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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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835話 衛士の眼力

「あァ……? んだよ。ワラワラと集まってきやがって」


 ある衛兵は剣を抜き、ある衛兵は槍を手に駆け付ける騒動の渦中では、三人の獣人族の男が武器を手に周囲を睥睨していた。

 一人は、灰色がかった長い体毛を逆立て、その手に生えた鉤爪からはポタポタと鮮血を垂らしている。その隣では、荒々しい唸り声をあげた小柄な男が、極めて短い薄茶色の毛に覆われた両手に短いダガーを携えている。

 そしてその二人の背後には、極めて大柄で筋肉質な男が、その腰に提げた大太刀にすら触れるそぶりも無く、腕組みをして不敵な笑みを浮かべていた。


「っ……!! ありゃ……ちとやべぇな。作戦変更だ。お前は急いで騎士団を呼んでくるんだ!」

「なっ……!! 待って下さいバニサスさん! 俺だって!!」

「馬鹿野郎ッ! いつまでも足止めできねぇって言ってんだ! お前が行かなきゃ俺達は無駄死になんだぞッ!!」


 そんな彼等を視界に捉えたバニサスは、頬に滴る冷や汗を感じながら、数歩後ろを駆ける若い衛兵に声をかける。

 だが、未だ経験も浅く、血気に盛る若い衛兵が即座に命令を聞き入れる訳も無く、足を止めて叫ぶように抗弁した若い衛兵を、バニサスは肩越しに振り返って一喝した。


「先輩命令だッ!! それに、これはお前を庇ってる訳じゃねぇ。お前に俺達の命を預けるって言ってるんだ」

「バニサス先輩……」

「頼むぜ。大至急……超特急だ。コイツはただの感だが、連中はそんくれぇヤベェ」

「っ……!! り、了解ですッ!!」


 しかし、続いて言葉を紡いだバニサスの纏うただならぬ雰囲気に、若い衛兵は息を呑んで目を見開いた後。力強く拳を握り締めてコクリと頷き、身を翻して駆け出していく。

 その後ろでは、既に力強い雄叫びや悲痛な悲鳴が響いており、立ち止まっているバニサスの横を、列を成していた人々が我先にとファントの町の方へ向けて逃げ出していた。


「五分……いや、七分か……?」


 そんな人の濁流に抗って歩みながら、バニサスはボソリと言葉を零す。

 まず、怪我人が出ているのは間違い無いだろう。最悪の場合、死人だって出ているかもしれない。

 つまるところ、いまこの先で暴力を振るっている相手は、そんじょそこらに湧いて出るような小悪党ではなく、平気な顔をして人を殺せる悪党(クソ野郎)だって事だ。


「フゥ……ホント……頼むぜ。ハハ……畜生……震えが止まらねぇ……」


 バニサスは震える手で携えた槍を固く握り直すと、真一文字に引き締めていた唇を不敵に歪め、悲鳴と怒声の飛び交う渦中へと飛び込んでいく。

 見た所、列の中に居たらしい冒険者や、武器を持った旅人など、戦える者達も応戦に回ってくれているようだ。

 だがそれでも。彼等とてバニサス達衛兵が護るべき客人(・・)なのだ。なればこそ、たとえ敵わないと知っていても、最前列で戦わない訳にはいかないだろう。


「シャァァアアアアアッッ!!!」

「――っ!! 危ねぇ!!」

「っ……!!」


 恐怖を気合で塗りつぶしたバニサスが戦いの輪に加わった瞬間。獰猛な叫び声をあげながら、鉤爪を振りかざした男が、隙を見せた近くの旅人へと襲い掛かる。

 バニサスは半ば反射的に、鉤爪の男に槍を突き出して旅人を庇うと、騒動の元凶である男たちの真正面に立ちはだかる格好で槍を構えた。


「チッ……また新しい奴か……」

「ったく次から次へと雑魚がよォ!! うざってぇんだよ!!!」

「フン……」


 油断なく構えるバニサスに鉤爪の男が言葉を零すと、身軽に跳び下がったもう一人の男が声高に吠えたてる。

 しかし、相変わらず二人の背後で佇む巨漢は腕組みをしたまま動く気配が無く、その態度とは裏腹にビリビリと伝わってくる威圧感に、バニサスは固く歯を食いしばった後、槍を構えたまま口を開いた。


「やれやれ……お三方ァ。一体どうしたってんです? そんなに暴れちゃってェ」

「カッ! うるせぇんだよ雑魚が!! いっちょ前にクチ利いてんじゃねぇ!!」

「うるせぇのはお前だ! ギャンギャンギャンギャン喚くな!」

「…………」


 バニサスの言葉に食って掛かったダガーの男を、鉤爪の男が荒々しくたしなめる。だがその間も隙らしき隙は見当たらず、背後の男も黙ってバニサスを見つめたまま動く事は無かった。


「まぁまぁ、喧嘩は止してくださいよ。何か……ご不満な所でもありました?」


 刹那。

 バニサスは言葉を紡ぎながら周囲の様子を確認すると、胸の内で彼等の力関係を把握する。

 見ての通り、連中のボスは後ろの巨漢なのだろう。そして、残りの二人は同格と思いきや、喚き散らしているダガーの男よりも、鉤爪の男の方が序列が上らしい。

 そして幸か不幸か、バニサスが斬り込んだことによって状況は停滞した。

 武器を構えて半円状に展開した衛兵たちは既に身構えていたし、その後ろには連中から怪我を負わされた者達が庇われている。

 ひとまずは大丈夫か……? このまま会話を引き延ばして時間を稼げれば……。

 そうバニサスがゴクリと生唾を飲み下した時。


「オイお前等。チンタラ遊んでんじゃねぇ」

「っ……!!」

「……っ!!」


 それまで黙していた巨漢の男が、獰猛な眼差しでバニサスを睨み付けながら、荒々しい口調で口を開いたのだった。

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