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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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846話 力無きセイギ

 勝敗は決した。

 自らの同族が犯した罪から目を逸らし、権利だけを求めて剣を振るった者の結末など、得てしてこんなものだろう。

 平穏な町の傍ら。崩れた瓦礫にその身を埋め、何一つ言い残す事すら許されずに最期の時を待つ。

 こんな街中で闇討ちをする悪人には、お似合いの最期だ。


「っ……!!!」


 ぎしり。と。

 テミスは闇夜を穿ち抜くかのように高々と掲げた己が剣の柄を固く握りめ、冷たい瞳で意識を失ったシズクを見下ろした。

 馬鹿な奴だ。最初から本気で……私を殺す気で斬りかかってくれば成し遂げられていたものを……。

 そう胸の中で呟いた後。テミスは振り上げていた剣をゆっくりと下ろし、長い逡巡を経て微かな音と共に腰の鞘へと戻す。


「止め……刺さないのね」

「っ……!!」


 瞬間。

 コツリ。と、静かな足音を響かせて、戦場となっていた街路へフリーディアが姿を現した。

 その手は今も尚、腰に提げられた剣の柄へと添えられており、ゆっくりと歩み寄りながらも浅く姿勢を落とした彼女の格好が、未だ警戒を解いていない事を声高に叫んでいる。


「満足?」

「ッ――!!」


 囁くように。テミスの傍らまで歩み寄ったフリーディアがそう問いかける。

 同時に、奥歯を噛み砕かんほどの力で噛み締めたテミスがその身を閃かせ、フリーディアの胸倉を掴んで傍らの壁へと押し付けた。

 しかし、当のフリーディアはそんなテミスに対して為されるがままに身を預けており、その態度がさらにテミスの苛立ちを加速させる。


「満足な訳ッ……あるかッッ!!!」


 フリーディアの問いに叫ぶように答えながら、テミスは掴んだ胸倉に力を籠め、苛立ちと共にギリギリと壁へ押し付けた。

 本当に……この女は癪に障る。何もかもを見透かしたような顔で、何もかもを見透かしたようなタイミングで姿を現した癖に、その実フリーディアは何も解ってなどいないのだろう。

 それでも尚、こうして慇懃無礼な態度を崩さぬフリーディアに、テミスは堪らず怒鳴り声を浴びせかける。


「誇りで人が救えるかッ!? 優しさで悪人を誅せるかッ!! 良いご身分だよなァ!! 毎度毎度文句ばかり垂れ流してッ!!」

「…………」

「邪魔なんだよッ!! お前もシズクもッ!! 取るに足らん戯れ言ばかり垂れ流す癖に、中途半端に正義を掲げやがって!! しかもそれが完全には間違ってないのだから質が悪いッ!!」

「……テミス」


 苛立ちを叩きつけるように叫ぶテミスの言葉を、フリーディアは言葉すら返す事無くただ聞いていた。

 今にも泣きだしそうな顔で怒鳴るテミスに、フリーディアは胸の内で密かに呟きを漏らす。

 我が戦友ながら、どうしてこうも不器用なのだろうと。

 誰もが忌避する悪を決して許さず、ただ悪事を為す者を誅するべく真っ直ぐに切り込んでいく。

 個人的な感情を抜きに考えるのならば、それはどうしようもなく正しい事なのだろう。

 だが実際には、如何にそれが正しいことであったとしても、様々な感情や情勢がしがらみとなってそれを阻むのだ。

 けれど、テミスは決して曲がる事は無い。しがらみがあればそれを切り払い、真正面から悪人を斬り伏せる。

 その炎のように燃え滾る心の奥底には、彼女すらも気づかない程の底抜けな優しさが眠っている筈で。

 そう信じているからこそ、フリーディアはテミスに抵抗する事も、言葉を返す事もしなかった。


「…………気は、済んだかしら?」

「ッ……フン……」


 ひとしきり喚き散らしたテミスに、フリーディアがそう静かに声をかけると、その身体を壁へと押し付けていた力が緩み解放される。

 だが、その力は既にフリーディアの力量を以てすれば振り払えない程のものでは無くなっていて。

 だからこそ、フリーディアはテミスの性分に合わせて、淡々と用件だけを紡いでいく。


「彼女は病院へ。それで構わないわね?」

「ああ」

「『護衛』役はそのまま引き継がせる。あと、明日からは貴女の警護は私が。寝坊して構わないわ」

「ッ……!!! わかった」


 次々と紡がれるフリーディアの言葉に、テミスはぎしりと歯を食いしばった後で答えを返した。

 こうして襲われた時、一人での対処が難しい以上仕方がないとは理解している。だが、そうやって他者に守られなければならない程に弱い自分が、悪人を誅するべく動いているのだと思うと、酷く滑稽に思えて仕方がない。


「……すまない。後は頼む」

「任されたわ」


 呟くような声で一言、テミスはフリーディアに告げると、ゆっくりとフリーディア達に背を向けて立ち去って行く。

 その小さく丸まった背中は、何処かとても寂し気で。


「……大丈夫よ。だって貴女は、きちんと踏み止まれたのだもの。貴女は何も、変わっていない」


 そんな、ゆっくりと小さくなっていくテミスの背を見送りながら、フリーディアは小さな声で呟いたのだった。

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