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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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881話 報いの暴刃

「わからないな……。何故……まるで、何もかもが終わったかのような顔で眺めている?」


 蝋燭が溶け、歪んだかのような笑顔と共に紡がれたその言葉は、まるで悪魔の嘯いた呪言だった。

 その場に居るテミス以外の誰もが、戦いの終わりを確信し、己が五体が満足であることに……傷を負いながらも生き残った事に胸を撫で下ろしていた時。そんな、ある種の弛緩した空気の中に投げ込まれた投石の如く。

 テミスの発した言葉を耳にした者達は、一様に背筋を震え上がらせた。


「じょっ……じょっ……冗談は止せよッ!!」

「コウガさんがやられたんだ……勝てるわけがねぇ……」

「聞こえねぇのかッ!? 降参だよ降参ッ!!」


 しかし、盗賊たちは紛れもない恐怖を覚えながらも、心の何処かで思っていたのだろう。目の前に立つ人間の女が、今更そのような暴虐など振りかざしはしない……と。

 故に、彼等が口々に喚き立てる言葉にはまだ、何処か拗ねたように投げやりな感情が見え隠れしており、手に携えた武器を投げ棄てている者はほとんど居なかった。


「クク……フフッ……ハハハ……」

「っ……!!! な……ぁ……」


 だが、自らに残った僅かな誇りを守る為に張っていた虚勢も束の間。

 悪魔の如く吊り上げられた唇の隙間からクスクスと不気味な笑みを漏らしながら、テミスが軽やかな足音と共に歩み寄ると、盗賊たちは互いに不安気な視線を交わした後、ゆっくりと震える足で後ずさりを始める。

 間もなく。


「ぁ……ひっ……うわァァァァッッ!! 降伏ッ!! 降伏ですッ!! か……勘弁してくださいッ!!」


 不運な事に、テミスに最も近い場所に居た一人の男が、耐え切れずにあげた悲鳴と共に武器を地面に投げ棄てると、まるで雪崩のように次々と周囲の盗賊たちも喚き声を上げながら武装を解除し始めた。

 だがそれでも尚、テミスの足が止まる事は無く、サクリ……パキリ……と一定のリズムで音を刻みながら、怯え切った盗賊たちの元へとその距離を詰めていく。


「ぅ……ぁぁぁ……な……なんでっ……!?」

「こここッ……降伏ッ! 降参ッ!! 俺達の負けですッ!! だから……どうか命だけはッ……!!」

「ひぃぃっ……く……くるな……。頼む……こっちへ来ないでくれぇぇっ……!!」


 そして、盗賊たちの顔が恐怖と絶望に染まり、口々に叫ぶ言葉が命乞いへと変わった頃。

 ゆったりとした足取りで歩み寄っていたテミスの腕が、遂に一人の盗賊の肩を捕らえる。

 その頃には既に、武器を手に持っている者など一人も居らず、中には涙を流しながら身を包む防具までも脱ぎ始めている者も居た。


「ひぃ……ぁ……ぅぁ……」

「なんで……? どうして……? か……」

「ぁぁ……ぁぅ……」

「ならば、私から一つ問うとしよう」


 まるで、幼子に言い聞かせるかのようにゆっくりと。囁くような声で紡がれたテミスの声は、耐え難い恐怖でガタガタと震える盗賊たちの鼓膜を静かに振るわせる。


「お前達は同じ言葉を向けられた時……一体どう答えた?」

「ヒッ――ギャッ……」

「ぁぁ……あああああああああああッッッ!!!」


 刹那。

 問いを紡ぎ終えると同時に、テミスは悲鳴をあげかけた盗賊の首を削ぎ落とすと、グラリと力を失った身体を傍らへと打ち捨てて一歩を踏み出した。

 それに一瞬遅れて。削ぎ落とされた仲間の首が宙を舞い、ドスリと地面へ落ちた音が響き渡った瞬間。

 盗賊たちは狂ったように絶叫すると、一斉にテミスに背を向けて、雲の子を散らすように逃げ出し始める。

 だが。


「ハハハハハッッ!!! どうしたッ!?」

「待って……許し――ぐギャッ!!?」

「到底敵わぬ相手と知った途端、ピィピィ泣き叫んで逃げ惑うだけかッ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 死にたくな……ガぁっ……」


 テミスは高笑いと共に逃げ惑う盗賊たちの背に追い縋ると、その無防備な背に刃を浴びせ、突き刺し、切り裂いた盗賊の懐から抜き取ったナイフを投げ付け、次々と生き残った盗賊たちの息の根を止めていく。


「これが貴様等の語る正しさだと理解したかッ!? 今、どんな気分だ? 喰う側から喰われる側へと堕ちた気分はッ!?」

「嫌だァッ……!! 嫌だ嫌だイヤだぁぁぁッッ!!! ごブッ……ァ……」

「……嬲られ、蹂躙される側に立って尚。弱者から幸福を……命と尊厳を奪い取る事が正しいと語れるか?」


 逃げ惑う盗賊たちの最後の一人。その断末魔の叫びが響くと共に、静かに紡がれたテミスの言葉が静まり返った森の中へと響き渡る。

 だが既に、その問いに答えられる者は居らず、周囲には森を染め上げる程に夥しい量の血と、物言わぬ骸となった盗賊たちの遺体が散らばっていたのだった。

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