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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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869話 天焦がす怒り

「ククッ……クハハッ……アハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!」


 昏い森の中に狂笑が響き渡る。

 周囲を囲む大勢の盗賊たちと、彼等を統べているであろう大男の眼前で。テミスは構えていた剣すら降ろし、その目尻にうっすらと涙すら浮かべながら、天を覆う鬱蒼とした木々を仰ぐかのように身体を反らし、腹を抱えて爆笑していた。

 その笑い声はどこまでも狂気的で、まるで悪魔が微笑んでいるかの如く、聞く者全ての胸の内に不安を抱かせた。


「テミス……」

「……何が可笑しい?」


 しかし、背後のフリーディアですらも不安気な声をあげたこの狂笑にすら、コウガと呼ばれた獣人は僅かに眉を顰め、怪訝そうに問いを口にしただけだった。

 それでも尚、当のテミスがその問いに答える事は無く、ざわざわと不安気に言葉を交わし始める盗賊たちの前で、ただひたすらに笑い続けている。

 そして暫くの間。その場に張り詰めた緊張の糸が僅かに緩み、テミスの前に立つコウガの顔にいら立ちが浮かび始めた頃。

 漸く気が晴れたのか……それとも、思う存分笑い転げたのか。狂ったような大爆笑を止めたテミスが、その双眸を静かにコウガへと向けて口を開いた。


「フゥ……ッ……笑った笑った……。それで……? 何が可笑しい……だったか?」

「っ……!!」


 そう問い返したテミス顔には酷く歪んだ皮肉気な笑みが浮かべられており、苛立ちと疑心が綯い交ぜになっていたコウガの胸中に、仄かな警戒心を芽生えさせる。


「……俺は姉さんに殺られた部下達の仇討ちの為。姉さんは後ろの二人を守る為。俺達がこれから始めようとしていたのは、互いの命と誇りを賭けた勝負の筈だ。それが何かい……? そんなにも笑っちまうくらい可笑しかったかい?」


 だが、コウガは胸中に渦巻く感情を一切表に出す事は無く、ただ静かな口調で問いを重ねただけだった。ただし、先程の問いよりもより精細に問われたその内容の端々には、自分達の誇りをかけた決闘を前に狂笑をあげたテミスへの、明らかな非難がちりばめられていた。


「クハッ……。誇りに……勝負と来たか……。クククッ……。止してくれよ。お前は私を笑い死にさせる気か?」

「何……ッ?」

「あぁ……可笑しいとも」


 しかし、ニンマリと意地の悪い嗤いを浮かべたテミスの返した答えは皮肉に満ち満ちており、その向口上は冷静さを保っていたコウガでさえ、テミスへ向けて力強く一歩を踏み出す程だった。

 それでも尚、コウガに問われたテミスが言葉を止める事は無く、まるで挑発しているかのようにクスクスと嗤いながら、コウガに突き付けるように指を立てると、歌うように口上を続ける。


「一つ。雑魚共をけしかけて体力を削り、後から悠々と出てきて正々堂々など片腹痛い」

「二つ。勝負だなんだとご立派な口上を並べた所で、部下を周囲に控えさせておいて、敵である私にお前の何を信じろと?」

「三つ。盗賊にも劣る畜生以下の外道風情が誇りだと? 馬鹿も休み休み言え」

「四つ。そんな獣がさぞ偉そうに出てきて人の言葉を囀っているのだ。笑うなという方が無理だろうッ!!」

「ッ……!!! コイツッ……調子に乗りやがってッ!!」


 テミスが指折り数えながら高らかに答えを告げると、周囲でそれを聞いていた盗賊たちが怒りに表情を歪め、口々に怒声をあげ始める。

 だが、真正面からテミスの言葉を受けたコウガはただ、燃えるような目でテミスを睨み付けていただけで、口を挟むことなくテミスの言葉に耳を傾けていた。

 そして……。


「そうかい……。折角腕の立つ、見所のある奴を見付けたと思ったんだがな……。姉さんがそういうつもりなら仕方ねぇ――」

「――五つ」


 抜き放った大太刀の柄をぎしりと握り締め、コウガが深いため息と共に煮えたぎる怒りを吐き出しながら口を開くが、短くも力強いテミスの声がその言葉を遮った。

 同時に、コウガへと突き付けられ、口上と共に立てられていったテミスの指の最後の一本が立てられた後、開かれた掌がゆっくりと提げられていく。


「仇討ちだと……?」

「っ……!!」


 続いて放たれた言葉は、それまでコウガ達に告げられていたテミスの言葉のどれよりも低く、腹の底から吐き出すようなその声は、濃密極まる殺意で覆われていた。


「お前達が吐いて良い言葉じゃねぇんだよ。人様の幸せを傷付けて、大切なモノ奪って、高笑いして生きているテメェ等が」

「なっ……」


 その、口調すらも豹変したテミスの言葉は、それなりに付き合いの長いフリーディアですら聞いたことも無い程の怒りで満ちていた。そして、フリーディアは憚る事無く垂れ流される殺気に、テミスの背に守られているにも関わらず、殺気に中てられた自らの肌が急速に粟立っていくのを感じた。


「仇討ちはこっちの台詞だ。よくも私の家族をやってくれたな……駆除してやるよ害獣共」


 しかし、今のテミスが背後の事を気にかける余裕があるはずも無く、周囲すらチリチリと焦がす怒りに満ちた殺気と憎悪をまき散らしながら、ゆらりと剣を構えたのだった。

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