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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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865話 届かぬ想い、交叉する運命

「ハッ……ガッ……ゼェッ……!!!」


 数分後。

 シズクはボロボロの身体を引き摺りながら、森の中を疾駆していた。

 少し離れた背後からは、追手と思われる者達の怒声と共に、ガサガサと派手な足音が迫ってくる。

 私の捨て身の攻撃……この身を裂きながら放った下段からの脇差の一撃、そして同時に打ち込んだ、ケンと呼ばれていた獣人の身体を鞘に見立てての居合い斬り。私の決死の反撃は、確実にあの鉤爪の男を捉えていた。

 にもかかわらず、こうして私に追手がかかっているという事は、彼等はシズクが期待した程度のちっぽけな良心すら持ち得ていなかったのだろう。


「探せェッ!! ぜってぇ逃がすなッ!!」

「ウッ……ァ……」


 響き渡る怒声を背に受けて、シズクは焦る心に従って駆ける足を更に早める。

 今の私があの追手たちを撒くことは不可能だろう。

 じりじりと灼けるような感覚を発しているくせに、どこか冷静さを保っている意識の中で、シズクはそう判断した。

 何故なら、両の肩口からだくだくと溢れる血が、シズクが遁走した痕跡としてべっとりと周囲の木々や下草へと落ち続けている。

 だが、溢れる血を止めようにも、深手を負った両腕には既に力など入らず、辛うじて微かに残った感覚で、己の愛刀を握り続けるのが精一杯だった。


「ッ……フゥッ……ゴホッ……」


 ごぼり……と。

 口の端から、喉の奥から咳と共に溢れてきた血を滴らせながら、シズクは一心不乱に森の中を駆け続ける。

 こうして深手を負った今、最早なりふりを構っている場合ではない。囚われても構わない。手当を施される事無く打ち捨てられ、野垂れ死んでも構わない。

 だがせめて……たとえ盗賊の首級という己が身への疑いを雪ぐ手土産が無くとも、この一件を皮切りに、新たな戦がはじまる事だけは避けなくてはならない。


「ッ……!! わた……私……はッ……!!」


 最早、傷の痛みなど感じない。

 そう、シズクは時折霞みがかる意識を唇から零れる程の使命感で繋ぎ止めながら、自らがここまで辿って来た道を全速力で駆け戻っていった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一方その頃。

 休息を終えたテミスとフリーディアは、再び暗い森の中を進み始めていた。

 時にはたどたどしい手つきでテミスが下草を払いながら、時には慣れた手つきでフリーディアが藪を漕ぎながら。

 しかし、怒れる感情のままにファントの町から飛び出てきたテミスに当てなどある訳も無く、二人は何度も交代を繰り返つつ、闇雲に森の中を突き進むしか無かった。


「……ねぇ? テミス」

「何だ?」


 そんな、無謀とも思える前進を続けて暫くの時間が経った頃。更に数度の交代を経て、再び微かに息のあがりはじめたテミスの背に向けて、フリーディアが口を開く。


「言い辛いんだけど……その……」

「言い辛いのなら辞めておけ」

「でもっ……!!」

「でももカカシも無い。立ち止まるという選択肢などあり得ない。かといって、私の個人的な復讐に、サキュドやマグヌス達を付き合わせる訳にはいかない」


 だが、自らの背後から遠慮がちに響くフリーディアの声に、テミスは一瞬たりとも迷うことなく、憮然とした口調で叩き伏せた。

 そもそも、この捜索が怒りに任せた無謀な行いだなどという事は、独り町を出た時点から理解している。

 それでも……そんな事など全て理解したうえで、私はアリーシャをあんな目に遭わせた奴に報いを与えに来たのだ。


「なら……今もこうして付き合ってる私はどうなるのよ?」

「知るか。お前は勝手に付いてきたんだろう」

「そりゃぁ……そうだけど……」

「気が乗らんのなら今すぐに戻るがいい。お前が居ない事が知れれば、黒銀騎団(ウチ)の連中は兎も角、白翼騎士団の連中は大騒ぎだろう」


 冷たい口調で言葉を返すテミスに、フリーディアがクスリと微笑みを浮かべて応えると、前を行くテミスが下草を刈る手に僅かな力が籠る。

 今の私にできる事などたかが知れている。今この場にフリーディアが居なければ、これ程までの短時間でここまで森の深くまで分け入る事はできなかっただろう。そしてこの先も、彼女の同行があればどれ程順調に事を勧める事ができるだろうか。

 そんな事は十分身に染みて理解している。しかしそれでも、彼女と対等以上の戦友(ライバル)であった身としては、頭を下げて同行を乞う事はテミスにはできなかった。


「心配しなくても、ここまで付き合ったのだから一緒に行くわよ……。大丈夫。今のリック達なら、貴女と私が同時に居なくなったのなら、無茶に身を投じる貴女を私が追った事くらい解るわ?」

「っ……!! フンッ……。ッ――!?」

「……!? テミス? どうし――ッ!!」


 言葉を交わす二人の間に、何処か面はゆい空気が漂い始めた瞬間。

 突如、先を行くテミスがピクリと肩を跳ねさせると、藪を漕ぐ手を止め、立ち止まって剣を構えた。それに一瞬遅れて、フリーディアも遠くから急速に近付いてくる、がさがさという音を捉え、即座に腰に収めていた剣を抜き放つ。


「っ……!!」

「…………」


 そして、フリーディアとテミスは特に示し合わせる事も無く、互いに背を預けた格好で剣を構えると、緊張した面持ちで刻一刻と近付いてくる何者かに備えた。

 その頃には、二人へ向けて駆けてきているであろう何者かの立てる音に混じって、荒々しい吐息が微かに聞こえはじめていた。


「……。一体何が――ッ!!!?」


 数秒の後。

 怪訝な声色でボソリとテミスが言葉を零した途端。

 テミスの眼前。その傍らから突如として飛び出してきた何者かが、そのまま止まることなくテミスに衝突し、その勢いを受け止め切れなかったテミスが、何者かに押し倒されるようにして身体ごと真横に吹き飛ばされる。


「――テミスッ!?」

「グッ……ァ……何だこの――ッ!?」


 異変を察知したフリーディアが即座に身を翻し、何者かに押し倒されたテミスはその身体の下から這い出ようと、その背に手を回してその感触に凍り付いた。


「シズクッ!? あなた何でッ……!!」

「これ……は……ッ!?」


 直後。

 血みどろで倒れ込むシズクの姿を視界に捉えたフリーディアの悲鳴のような叫びと、べっとりと己の手を濡らす血の感触に息を呑むテミスの声が、森の中に響き渡ったのだった。

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