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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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872話 護り手の怒り

 一方フリーディアは、猛然とコウガへ斬りかかるテミスを視界の端に収めながら、自らも剣を構え、その背に倒れ伏すシズクを庇いつつ残った盗賊たちと相対していた。

 しかし、フリーディアの意識の大半は、ひたすらに危険な攻撃を繰り返すテミスへと向けられており、テミスが無謀な特攻とも言える攻撃を繰り出す度に悲鳴にも似た小さな叫びが、その口から零れ出る。


「っ……!! やっぱり無茶よッ……!!」


 ただ、目に映る戦況だけを見れば、息も吐かせぬほどの猛攻を繰り出すテミスが、圧倒的な優位に立っているかのように思えるだろう。

 だが、多少なりとも本当の剣を……戦場での戦いを知る者であればすぐに気付くはずだ。

 実際の優劣は真逆。一見、凄まじい勢いで攻め立てているテミスよりも、その攻撃を受け切り、微動だにしていないコウガの方が圧倒的に勝っているのだと。

 けれど、そんな圧倒的に不利な戦いを繰り広げるテミスに、フリーディアは加勢する訳にはいかなかった。


「それで……どうするよ……?」

「コウガさんはああ言ったケド……なぁ……?」

「あぁ……見ろよ。あの女、やる気だぜ……」


 テミスとコウガが激しい剣戟を繰り広げる傍ら。そこでは、少し離れた位置からこちらの様子を伺い、ボソボソと言葉を交わす盗賊たちの声が、フリーディアの元まで漏れ聞こえてきていた。

 その内容はこちらの様子を探るかの如く酷く剣呑で、事前にテミスが焚きつけていった所為もあるのだろうが、フリーディア自身もただ観戦に興じて居られる雰囲気ではない。


「あんな女に舐められたままでたまるか!! やってやろうぜ!」

「で……でもよ……見ろよアイツ……コウガさんとマトモにやり合ってやがる……。人間のクセしてバケモンだぜありゃぁ……」

「そんなヤツのツレか……ううぅむ……」

「っ~~~~」


 チラチラと自らの様子を盗み見ながら交わされる会話に耳を傾けながら、フリーディアは胸の奥から湧き上がってくる濁った感情を、歯ぎしりと共に飲み下していた。

 どうやら、彼等は私をテミスの同類であると見做しているらしく、当のテミスに煽り立てられた怒りを以てして尚、彼等の中の感情は未だ五分と五分らしい。

 つまるところ、彼等の思いはテミスとコウガの繰り広げるこれからの戦況によって如何様にも傾くものなのだ。

 そしてそれは、テミスとコウガの力量の差を正しく理解しているフリーディアにとって、おおよそ戦いが避けられ得ぬであろう事を意味していた。


「待っ――」

「――ふざっ……けんじゃねぇ!!」


 ならば、彼等の意志が戦いへと傾く前に……。

 そう考えたフリーディアが声をあげかけた時だった。

 額を突き合わせて言葉を交わしていた盗賊たちの後ろから、怒声と共に一人の獣人が姿を現した。

 その獣人の身体は酷く血に汚れており、フリーディアは一目で彼が既に一度戦いを潜り抜けたのだと理解する。


「テメェ等たかだか人間のメス一匹になぁにケツ捲ってんだ! あそこで倒れてるヤツにはキバの兄貴がヤられてンだぞ!!」

「ッ……そ、そう……だよな……。相手は人間……ニンゲンだァ……」

「クッ……キバ……何でお前がッ……!!」


 その一言の勢いに押されて、血濡れた獣人に焚きつけられた盗賊たちの目にも、ギラギラとした闘志が次々と宿っていく。

 まずい……と。

 フリーディアは口を挟む間もなく急転した状況を敏感に感じ取ると、シズクを戦いに巻き込まぬよう、半ば反射的に彼女が倒れ伏す傍らから数歩前へと進み出た。

 同時に。


「テメェ等が行かねえんなら俺一人で行くぜ。アレは俺とキバの兄貴の獲物だ……テメェのケツくらいテメェで拭いてやらァ……」

「っ……!! 俺も行くぜ!!」

「馬鹿野郎……そこまで言われて逃げれるかよ……」


 両手に握り締めた血みどろの短剣を手に、血濡れた獣人が気迫を漲らせてゆっくりと前へと進み出る。

 そして、それに導かれるように、周囲の盗賊たちも手に手に武器を携え、それぞれの表情を浮かべながらフリーディアと相対した。


「その短剣……。そう……貴女が彼女を……」


 それに対してフリーディアも、先頭に立って向かって来る血みどろの獣人を見据えた後、スラリと剣を構えて呟きを零した。

 応急手当とはいえ、紛いなりにも間近で傷を診たのだ。どのような武器から受けた傷なのかくらいは理解できる。


「安心して。殺しはしないわ。でも……これ以上罪を重ねるのは許さない」


 フリーディアは小さく息を吐いて意識を切り替えると、剣を構えたまま獣人たちを睨み付け、静かな声で言い放つ。

 その瞳には静かながらも確かに、燃え上がるような光が宿っていたのだった。

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