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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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853話 薄闇の中で蠢く者

 森の中は生い茂る木々によって日光が遮られ昼間といえども薄暗く、ひとたび太陽が傾けば、たとえ奥へと分け入らなくともたちまち薄闇に呑まれる羽目になる。

 そんな事は、頻繁に森の中を出入りする旅人や冒険者にとっては、わざわざ語るべくもない常識なのだ。

 故に。同行したシズクも、単身で森へ乗り込もうとしていたアリーシャが、よもや不文律にも等しい常識を持ち得ていないとは、夢にも思わなかったのだろう。


「うぅ……ごめんね? まさかこんなに真っ暗になるなんて……」

「っ……。いえ……」


 しょんぼりと肩を落としたアリーシャが、今にも泣き出しそうな声でそう告げると、腰に提げた刀の柄に手を番えたまま先行していたシズクは、小さくかぶりを振って答えを返す。

 今ここで、アリーシャを責めた所で何の意味も無い。強いて言うのならば、夢中で採集を続けるアリーシャに、自分がもっと早く声をかければよかったのだ。

 胸の中で壮行会の呟きを漏らした後、シズクは鋭敏に張り詰めた気を保ちながら肩越しにアリーシャを振り返ると、優し気の微笑みを浮かべて口を開く。


「それよりも、無事に帰る事を優先しましょう。大して深くまで入った訳ではないですから、ゆっくりと……せっかく採った食材を落とさないようにいきましょう」

「うん……うんっ……!! ありがとぉ……」


 シズクがそう柔らかに言葉をかけると、アリーシャは何度も深く頷きながら、まるで小さな子供のように怯えた様子で、シズクの後を追って来る。

 その肩には、アリーシャが夢中になって採集をした成果が、まるで彼女の優しい想いを声高に語るように、パンパンに膨らんだかばんとなって鎮座していた。


「ふむ……」


 しかし、アリーシャを励ます手前、口ではそうは言ったものの、シズク達にとって現実はそんなに優しいものでは無かった。

 確かに、ただ森の中に滞在し過ぎてしまっただけならば、さして問題は無かっただろう。

 だが、シズク達の周囲には、今も尚こちらの様子を窺うように付いてきている者達が居り、それらの動向を警戒しながら、不気味に景色の一変した森の中を進むのは、いくらシズクといえど厳しいものがあった。


「アリーシャさん。私の記憶が正しければ、あと少し進めば僅かに森が開けた場所があるはずです。そこで一度休憩にしましょう」

「えっ……!? で……でも……!!」

「焦る気持ちはわかります。ですが……言ったでしょう? ゆっくりと、無事に帰る事を優先しましょう。と。私も……少し疲れましたし」

「っ……! あ……ありがとう……」


 アリーシャは、一刻も早く森を出なければという思いに駆られていたのだろう。シズクが小さく笑みを浮かべてそう告げると、疲労を滲ませて伏せていた顔を上げ、表情を焦りに変えて言葉を詰まらせる。

 けれど、すかさず重ねられたシズクの優しい言葉に、アリーシャはコクリと頷いて力強く一歩を踏み出した。


「…………」


 どちらにしても戦闘は避けられないだろうが、ここからは賭けになる。

 アリーシャの歩みを確認したシズクは、視線を前方へと戻すと、刀の柄に添えた手を固く握り締めて胸の内で呟いた。

 今、私たちを付けてきているのが私を監視するファントの者達ならば、アリーシャの身の安全は確保できるだろう。その場合、私は彼等にアリーシャを預けて逃げ出すだけで事が済む。

 けれど、連中が近頃騒ぎを起こしているという、旅人や冒険者を襲う盗賊の類だったならば。こちらの体力と気力がこれ以上削られる前に、この場で決着を付けておく必要がある。


「っ……! ふぅ……着きました。アリーシャさんはそちらに」

「うん……ありがとう……」


 そんな事を考えている間に、シズク達は休憩地点として定めていた場所へと辿り着いた。すると、すかさずシズクはアリーシャを身の丈を優に超える大きな岩の元へと誘導し、自らもその隣に静かに腰を下ろして周囲へと視線を巡らせる。

 この大岩のお陰か、近くには刀を振るのに邪魔になる程大きな木は無い……。


「ここなら……っ!!」

「――っ!! シズクちゃん!!」


 辺りを見渡し終えたシズクが、小さく息を吐いた瞬間だった。

 突如として、ガサガサと乱雑に森を駆ける音が大岩へと近付き、それに気付いたアリーシャが悲鳴に似た鋭い声でシズクの名を呼ぶ。

 同時に、シズクも弾かれたように立ち上がると、素早く刀の柄に手を番え、深く腰を落として構えを取る。


「何者だ? ……姿を現せ」

「ハハッ……こりゃぁ随分と威勢がいいのが居るじゃないか……!!」


 シズクは密かにフリーディアが監視を付けている事を祈りながら、油断する事なく音の鳴る方向へ向けて静かに問いかける。

 しかし、そんな願いも虚しく。

 荒々しく木々をかき分けながら薄闇の中から現れたのは、部下と思わしき数人の獣人族の男たちを連れ、抜き身の太刀を肩に担いだ荒々しい風貌をした獣人族の女だった。

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