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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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849話 不気味な優しさ

「落ち着いた……かしら?」


 数分後。

 悶え苦しむジスクを前にして尚、フリーディアは言葉を発する事は無く、ただ静かに傍らに用意されていた椅子に腰を掛け、彼女が落ち着くのを待っていた。

 シズクがふと気づけば、テーブルを兼ねているらしき台の上には、一対のマグカップが温かな湯気を立てている。


「……せめてもの情けには感謝します。ですが、私に語れることは無い」

「ふふっ……どういたしまして。女の子のあんな顔、誰かに見せられる訳が無いじゃない」

「っ……!!!」


 シズクが拗ねたように視線を逸らしながら重たい口を開くと、フリーディアはクスリと柔らかい笑みを浮かべて言葉を返した。

 やはり見られていたッ……!!! と。

 フリーディアの言葉に、シズクは再び頬が熱を帯びるのを感じるが、今にも消え去ってしまいたいほどの羞恥心に、歯を食いしばって耐え忍ぶ。


「それに今日は、私のお話を聞いて貰いに来たのよ。だから、そう身構える事は無いわ?」

「何を……今更……ッ!!」


 そう話を続けたフリーディアを、シズクはギラリと睨み付けると同時に、噛み殺していた羞恥が怒りと憎しみへと変わっていくのを自覚する。

 ああ……そうだ。私はこの町に裏切られたのだ。

 融和都市ファント。数日の間見て回った感じたのは、この町が途方もなく素晴らしい街だという事だった。人々の顔には笑顔が絶えず、町は活気に溢れ、この世のものとは思えない珍しいものを扱う店々が軒を連ねていて、戦の傷痕などまるでなかったかのように平和を謳歌している。

 だが、融和を掲げる楽園は、誰をも迎えると謳ったその口で、私たち獣人を排除した。

 誰もが平和を謳歌するこの町でも、我等は脅かされ虐げられるのだ。


「ハァ……。その様子だと、やっぱり誤解してそうね……」

「誤解だとッ……!? こうして捉えておいて白々しいッ!!」

「…………。紅茶、いかがかしら? 彼女はコーヒーが好みみたいだけれど、私はこちらの方が好みなのよね」

「ッ……!! 優しそうな顔をして、随分と意地が悪いですね」


 怒りをぶつけるシズクに対して、フリーディアが自らのカップを軽く掲げて示すと、シズクは恨めし気な視線をフリーディアへ向け、自らの四肢を縛る鎖を揺らす。

 正直に言うのならば、意識を取り戻してから無駄に暴れたせいもあって、喉はカラカラに乾いている。

 だが、こちらはベッドに括りつけられ、起き上がる事さえままならないというのに、一体どうやって茶など楽しめというのだろうか。


「…………。大きい声、出さないでね? あと、逃げちゃ駄目よ?」

「……!?」


 しかし、フリーディアはチラリと目線を扉の方へと動かしてから悪戯っぽい笑みを浮かべてそう告げると、シズクに見せ付けるように懐から小さな鍵を取り出してみせた。

 そして、驚きに目を見開いたシズクが言葉を発する前に、フリーディアは自らが持っていたカップを置いてシズクの手を戒めている枷に身を寄せると、鍵を捻ってシズクの手を解き放つ。


「なっ……に……!?」

「内緒よ? 流石の私でも、こんな事がテミスに知れたら叱られるわ?」

「っ……!!!」


 カシャリと軽い音を立てて鎖が落ちるのを聴きながら、シズクは驚愕の表情を浮かべてフリーディアを見つめていた。

 驚きと呆れで声も出ないとはまさにこの事だ。

 この町の領主に……つまりは彼女の主に対して刃を向けた私の戒めを解くなど、どう考えても狂人の所業だとしか考えられない。

 だが、シズクの目にすら奇行と映るフリーディアの行動は、今のシズクにとってはこの上ない程に好都合で。

 シズクは降って湧いたチャンスに胸の内でほくそ笑みながら、小さな笑みを浮かべて口を開く。


「……従いましょう。貴女の優しさに感謝を。……しかしコレ(・・)では座るのもままならないのですが……」


 そう言って視線を向けた先では、シズクの足首にはめられた武骨な枷から伸びた鎖が、未だ彼女の両足を開いて戒めている。

 無論。シズクの狙いはフリーディアに残った枷を外させる事で。枷を解かれたが最後、脱兎の如く逃げ出す腹積もりだった。

 だが……。


「それは駄目よ。足枷まで解いたら逃げてしまうでしょう? だから申し訳ないけれど、座り辛いのは我慢して、そのまま話を聞いて貰うわ?」

「っ……!!!」


 フリーディアから返ってきたのは確かな拒絶の言葉だった。しかも、その目は柔らかに微笑みながらも一寸の油断もなくシズクへと向けられている。

 こいつ……ただの馬鹿では無いのか……?

 それに気付いたシズクは、ベッドに横たえていた身をゆっくりと起こすと、ごくりと生唾を飲み下しながらフリーディアの様子を窺う。


「クス……。さ、冷めないうちにどうぞ? お砂糖は必要かしら?」


 そんなシズクに、フリーディアはニッコリと優しく微笑みを向けると、まるで友人とのお茶会でも楽しんでいるかのように朗らかな声でそう告げたのだった。

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