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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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827話 三つの意志

「さて……各自、状況は理解したな?」


 静かなテミスの声が、執務室の中に響き渡る。

 リョースが詰め所を辞した後。

 テミスはフリーディアを連れたまま即座にマグヌスとサキュドを呼集すると、リョースからもたらされた情報を語り聞かせた。

 以前に届けられたオヴィムからの報せと組み合わせて考えれば、リョースの言うこのはぐれ魔族の集団とやらは、ギルファーの手の者である可能性が高い。


「ハッ……! 町の警戒態勢を戦時級にまで引き上げましょう!!」

「何よそんなまどろっこしい。北から来る事がわかっているのなら、こっちから出向いて潰しちゃえばイイじゃない」

「っ……!! 待って下さい!! 二人共それでは性急に過ぎます!」


 説明を終えたテミスが確認を取ると、眼前に並んだ三人は三様の方策を導き出し、互いにその意見を戦い合わせ始める。


「そうは言うがサキュド。情報が足りなさ過ぎる。狩ったは良いが、無実の者だったなどという事は許されんのだぞ!!」

「だから出向くって言ってるんでしょ? アンタはいつも大袈裟なのよ。アタシに十人でも斥候を預けてくれればそれで済む話だわ」

「戯言を。それはお前が遊び(・・)たいだけだろう。抜き差しならぬ戦場ならば兎も角、平時にそのような危険を冒す愚もあるまい。備えて迎え撃つが吉だ!」

「お二人共ッ!!!」

「ッ……!!」

「――!? なによ! 急に叫んで……」


 ただ一人、フリーディアを置き去りにしてヒートアップしていく二人に、フリーディアは大きく息を吸い込んで叫び声を上げ、口論を繰り広げる二人の間に割って入った。

 言葉と共に放たれたそのあまりの剣幕に、さしもの二人も気圧されて口を噤み、フリーディアへと視線を向ける。

 すると、フリーディアは力強い光をその目に宿して、真正面から二人を見据えながら口を開いた。


「マグヌスさん。警戒態勢を戦時級に引き上げると言いましたが、それは現実的ですか? いたずらに市井の人々の不安を煽り、兵達を疲弊させるだけでは?」

「ムッ……!? で……ですが……」

「そうよ。無駄よ無駄」

「サキュドさんもです。相手の規模も、潜伏場所も、目的もわかっていないのですよ? そもそも、仮にギルファーからファントを目指してやって来るのだとしても、どのような道筋を辿ってくるのかわかるのですか?」

「っ……!! そ……それは斥候に――」

「――たかが十人足らずでそんな広範囲の索敵を? 流石に無茶が過ぎると思います」

「うっ……ぐっ……」


 まさに正論。

 フリーディアは二人の出した案の欠点を即座に(あげつら)うと、ぐぅの音も出ない程に真正面から叩き潰した。

 その鮮やかさは、辛うじて反論を試みたサキュドでさえも黙らせるほどで。

 目の前で繰り広げられるそんなやり取りを眺めながら、テミスは一人胸の内で舌を巻いていた。


「っ……!! だ……だったらどうするってのよ!! アンタはさっきからアタシ達の案を否定してばかりだけど、マトモに意見も出していないじゃない!」

「……確かに。我等の案を否とするならば、代替案を御聞かせ願いたい」


 そして、数秒の沈黙の後。

 表情を苦し気に歪めながらサキュドが言い放つと、マグヌスが大きく頷きながらその意見に同調する。

 だが、フリーディアはその顔に余裕の微笑みすら浮かべ、二人の言に応ずるようにコクリと頷くと、その身体をテミスへと向けて問いかけた。


「ねぇ、テミス? 今回の件……動く必要はあるのかしら?」

「なっ……!?」

「ハァッ!?」


 その問いに、傍らの二人は驚きの表情を浮かべるが、テミスは黙したままフリーディアにニヤリと微笑みかけると、無言で続きを促してみせる。


「今回、リョースさん……もとい魔王軍からもたらされたのは要請ではなく警告だわ。そして被害が出たのもあくまで魔王領。ファントの住民ではないわ」

「ま……待たれよ!! 些かそれは……何と言うか、フリーディア殿の……騎士団の意思に反するのでは?」

「ハッ……結局、なんだかんだ言いながら口だけって事でしょ。良いじゃない……ようやく自分の()ってのを弁えた訳?」

「……サキュド」

「っ……!! も……申し訳ありません……」


 フリーディアが息を吐いた時、その言葉を遮ってマグヌスが口を挟む。

 同時に、サキュドがそれに乗じて一線を超えた皮肉を口にしたため、テミスが僅かな怒りを込めてその名を呼んで窘める。


「……続けましょう。その存在を知った以上、討伐はしないまでも魔王軍が放置するとは思えないわ。それこそ、下手に首を突っ込めば私達も巻き添えになる」

「ならば……どうする?」

「だから、何もしないのよ。そもそも、そのはぐれ魔族たちがファントを害するかもまだわからない。情報を共有して注意勧告程度は必要でしょうけれど、討伐隊を編成したり、警備体制を変える必要は無いと思うわ」

「フ……まぁ……及第点……か……」


 テミスの問いかけに対し、フリーディアは自信に満ちた表情を浮かべると、胸を張って答えを口にした。

 それに対して、テミスはニヤリと頬を歪めると、小さな声でボソリと呟いた。

 要するに、根本は彼女の信奉する『信じる心』とやらに起因するのだろうが、今回ばかりに限ってはあながち的外れではない。

 マグヌスの案ではフリーディアの言う通りコストがかかり過ぎるし、サキュドの案は不確実に過ぎるのだ。

 しかし、フリーディアの言う通りに何もしなければ、後手に回りこの町の住人にも少なくない被害が出るだろう。


「……本当はあまり、こういうやり口は好きでは無いのだがな。反論があれば後で聞こう」


 そう前置きをすると、テミスは不敵な笑みを浮かべて眼前の三人を見渡した後、既に自らの内で定めていた方策を告げたのだった。

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