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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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821話 巨大な謎と怠惰の狭間で

 数日後。

 テミスは執務室の自らの席に腰を掛け、大剣から半片手剣へと姿を変えた己が愛剣を手に唸り声をあげていた。


「ふむぅ……」


 あの後、念のために確認した周囲の武器にも、ファントの町を見回った警邏でも異常は見つからなかった。

 だが、この剣だけは依然としてその形を変えたままで。こうして眺めていると、まるで自分は最初からこの形で存在していましたよ? などとすまし顔で告げられているような気分になってくる。


「っ……むぅぅ……」


 無論。全ての確認が終わり、フリーディアと別れた後で、確認の為にテミスはこの剣に能力を使ってみた。

 だが、案の定この剣が大剣へと戻るはずも無く、それどころか以前は石畳や槍をも剣へと変化させていたこの能力(チカラ)は、まるで元よりそんなモノは存在していなかったかのようにすっかりと鳴りを潜めている。


「ぬぅぅぅぅっ…………っっ!!! ……。はぁ……」


 そしてしばらくの間、テミスは己の剣と睨み合いを続けた後、全身から力を抜いてべしゃりと机の上へと崩れ落ちた。

 兎も角、ひとまず導き出された結論としては、私の大剣が姿形を変えたのは、おそらく私の能力(チカラ)が暴走した事が原因では無いのだろう……と言う事だけだった。

 そもそも、今我が身に起きている現象自体が謎なのだ。

 再三にわたる背信行為に業を煮やしたあの女神を自称する女が、とうとう愛想を尽かして私に与えた力を剥がしたのか……? そんな事ができるのならば、もっと早い段階で強行するべきだとは思うが。


「まぁ……何はともあれ……と言うべきか……」


 テミスは萎れ切った風船のように脱力したまま、執務机の上で器用に寝返りを打つ。

 何も無いのならば、いつまでもこうして様子を見ている訳にもいくまい。

 今現在は、ロンヴァルディアと魔王軍が我々を巻き込んで諍いを起こすような兆候は無く、ようやく平穏な日々が訪れたようには思える。

 だが恐らく、それも一時の事だろう。

 魔王軍は未だにエルトニアとの南方戦線を抱えたままだし、不干渉を貫いている他の二国とて、今回の件でどう動くかもわからない。

 フリーディア曰く、今回の和平についての人間領側の対処は、奇しくもブライトの行った襲撃によって交渉段階に留まっており、今すぐに増援を伴ったロンヴァルディアの残存兵力が攻め立てて来る……など言う事は無いらしい。


「フン……なぁにが……『殺さなくて良かったでしょう?』だ。忌々しい……」


 つまるところ、目下の情勢を鑑みても、テミスは自らの力が急激に不安定となった現状の打破に尽力できる訳で。

 それが幸か不幸かで言えば、間違い無く幸運なのだと言える……はずだ。


「テミス~。入るわよ?」


 そんな、テミスがどうにも煮え切らない気分を胸の内で蟠らせていると。

 コンコン。と。唐突に執務室の扉を叩くノックが響き渡り、部屋の主であるテミスの返事を待たずして開かれる。

 そこには、どこか呆れたように眉根を寄せたフリーディアが立っていた。


「……入っていいとは言っていないぞ」

「そんなこと言って……貴女最近はいつまで経っても返事の一つすら返さないじゃない」

「うるさい。どうせ用件などわかり切っているからな」

「解っているなら早く決心しなさいよ! 貴女がその調子じゃ、いつまで経っても始められないわ?」


 姿勢を正さぬまま、疲れ果てた声色で応ずるテミスに、フリーディアは大股で部屋の中へと歩み入りながら語気を強める。

 だが、その表情にいつものような怒気は無く、むしろテミスの事を案ずる、探るような雰囲気を色濃く纏っていた。


「はぁ……。もう十分に調べ尽くしたんでしょう? 私だって何度も付き合ったわ?」

「確かに、今のところ異常は見られない。……この剣以外はな」

「きっと大丈夫よ。貴女の剣もきっと、大剣の姿では自らを操れないテミスの為に、己が在り方を変えたんだと思うわ?」

「ハッ……相変わらず能天気だな……。剣が意思や忠誠を持つとでも?」

「実際。何も悪いことは起きていないじゃない」


 皮肉気な笑みを浮かべたテミスが言葉を紡ぎながら体を起こすと、僅かに眉を吊り上げて身を乗り出したフリーディアの顔が間近にまで迫り、テミスは気圧されるかのように反射的に身を退いた。

 どうやら、フリーディアは一日でも早く私に剣技の基礎とやらを仕込みたいらしく、今ではこうして暇を見付けては日に何度も私を説得に来る始末なのだ。

 その度に、なんだかんだと理由を付けてはぐらかしてはいるものの、それもそろそろ限界らしい。

 今日まで引き延ばして焦らしたせいなのか、テミスはまるで訴えかけるように様々な感情が入り混じった表情で自らを見つめるフリーディアの表情に覚悟を決めると、再び執務机の上へと崩れ落ちながら口を開く。


「解った解った。明日……明日からやろう」

「っ……!! 言ったわね!? 本当ねッ? 絶対よ!?」

「あぁ……明日から……な……」


 事実……もう他に取れる手段も無いしな……。

 紡がれたテミスの言葉に一転、爛々と目を輝かせはじめるフリーディアに、テミスは胸の中でそうひとりごちりながら、力ない言葉で繰り返すのだった。

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