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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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76話 力の使い道

 ラズール中央戦線・最後方非戦闘地帯

 陽も中天を越え、温かな日差しが降り注ぐ中。いくつかの怒号と大量の地を蹴る蹄の音が響いてきた。


「走れ! 決して捕まるな!」

「南部戦線の生き残りに連絡を! 足止めで良いわ! 挟撃する!」


 2つの騎馬集団が、五十メートルほどの距離を空けて追いかけ合っていた。その前方の集団、黒を基調とした甲冑に身を纏った者達は、後ろから追いかける純白の甲冑に身を纏った一団が時折放つ、火球や雷撃といった攻撃を右へ左へ蛇行して躱していた。


「っ……村には決して入るな! 左右に散会! 村を迂回してっ――!!」


 眼前に寒村が目に入った途端、声を上げたテミスの背が凍り付く。後ろを振り向くとそこには、テミス達を追い縋るように放たれた岩の塊が迫っていた。


「っ……何処までも身勝手なっ!!」


 歯噛みをして悪態をつくと、淡い期待を込めてテミスは騎馬を右へと逸らす。しかし、テミスが期待したように岩の塊は彼女達を追従せず、一直線に村の方へと進み続けた。


「住人を守らないで何が騎士か! 笑わせるなっ!」

「テミス様ッ!」

「黙れッ!」


 テミスは再び馬の軌道を岩の射線上に戻して、腰の細剣を抜き放つ。我々が避ければ、ボロボロの木材で作られた後ろの村の家は潰れるだろう。この距離からでは人の有無は解らないが、力無き者が蹂躙されるのを見逃すどころか、その片棒を担がされるなど断じて御免だ。


「どうせ……戦災保証なんて物は無いのだろうしなっ!」


 悪態をつきながらテミスは岩に並走すると、抜き放った細剣で岩に切り付けた。これで駄目なら、素直にマグヌス達の手を借りるしないのだが……。

 しかし今度はテミスの予想に反して、切り付けた剣はまるでバターでも切り裂くかのように手ごたえ無く、文字通り岩を通り抜けた(・・・・・)。そして、両断された岩の先端が風圧に負け、脱落して地面を転がる。


「ギルティアめ……恐ろしい物を貸し与えたものだな……」


 テミスはボソリと呟くと、残った岩塊に向かって剣を振るった。考えてみれば、魔王城の石畳にすら突き刺さったこの剣が、たかだか魔法で生み出された岩塊一つ切り裂けない訳が無い。


「クソッ! 間に合わんかッ!」


 バラバラに切り裂かれた岩から目を離したテミスが、剣を鞘に戻しながら吐き捨てる。軍団の半分は既に村の端、テミスに追従したサキュドとマグヌスを除く残りの半分も、逆側の村の端を目指して疾駆している。ここからわざわざ村を迂回していては、白翼の連中に追いつかれるのは自明の理だった。


「止むを得ん! 村の中心を抜けるぞ! 住民や建物への損害は許さん!」

「ハッ!」


 テミスが号令を発すると同時に、3人を乗せて疾駆する馬が申し訳程度に設えられた村の最外周を示す柵を飛び越える。その先では、怯えた表情でテミス達を見上げるボロボロの服を身に纏った住人たちの姿があった。


「済まない! 村の端に寄って道を空けろ! 轢き殺されるぞ!」


 テミスは叫びと共に道を横断するとそのまま馬を走らせ、速度を落とす事無く建物の間を駆け抜ける。すると、さほど大きな村ではないのか、同じことを二回ほど繰り返した先に、再び村の最外周を示す柵が視界に現れた。


「なにっ……!? 馬鹿がッ! 村を滅ぼすつもりか!?」


 その柵を飛び越えた瞬間。テミスは後ろを振り返って驚愕の声を漏らした。そこには、雨のように村に降り注がんとする七色に輝く魔法の矢(マジック・アロー)が迫っていた。


「フリーディアめっ! 何を血迷っているあの間抜けッ! サキュド! マグヌス! 反転して矢を全て――」

「――テミス様っ! そのまま前進してください!」


 テミスに僅かに遅れて左右の路地から飛び出た二人に号令が飛ぶが、テミス達の前方からそれを打ち消さんばかりの大声が響く。同時に、十を超える火球と氷塊がテミス達の頭上を通過し、村の上空で大きな爆発音が鳴り響く。


「馬鹿が! 村に危害を加えるなとあれ程――」

「ご安心ください! 矢を迎撃しただけです! 村の被害は出ていないかと!」

「何ッ!」


 テミスは慌てて後ろへと視線を戻すが、もうもうと爆炎の煙る村は、時間と共にどんどんと小さくなっていっていた。以前の自分ならともかく、並の人間クラスまで落ちた今の視力では村の状態などもう確認することはできなかった。


「チッ……信じるぞ! ハルリト!」

「ハッ! ――ッ!!! テミス様ァッ!!!」


 舌打ちと共に声の主に叫びを叩き付けると、テミスは進行方向へと目線を戻す。その瞬間だった。テミスの言葉に笑顔を向けたハルリトが、突如馬上から飛び込んで、その背中から真一文字に血を噴き出しながら地面を転がった。


「ハルリトッ!!! ――っ……これはっ……」


 犠牲となった部下の名を叫びながら、テミスが馬を反転させる。同時に、それに気が付いた十三軍団の面々が、数瞬遅れて彼女の元へと馬を戻した。


「チィィッ……!」


 テミスは落馬したハルリトの脇にしゃがみ込んで村の方を睨みつける。そこでは、斜めに切り裂かれたボロボロの家が、ゆっくりとその切断面に沿って崩れ去っていった所だった。


「私の技で……部下を傷付けるとは……暴虐を働くとは……やってくれたな……」


 言葉と共に、凄まじい気迫と共に目を剥いたテミスの奥歯がばきりと音を立てる。ハルリトの背を切り裂いたあの斬撃は、間違いなく月光斬だ。家ごと切り裂いたせいか、それとも報告通りまだ力を扱いきれていないのか、威力こそ格段に弱いものの自らの技を見間違えるほど衰えてはいない。


「ククッ……アッハハハハハァ……やぁっと追い付いた。正義の味方気取って馬鹿な事しなけりゃ、もう少し逃げれただろうにさぁ!?」

「クッ!」


 嫌らしい声と共に、倒壊した建物があげる粉塵を切り裂いて襲って来た月光斬を、マグヌスが抜き放った刀で受け止めて弾き飛ばされる。


「テミス様。ハルリト引き摺って下がって下さい。時間を稼ぎます」


 その横を、いつの間にか大人形態に変化したサキュドが、紅い槍を携えて入れ替わるようにテミスの前へと、背を向けて立ちはだかったのだった。

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