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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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816話 武芸を求めて

「おはよう、テミス。まずは、貴女に合った武器から探してみましょうか」


 翌日。

 テミスが憂鬱な気持ちと共に、専用の修練スペースと化した中庭の片隅へ足を運ぶと、既に準備を済ませていたフリーディアが、朗らかな調子で声をあげた。

 その傍らには、一体どこからかき集めて来たのか、片手剣や槍など、多種多様な武器の数々が置かれている。


「なんだ……それは……?」


 その光景には、フリーディアに剣を習う為に心を殺し、最早心が動く事など無いと決意していたテミスも、思わずその場で足を止めて問いかけた。


「言ったでしょう? 貴女に合った武器を探すの。昨日は軽く貴女の動きを見ただけだったけれど……。テミス、貴女は何で自分の武器に大剣を選んだの?」

「っ……! それは……」


 涼やかな笑みと共に歩み寄りながら問いかけたフリーディアの言葉に、テミスは逡巡するように口を噤んで視線を逸らす。

 このブラックアダマンタイトの大剣は、今でこそ愛剣と呼ぶにふさわしい武器ではあるが、テミスが大剣という武器を手に取る事を決めたのに大した理由は無かった。

 この世界で敵を倒すために初めて武器を手に取ったあの時。

 敵の得物が槍で、目の前に居たのは三人。更にその後ろでは、侵入者である私に対するべく、増援を叫ぶ兵も居た。

 だから、攻撃の範囲が広く、ただ振り回すだけで複数人の敵を倒す事ができる……そんな武器を求めた結果、手にしたのが大剣という武器だっただけなのだ。


「……意味など無い。ただ、必要だったからだ」

「そう……」


 少し考えこんだ後、テミスが懐かしむように笑みを浮かべて答えると、フリーディアは僅かに表情を陰らせて頷きを返す。

 どうせフリーディアの事だ、武器の種類一つとっても、何かしら大層な志やら意思やらを期待していたのだろうが、生憎私にはそのような感情は無い。

 ただ……。


「……だが、コイツには少々……愛着は湧いているがな」


 テミスはそう言葉を続けると、背中に背負っていた漆黒の大剣を傍らに立てかけると、まるで愛でるかのようにその柄を優しく撫で上げた。

 思えばこの剣は、ヴァルミンツヘイムの魔王城で手に入れて以来、今日この日まで共に戦い抜いてきたいわば戦友だ。

 時には強靭な敵の武器に刃毀れし、時には私の能力(チカラ)の依り代として何度もその形を変え、戦いの日々を駆け抜けてきた。


「クス……安心して? 貴女にその大剣を手放せなんて言わないから」

「当り前だ。愛着が湧いていると言っただろう」

「ハイハイ。でも、それとこれとは話が別よ? 今の貴女ではその剣を……いえ、大剣を扱うのは難しいと思うわ」

「…………」


 きっと、フリーディアも似たような感情を覚えた事はあるのだろう。

 まるで、わかってるわよ。とでも言わんばかりの笑みを浮かべて言葉を返した後、フリーディアははっきりとした口調でそう断言した。

 確かに、大剣という武器はそれを振るう者の身体能力がその強さに大きく影響する。

 それは魔力を通じ、持ち主の意思によって自在に重さを変えるブラックアダマンタイト製の武器でも同じだと言えるだろう。

 否。正確に言うのであれば、この姿形通りの身体能力であれば、技量よりも破壊力を重視した大剣という形の武器よりも、細剣や片手剣といった類の物の方がより優れた力を発揮できる。


「っ……。仕方あるまい」


 ボソリ。と。

 テミスは大剣の柄に掌を当てたまま、数秒の間逡巡をした後。固く食いしばった歯の隙間から言葉を漏らした。

 武器の種類など、これまで通りこの大剣に私の能力(チカラ)を注ぎ込めば、幾らでも変える事ができる。

 だが、あの忌々しい女神の寄越したであろう身体能力が揺らいでいる今、その根幹たる能力(チカラ)が正しく扱える保証もない。


「それで? 何から始める? ……というかフリーディア。お前、槍なんか扱えるのか?」


 後ろ髪を引かれる思いを押し殺すように、テミスは足早にフリーディアの側へと歩み寄ると、改めて周囲に用意された武器に視線を向けて問いかけた。

 これまで、フリーディアとは何度も相対し、共に戦ってきたが、彼女がいつも手にしていたのは、今もその腰に提げている少し大き目の片手剣だ。

 それ以外の武器を扱っている所など、一度も目にした事は無い。


「フフッ……心配ないわ。私こう見えて、クラウスから一通りの武器の扱いは教わってるの。その中でも、一番得意だったのがコレ(・・)なだけよ。だから、基礎を教えるくらいなら問題無いわ」

「ほぉ……」

「さ……じゃあ早速、始めましょうか」


 その言葉に感嘆するテミスに対し、フリーディアはただ柔らかに微笑みを返すと、最も手近にあった槍を差し出しながら、明るい口調でそう告げたのだった。

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