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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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831話 恐怖は給仕服と共に

「さて……と。いったいこれはどういう事か……説明してもらおうか?」


 今にも抜刀しかねない剣幕で構えるシズクの前で、テミスはバニサスとシズクの目を準に見つめた後、それだけ告げて席に腰を下ろした。

 その服装が給仕服のままのせいで緊張感こそ僅かに欠けるものの、テミスの切れ長な目から覗く鋭い光が、現状が冗談でないと告げていた。


「あ……あぁ……。っ……いや、はいっ!! ま、まずは紹介から……。ホラ……シズクの嬢ちゃんも大丈夫だから……。頼むからいったん座ってくれ!!」

「…………。っ……」


 静かに告げられたテミスの問いに、バニサスは泡を食ったように答えを返すと、今度はその視線をシズクへと向けて、縋るように頭を下げた。

 そのただ事ならぬ様子に気圧され、シズクはゆっくりと構えを解くと、打ち刀の柄に添えていた手を脇差の柄へと移し、蹴り倒した椅子を片手で持ち上げて席へと戻る。


「えぇと……だな……。まずはこちら、旅人のシズクちゃんだ……です。この町の噂を聞いて来て、楽しみだってんで……つい……」

「フム?」


 シズクが席に着いたのを確認すると、バニサスは誰が見ても分かるほどの狼狽を露わにしながら、ぎこちない笑みをシズクへと向けて口を開いた。

 しかし、その紹介を聞いたテミスはただ愉し気に鼻を鳴らしただけで、続きを促すかのようにバニサスへと視線を送り続ける。


「そ……そしてシズク。こちらはテミスちゃ……ゴホン、様だ。信じられないかもしれないが、この町を治め護ってくださっている方なんだ」

「なっ――!?」

「クク……よろしく」


 シズクに視線を向けたまま、テミスへと掌を向けたバニサスがそう紹介を締めくくると、流石のシズクも驚愕を露わにして息を呑んだ。

 だが、一方のテミスはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、小さく喉を鳴らすように笑いを零してシズクへと視線を向ける。


「っ……!? ……!? っ……!!! よ……よろしく……お願いします……」


 バニサスの紹介を聞いたシズクは優に数秒間、凍り付いたかのように硬直した後、未だ困惑の抜けきらぬ頭で、おずおずと辛うじて言葉を紡ぎ返す。

 訳が分からない。

 何故か親切な衛兵に連れ出されたかと思えば、何故か町の宿屋で給仕の格好をして働く領主の元へと連れて来られ、あまつさえ机を同じくしている。

 少なくとも、シズクにも理解できるのは今の状況がただ事ではないという事と、事の如何では非常にまずい事になるという事だけだった。


「よし……ではバニサス。弁明を聞こうか。獣人族への対応は通達済みの筈だが?」

「っ……!?」

「は……はい……。確かに。ですが、さっきも少しお話した通り、俺にはどうしても悪人にゃあ見えなかった次第でして……」

「だから、お前は指示に従わず、独断で町へ招き入れた……と?」

「いえ……その……一応、俺が付き添ってるってんじゃ駄目……ですかね?」


 早速といわんばかりに話を切り出したテミスの言葉に、シズクは小さく息を呑む。

 しかし、尋問へと形を変えた話は、シズクの機微に触れる事無く粛々と進められていった。

 ただ一人、まるで取り残されたかのように会話から弾き出されたシズクは、テミスが言葉を発する度に肩を竦め、小さくなっていくのをただ黙したまま見ている事しかできなかった。

 だが、その話の内容から判ずるに、どうやら現在のファントの町には獣人族に対して何らかの規制がかかっているらしい。

 そして、このバニサスという衛兵は、何故かその規制から私を庇ったという事なのだろう。

 今になって思えば、あの時の門での対応はそういう事だったのか……。と。シズクは眼前で繰り広げられる尋問を眺めながら、心苦しさに僅かに身を捩らせる。


「フンッ……何のためにわざわざ白翼の連中や黒銀騎団(ウチ)の奴等を向かわせていると思っているんだ……。まぁいい、ならば本人に確かめてみようではないか? なあ?」

「えっ……?」


 だがそれと同時に、シズクはまるで切り返したかのように話の矛先が自らへと向けられたのを聞くと、目を丸くしてビクリと身を跳ねさせた。

 その視線の先では、祈るように表情を歪めるバニサスと、獲物を前にした猛禽を思わせる獰猛な笑みを浮かべたテミスが、ただならぬ迫力を纏ってシズクを見つめている。


「え……と……その……」

「なに。そんなに緊張する事は無い。飲み物でも飲みながら、君の事を教えてくれればいいんだ」

「あ……う……。は……はい……」


 シズクは、妙に威圧感のある笑みを自らへと向けながらも、言葉の上は酷く丁寧であるにも関わらず、欠片も心の籠っていないテミスの口上に苦笑いを零すと、胸の内で必死に自身へと課した『設定』を思い返したのだった。

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