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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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843話 闇夜の剣戟

 放たれた斬撃は、驚く程に鋭い一撃だった。

 僅かに前傾していただけの身体は、雷光の如き速度で前方へと射出され、同時に振り上げられた刀がギラリと輝く。


「っ……!!!」


 ギャリィンッ!! と。

 テミスは咄嗟に剣を振るい、甲高い音と共に振り下ろされた刀と打ち合うも、猛然と突進してきたシズクの勢いを殺し切る事はできず、堪らず弾き飛ばされるようにして後方へと退いた。


「逃がすかッ!!」


 だが。刀を振り下ろした格好だというにもかかわらず、シズクは怒りに満ちた目で退くテミスを睨み付けると、再び石畳を蹴り付けて、一足飛びに逃れるテミスへと追い縋る。

 そんな二人の力量の差は、一度打ち合っただけでも解るほどに歴然としていた。


「チィッ……!!!」


 第二撃。

 後ろへ退くテミスを捉える為に刀を構えるシズクを睨みながら、テミスは忌々し気に舌打ちを打つ。

 たったの一撃。それも応じて打ち合ったというのに、シズクの繰り出す斬撃は手が痺れる程に強烈だった。

 そもそも、膂力や反射速度といった根本の身体能力からして、今の私はシズクに大きく劣っているのだろう。

 この手の斬撃に対してまともに打ち合っては勝ち目がない。それこそ、かつて私と戦っていたフリーディアがそうしていたように戦わなければならない。


「ハッ……皮肉だなッ……!!」

「お前は……ここで死ねェッ!!」


 テミスは息を吐き出しながら不敵に笑みを浮かべた瞬間。テミスに追撃を加えるべく追い縋ったシズクの下段に構えた刀から、横薙ぎの斬撃が繰り出された。

 しかし、テミスの首を刎ねるべく繰り出された斬撃は、テミスの構えた漆黒の剣によって防がれ、周囲に激しい音を響かせる。

 だが、それだけではなかった。

 剣と刀がぶつかり合った瞬間。テミスは膝を付くように身を低く落しながら、打ち合わせた剣先を横に寝かせる。

 すると、気合を込めて繰り出したシズクの斬撃は、まるでテミスの剣の刀身に導かれるようにして軌道を変え、火花をまき散らしながら、金属同士が擦れ合う不快な音と共にテミスの頭上を通り過ぎた。


「クゥッ……!?」

「ハッ……」


 焦燥と嘲笑。二つの吐息が交叉する。

 頭上に挙げた剣を寝かせただけのテミスに対して、シズクは既に刀を振り切っている。

 しかも、真正面から斬りかかっていたせいで、シズクの胴体は無防備な状態でテミスの前に晒されていた。


「ッ……!!!」


 直後。バギィンッ!! という強烈に鋼を打ち合わせる音が響き、シズクが一歩、二歩と大きく跳び下がる。

 その左手には、半分だけ抜き身を晒した脇差が握られており、胴を真っ二つに両断すべく放ったテミスの斬撃は、僅かにその脇腹を掠めただけだった。


「ホゥ……?」


 油断無くシズクへ視線を向けたまま、テミスは返す太刀で振り抜いた剣を構え直しながら静かに息を吐く。

 厄介だな……。

 胸の中でテミスはシズクをそう評すると、頭の中で次の手段を模索し始めた。

 今の一撃は、如何に私が弱くなっていようとも、確実にシズクを捉えたはずだった。しかしあの瞬間……シズクは刹那の間に片手を攻撃に割いていた刀から離し、腰の脇差を無理矢理引き抜いて私の斬撃を防いだのだ。

 強い膂力に圧倒的な素早さ、そして卓越した反射神経。恐らくこれが、以前マグヌスの言っていた、獣人族の誇る強さ……という奴なのだろう。


「クク……」

「何を……笑って……」


 どう考えても、戦況は圧倒的にテミスの劣勢だった。

 しかし、テミスはその顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま剣を構え、シズクに相対する。

 勝機は薄い。だが、私はこの戦い……意地と誇りにかけて負ける訳にも、退く訳にもいかないッ!!

 そんな、ギラギラと滾る闘争心がテミスの胸を焼き焦がし、漏れ出たその感情は、相対するシズクに異様な気迫として叩きつけられる。


「っ……!!」

「…………」


 ジャリ……と。

 全身から放たれるテミスの殺気に気圧されたシズクが、無意識のうちに一歩を退いた時。

 正眼に構えていたテミスは、流れるような動きで構えを変える。

 そうだ……私は負ける訳にはいかない。何故なら、フリーディアは圧倒的な身体能力を以て切り結ぶ私と、対等に戦ってみせた。

 いわばこの戦いは、フリーディアと私……どちらが人間の剣士として優れているか否かの試験紙なのだ。


「……どうした? そちらから来ないというのであれば、今度はこちらから攻めさせて貰おうかッ!!」


 テミスは片手に持ち替えた剣の切っ先を下げ、真半身に身体を捌いて剣を構えると、ゆらりと大きく体を不規則に揺らした後、前方で構えるシズクをめがけて駆け出したのだった。

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