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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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79話 白翼の慈悲

 複数の沈黙が、つい先ほどまで戦場だった草原に流れた。ある者は驚愕し、ある者は自らの武器へと手を添える、それぞれの思惑が見守る中で、その注目の只中に居るテミスが口を開いた。


「今の私は、ご覧の通り何の力も無いただの人間だ。体力とて人並みだし、剣もこの通り軽い物しか扱えない……もう私は、お前の求めるテミスじゃないんだよ」

「違うわ」


 薄い笑みを浮かべてテミスが告げると、目を閉じたフリーディアは即座にそれを否定する。彼女とはこの世界に来たばかりの頃に少しばかり語らったが、私の何がフリーディアの琴線にふれたのだろうか。


「何を馬鹿な事を。白翼騎士団は最強の騎士団なのだろう? 戦う事のできない私が属すことなどできまいよ」


 背中に無数の突き刺すような視線を感じながら、テミスはフリーディアに語り掛ける。戸惑う気持ちは解らんでも無いが、もう少し上司というものを信用して欲しいものだ。


「いいえ。あなたにはその頭脳と知識があるわ。拮抗……ないしは劣勢ですらあった戦況を一気にひっくり返すほどの戦略……それは今の私達には無い才だわ」

「っ……フリーディア様……」

「つまり、私を参謀として迎えたい……と」


 フリーディアの言葉を聞いて、彼女の後ろに控えた騎士達もまた戸惑いの声を上げる。それすらも無視したテミスが話をまとめると、フリーディアが小さくコクリと頷いた。


「なるほど……なるほどなるほど」


 真剣な顔で見つめるフリーディアの前で、テミスは目を閉じて笑顔を浮かべる。確かに、彼女の話は理に適っているしフリーディアの視点としては間違っていないのだろう。


「確かに……今の私にとっては渡りに船。良い話ではあるな」

「っ……テミス様ッ!? それは――」


 テミスが瞑っていた目を開いてフリーディアにそう告げると、傍らに控えていたマグヌスが堪り兼ねたように声を上げる。


「――騒ぐな」

「っ……」


 しかし、テミスはその言葉を遮って、静かな声でマグヌスに釘を刺す。心なしか、左側から感じる殺気が増した気がするが、まだ放置しておいても構わないだろう。


「そうでしょう? やはりあなたは私達と共に歩むべきなのよ。あなたほどの正義を持つ人が何を言われたのかはわからないけれど、優しいあなたにこんな所は似合わないわ?」

「ククッ……優しい……ね」


 私の言葉に気を良くしたのか、言葉を続けたフリーディアに思わずぽつりと零した。私は、ここまで真っすぐで、気高く、そして愚かな人間を見たことが無い。ついでに付け加えるのであれば、彼女は酷く我儘だ。まさに、吐き気を催すほどに完璧な正義の体現者と言えよう。


「だが……それも全てその男が居なければの話だ」


 だからこそ。頬を歪めたテミスは、フリーディアの隣に立つルークを指差して静かに拒絶を宣言した。


「何故、私が自分の力を奪った奴と肩を並べる? 何故、君はこのような下種と共に居る? フリーディア。君は家を切り裂かれたあの村人の前で、今と同じ正義を語れるか?」


 目を見開いたフリーディアを嗤いかけながら、テミスは歌うように言葉を叩き付ける。そう。彼女の正義は確かに誇り高く、美しく、気高い。けれど、それはあくまでも彼女単一の視点でしかない。この男に家を両断された村人から言わせてみれば、魔王軍である我々も正義の名の元に家屋を簒奪した彼女達も、同じものに映るに違いない。


「っ…………」

「そもそも! 平気で弱者を踏み躙るようなこの男に力を預けてはおけん。コイツの暴虐を見てフリーディア……君は何も思わなかったのか?」

「それは……きっと……何か……」


 テミスは激しい口調でフリーディアを責め立てていくと、彼女は一瞬目を泳がせた後、語尾を細く呑み込んでテミスから視線を逸らした。


「ハァ……だる」

「っ!?」


 そんな小さな呟きが聞えたかと思った瞬間。テミスの目前で、すさまじい金属音と共に火花が散った。


「…………」


 全く感知できなかった。と、表情を崩さぬように努めながら、テミスは冷や汗を流した。テミスが気が付いた時にはすでに、目の前では大剣を抜き放ったルークとマグヌス、そしてサキュドが激しく鍔迫り合いを繰り広げていた。


「テミス様……? これはもう構いませんよね?」


 ギャリィン! と。擦れた武器が再び火花を散らしながら三人が距離を取ると、唇を吊り上げたサキュドが剣呑な声で確認を取る。その傍らで唇を真一文字に結んだマグヌスが襲撃者を見据えていた。


「ああ。構わん」

「ルークッ!? あなた何をして――」


 フリーディアが声を上げた刹那。パァン! と乾いた破裂音が響き渡ったのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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