアまでも抜けてしまえば、様々な問題が起こる事など火を見るよりも明らかだ。


「何を言おうが決定に変更は無い。それにファント(我々)とて戦力に余裕がある訳ではない。私が抜けた分の穴はお前達で補って貰わねばならんのだぞ?」

「だからこそ私は――!!」

「――現在のファントから抽出できる戦力で、最もギルファーに対して有効な戦力は私だ。余裕がないからこそ、戦力は効率良く使わなければならん。フリーディア……お前も指揮官ならば、この程度の事がわからない訳が無い筈だが?」

「っ……!!!」

「フン……。出発はシズクの体調が回復し次第なのだ。ならば、こうして無駄に私へ食って掛かる前に、やるべき事をこなすべきだと思うがな」


 テミスの畳みかけるような言葉に、フリーディアはまるで痛みを堪えるかのように歯を食いしばって黙り込んだ。

 そんなフリーディアから、テミスは皮肉気に鼻を鳴らして視線を背けると、話は終わりだと言わんばかりに冷たい言葉を叩きつけたのだった。

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