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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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825話 獣と獲物


 力無き者達が虐げられ、逃れ流れた先で団結し国を興す。

 それはごくごく当たり前の摂理であり、意志を持つヒトという種族の蔓延る世の中においてもしばしば起こり得る、淘汰という自然現象だ。

 そして、そうして出来上がった国の結束は固く、それは時に強者すらも凌駕する。

 このギルファーという国家もまた、例に漏れずそう言った類のものである。

 マグヌスの説明を聞いたテミスは、そう胸の内で結論付けていた。


「ハッ……ならば、ギルファーが我等に疑心を向けるのは道理だな」

「テミス様……? ですが、ギルファーは魔王軍と協力関係にありますが……」

「そんなもの関係あるか。奴がどんな手練手管を使ったのかは知らんが、ギルファーが信じたのはあくまでもギルティアという個……もしくは奴が率いる魔王軍だけだ」

「……テミスが任されていたとはいえ、ファントはもともと魔王領。彼等から見れば、まるでテミスがこの町を奪い取ったようにも見えるのね……」


 そう言葉を紡ぎながら、鼻を鳴らして頷いたテミスに、首を傾げたマグヌスが疑問の声をあげる。

 だがその問いには、明らかな憂いの表情を浮かべたフリーディアが重たい口調で答えを返した。

 その、先程までとは全くもって対照的な様子に、テミスはクスリと小さな笑みを浮かべて言葉を付け加える。


「重ねていうのなら、奴等で言う所のファントの簒奪者(・・・)である私は人間だ。種族としての恨みつらみもひとしおだろうな?」

「っ……」


 それと同時に、テミスが何やら心当たり(・・・・)があるであろうフリーディアへと視線を向ける。

 すると、陰鬱な表情を浮かべていたフリーディアは、その声色まで重苦しいものへと変えて、罪を告白するかの如き雰囲気を纏いながら口を開いた。


「間違い無く……快い印象を抱いてはいないでしょうね。ロンヴァルディアでも、獣人族の奴隷はたまに見かけるもの……。良くて仇敵……かしら……」

「ハッ……やれやれ……堪らんな。私がやった事ならばいざ知らず、よもや身に覚えのない罪で恨まれる日が来ようとは」


 テミスは皮肉気な笑みを浮かべた後、大仰な口調で言葉を紡ぎつつ、大袈裟な身振りと共に愚痴を零す。

 しかし、その瞳に宿った光は何処までも静かで、冷酷な色を帯びていた。

 これもまた、当たり前の事なのだといえる。

 獣人族という種族の間に長きに亘って溜め込まれた積年の恨み。自分達よりも格上である他の魔族にはぶつけ辛く、人間達へ吐き出そうにも魔族としての誇りが邪魔をする。

 そんな時、不幸にも目の前に現れてしまったのがこの私……ファントなのだろう。

 積年の恨みを滾らせた人間であると同時に、元魔王軍という肩書を担いだ私は、彼等にとって格好の的なのだ。

 そこへ、友好関係にあるギルティア率いる魔王軍から領地を奪い取って独立した……などという理由が添えられればもう止まらない。

 連中はその胸中に滾る積年の恨みを振りかざし、目の前に現れた殴りやすい得物へと襲い掛かるのだ。……そう、さながら(獲物)を前にした獣のように。


「ごめ――」

「――謝罪は要らんぞ」


 重苦しい沈黙が揺蕩う中、フリーディアが突如として頭を下げて言葉を紡ぎかけると、テミスはまるで予測していたかのように言葉を重ねてそれを制する。


「連中が我等に牙を剥くのは、連中自身の問題であり選択だ。フリーディア、例えお前がその存在と事実を知っていたとしても、この現状を変える事はできなかったと保障しよう」

「でも!! 人間(私たち)の行いの所為で貴女は迷惑をこうむっているのよッ!?」

「クハッ……!! クククッ……迷惑……か……。うん……そうなのだろうな」


 テミスの制止を押し切って、フリーディアは悲痛な表情を浮かべて叫びをあげた。

 だがその一方で、テミスは溜まりかねたように噴き出すと、喉を鳴らして笑いながらまるで呑み下すように何度も小さく頷いてみせる。

 そうだ。フリーディアという人間はこういう奴なのだ。

 私という人間を隣で見続けて尚、害意を以て向かって来るであろう相手を、この私が迷惑などという感情を抱くと信じている。

 だからこそ、人間(自分達)の代わりに獣人族の恨みを受ける事になる私に対し、そんな言葉が出て来るのだ。

 故に。そんな幸せ者に私が返す言葉など、一つしか無い。


「フリーディア……お前、人間という種族の代表にでもなったつもりか? それは、少しばかり傲慢すぎるというものだ」

「……っ!!? そんなつもりは無いわ! 私はただ、覚えの無い恨みを向けられる貴女の事を心配しているのよ!」

「クク……気にしなくても良いさ。別に、迷惑なんて思っちゃいない」


 皮肉気に唇を吊り上げて嗤うテミスに、フリーディアは身を乗り出して声をあげる。

 その言葉にはきっと、欠片ほどの偽りも宿っていないのだろう。彼女は心の底から私の身と心を案じ、こうして心を砕いてくれている。

 だが……。


「逆だよフリーディア。私はとても嬉しいんだ。関係の無い者に自らの理不尽な怒りをぶつける奴を、悪と云わずに何と言う? そうだ。奴等にとって私が獲物であるように、連中がこの町へ牙を剥こうというのならば、私にとっても奴等は滅ぼすべき(獲物)なのだ! さぞ……食いでがあるんだろうなァ……?」


 テミスは皮肉気に吊り上げた唇へさらに力を籠めると、まるで蝋燭が蕩けたかのように壮絶な笑みを浮かべて、愉し気にそう言ったのだった。

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