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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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845話 怒りの末路

 ガギィンッ!! バギィンッ!! と。

 静まり返ったファントの街中に響き続ける剣戟の音は次第に、鉄を擦り、探り合うかのように打ち合う音から、力任せに剣をぶつけ合うような、重たく激しいものへと変化していた。

 同時に、テミスとシズクの戦いの流れも変わっており、一進一退の攻防を続けながらも何処か余裕を残して打ち合っていたシズクが、今や苦し気な表情を浮かべて防戦一方となっている。


「ハハハッ!! 何が誇りだ!! 何が本物の私だッ!! 偉そうに下らん戯れ言ばかり並べておいてこのザマかッ!?」

「ッ……!! くゥッ……!! 手を……抜いていたのかッ!?」

「どうしたッ!? お望み通りの本物の私だッ!! これで満足かッ!? えぇッ!?」


 罵声を浴びせ合いながら剣戟を繰り広げるも、最早二人の間に会話は成り立っておらず、既に互いが互いに己の怒りをぶつけているだけだった。

 そんな中でも、圧倒的な劣勢も手伝ってか、まだ幾ばくかの冷静さを残していたのは、シズクの方だったのだろう。

 轟音と共に剣を打ち合わせるながらも、シズクはテミスの僅かな異変に気が付き始めていた。


「あぐッ……このぉッ!!」


 剣を打ち合わせては退き、退いては追い縋る追撃を受け止める。

 時に受け切れなかったテミスの剣が、己の身体を傷付ける痛みを堪えつつ、シズクは剣を受けた衝撃でビリビリと痺れる腕に歯噛みした。

 この苛烈極まる剣戟の中で、明らかにテミスは強くなっていた。

 否。強くなるというよりも、これこそがシズクが噂に伝え聞く激烈な強さを持つというテミスの真の姿なのだろう。

 だからこそ。だからこそ、たまらなく腹立たしい。


「ッ~~!! ダァッ!!」

「ラァッ!!」

「ぐゥッ……!?」


 全力で……渾身の力を込めて斬り返した私の刀さえ軽々しく受け止めて弾き飛ばし、更なる一撃を振るうほどの力を持っているくせに。

 繰り返される迫害の中で、私達が……獣人族が力を合わせ、やっとの思いで築き上げた僅かばかりの権利(誇り)さえ踏みにじっていく。

 全力を込めた反撃さえも通じず、更に浴びせられた一太刀で宙を舞う自らの血を眺めながら、シズクはやり切れない怒りと悔しさにぎしりと歯を食い縛る。


「…………」


 一方。

 襲撃者であるシズクの反撃を退け、圧倒しつつあるテミスもまた、自らを焼き焦がしてしまいそうな程の狂おしい怒りに呑み込まれていた。

 どうしてお前がそんな顔をしている……?

 自分を正当化する為だけの美麗字句だけ並べて、厚顔無恥にも他者の平穏を蹂躙しようとしたお前が。何故、自らは何一つ悪いことなどしていない被害者のような顔で私を睨み付けているッ!!


「ふざけるなッ!!」

「カッ……ハッ……!!!」


 湧き上がり続ける怒りに導かれるように、テミスは空いた片手を鋼のように固く握り締めると、シズクの腹へと叩き込んだ。

 結果。シズクは苦し気な息を吐き出しながらたたらを踏んで後ずさり、僅かに数歩の距離が空いた。

 だが同時に、テミスは振り抜いた剣を再び天高く構え直すと、シズクに留めの一撃を加えるべく怒りに任せて石畳を蹴り抜いた。


「ゥ……ァアアアッ……!!」


 しかしその正面では、怒りと悔しさに顔を歪めたシズクが刀を構え直し、なりふり構わずにテミスへ向けて踏み込んでいた。

 そして、感情のままに放たれた二人の言葉が重なり合い、夜の闇の中へと響き渡る。


「お前のような奴さえ……居なければァァァッ!!!」


 直後。

 ギャリィィンッッ!!! というひと際大きな金属音が響き渡り、テミスの剣とシズクの刀が真正面から力強く打ち合わされた。

 互いに犬歯をむき出しにし、露にした怒りを込めた全力の一撃だった。


「ぐっ……ぁが……っ……」


 故に。

 そんな一撃と真正面から打ち合ったシズクの身体は凄まじい勢いで弾き飛ばされ、街路に並ぶ建物の壁へと激しく打ち付けられる。

 全身を撃ち抜かれたかのような衝撃がシズクの身体を貫き、苦痛で霞む意識の片隅で、シズクは辛うじて己の敗北を思い知っていた。


「……満足したか? ならば死ね」

「っ……!!」


 シズクは冷たくそう言い放ちながら詰め寄ってくるテミスの言葉を、ガラガラと崩れる壁に埋まって聞きながら、ごぼりと血の塊を吐き出して息を吐く。

 こんな風に、一方的に蹂躙されて満足なんてする訳が無い。だが、いくら反論しようと気持ちを奮い立たせても、微かなうめき声が唇から漏れただけで、言葉を紡ぐには至らない。


「ぅ……ぁ……」


 殺される。

 霞む意識の向こうで、シズクは高々と振り上げられた漆黒の剣を見上げながら、うめき声を漏らし続ける。

 だが、明確な死を理解して尚、傷付いた身体はピクリとも動く事は無く、シズクは後悔と無念の底へと沈みながら、薄れゆく意識を手放したのだった。

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