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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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840話 静かなる怒り

 その日の夕方。

 いつもであれば昼過ぎには叩き起こしに来るはずのフリーディアが来ず、連日の疲労も相まってか、テミスは奇しくもたっぷりと午睡を堪能する事ができていた。

 泥のように眠りこけていたテミスの意識が戻り、いつにも増して霞がかった頭を揺らしながら階下に降りると、それを待ち構えていたかのようにフリーディアが駆け寄ってくる。


「……本当に疲れていたのね? こんな時間まで寝てるなんて」

「だから言っただろう……。それで……何を企んでいる? お前が私にタダで休息を取らせるなど、天地がひっくり返ったとしてもあり得ない事だとは理解している」

「もぅ……なによそれ……。休ませてあげるつもりはあったわよ……」


 悪戯っぽく笑っていたフリーディアは、テミスの辛辣極まる言葉を聞くと、答えを返しながら唇を尖らせて視線を外して、もごもごと口の中で言葉を紡いだ。

 事実。フリーディアは酷く辛そうであった今朝のテミスの姿に、一時間か二時間程度ならば長めに寝かせてあげようとは思っていた。

 尤も、その分後の予定は切り詰められており、より過酷なものになっては居たのだが。


「それよりも報告があるわ」

「っ……! 聞こう」


 数秒の沈黙の後、真面目なものへと表情を変えたフリーディアがそう話を切り出すと、テミスもまた酷く気怠そうに緩めていた表情を引き締めて言葉を返す。

 その切り替えの早さに、フリーディアは内心で感嘆の息を漏らしながらも、昼間に起こった騒動の事を事細かにテミスへと伝えていく。


「そんな事が……。二人の容体は?」

「病院を抜け出した挙句、傷口の開いたリックはお説教と監視付きで再入院。バニサスさんは血はかなり流していたけれど、傷自体は致命傷ではないそうよ。本人は大丈夫だって言っていたけど、大事を取って今日は入院させているわ」

「そうか……」


 事の次第を聞いたテミスは一瞬だけ顔色を変えたが、フリーディアの語り続ける報告を聞き終わると、胸を撫で下ろしたようにため息を吐いた。

 そのような事態になっていたのなら、問答無用で叩き起こしてくれればいいのに……。

 だが……フリーディアは私を起こしに来るよりも、自らが出向いた方が早いと判断したのだろう。心の片隅でそうぼやきながらも、テミスは冷静に状況を分析していく。


「シズクはどうしている?」

「今は部屋よ。報告を聞いた時に、そのまま一緒に付いてきてもらったから」

「フム……」

「大丈夫」


 フリーディアの答えを聞いたテミスは、即座にシズクの様子を確かめるべくその身を二階へ向けて翻す。

 現場へ連れて行ったというのならば、今回の一件に獣人が関わっているという事は知っているだろう。ならば、シズクが連中の仲間であった場合、逃走の可能性は非常に高くなる。

 だが、フリーディアはテミスの思考を読んだように短く言葉を続けると同時に、テミスの腕を取って引き留めた。


「安心して。今は追加で何人か『護衛』を付けているから」

「ホゥ……? お前にしては、なかなか的確な判断じゃないか」

「それくらいしておかないと、何処かのお寝坊さんがうるさいと思っただけよ。それに、バニサスさんの事もあるから……」

「……。あぁ……」


 テミスは己を引き留めたフリーディアに皮肉を返すも、同じような嫌味を付けて戻ってきたその理由に得心して小さく頷いた。

 シズクを温かく迎え、この町に招き入れたのは、他でもないバニサスなのだ。

 そんなバニサスが傷付き倒れたとなれば、フリーディアの願い通りシズクが無実であったとしても、早まった行動をとらないとも限らない。

 おおかた、お人好しの塊であるフリーディアとしては、そこそこに腕の立つであろう武芸者であるシズクが、バニサスへの三顧の礼を以て暴走するのを防ぐつもりなのだろう。


「だが……そうか……。我々も……舐められたものだな」

「っ……!!」


 ポツリ。と。

 テミスが紡いだその言葉に、フリーディアは己の背筋が粟立ったのを感じた。

 ここが、マーサの宿の一階……その食堂の片隅という場所を慮っての事なのだろう。テミスから零れ出た殺気はほんの一瞬、目の前に居たフリーディアのみが気付ける程度の微かなものだった。

 だが、テミスの切れ長な目は確かに怒りに燃え滾っており、見開かれた瞳はそれを表すかのように小さく収縮していた。


「っ……!! スゥ……ハァ……。フッ……いかんな。そう不安そうな顔をするなフリーディア。しっかりと対策を考えるとするさ」


 しかし、気圧されるフリーディアの胸の内を察したかのように、テミスはニヤリと不敵な笑みを零すと、口を開いた。

 そこには、先程フリーディアが確かに感じた殺気は、まるで呑み下してしまったかのように存在せず、テミスはクスクスと面白そうに笑いながら、マーサ達の居るカウンターの方へと向かっていく。

そんなテミスの背を見つめながら、フリーディアは胸の中に立ち込める言い知れぬ不安に、密かに拳を握り締めたのだった。

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