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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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814話 道化の勝者

 ――弱い。

 臨戦体勢に入ったフリーディアがそう直感したのは、テミスが一歩目を踏み込んだ瞬間だった。

 態勢は万全。踏み込みは深く、フリーディアは刹那の間に、閃光のような一撃が放たれると確信していた。

 だが、実際に飛び出したテミスの速度は、確かに早くはあるものの常人の域を超える事は無く、鮮烈な一撃を覚悟していたフリーディアにとっては、鈍重極まる動きだった。

 けれどまだ、動きが鈍いだけでは断定する事はできない。

 そう判断したフリーディアは慢心なく、自らに向けて振り下ろされる漆黒の斬撃に対し、全力を以て応じるつもりだった。

 しかし、剣を打ち合わせた瞬間。フリーディアの直感は確信へと変わった。


「――っ!?」


 打ち合わせた剣は、フリーディアが覚悟していたよりも遥かに軽く、自分が応ずるために放った斬撃の方が明らかに数段威力が高かった。

 このままでは、テミスを斬ってしまう。

 瞬間的にそう判断したフリーディアは即座に剣を持つ手の握りを緩め、打ち合わせた剣の角度をずらすと、自らの斬撃の狙いをテミスの剣に絞る。

 そして、鋭く振るったフリーディアの剣閃から、テミスの身体が逸れた瞬間。

 フリーディアは緩めていた手を固く握り締め、斬撃の全ての威力をテミスの剣へと集中させて弾き飛ばしたのだ。


「テミス……」


 カチン。と。

 フリーディアは振り抜いた剣を鞘へと納めると、努めて冷静な表情を保ちながら傍らのテミスへと視線を向ける。

 そこでは、衝撃冷めやらぬテミスが凍り付いたまま目を見開いて驚愕の表情を浮かべており、その光景はフリーディアに何処か痛ましさすら感じさせた。

 けれど、驚愕するのは無理も無い話だろう。普段のテミスが放つ一撃であれば、例え手合わせの場であったとしても、私が真正面から打ち合って敵う筈も無いのだ。

 それほどまでにテミスの斬撃の打ち込みは激烈で、その肢体が繰り出す目にも留まらぬ俊敏さと相まって、無類の強さを誇っていた。


「……手加減とは、舐められたものね? それとも、私なんかまともに相手をする価値も無いとでも?」

「っ……!!」


 しかし、今は衆人環視の中だ。

 私が勢いで始めてしまった事だからこそ、その責任は後始末を含めて最後まで取らなければならない。

 だからこそ、フリーディアはあえて眉を吊り上げて怒りの表情を作ると、その影で硬直するテミスの脇腹をつついて正気に戻す。


「私だって、鍛練を欠かしたつもりは無いわ。そう侮られていては困るのだけれど?」

「むっ……っ……。フ……フン……今のはただ油断しただけ……いや、私が少々加減をし過ぎただけだ」


 すると、ピクリと肩を跳ねさせたテミスは即座にフリーディアの意図に気が付いたのか、ゆっくりとした足取りで弾き飛ばされた自らの剣の元へと歩み寄ってその手を伸ばす。

 だが、その言葉にはいつものテミスらしからぬ動揺が浮かんでおり、剣に伸ばした手もよく見れば細かく震えている。


「で・も!! それはテミスが私の力を見誤ったからよね? リックの事があったからとはいっても一勝は一勝。でしょう?」

「…………」


 それを見たフリーディアは咄嗟に胸を張って声を張り上げると、得意気にニンマリと微笑みながら言葉を重ねた。

 状況はフリーディアが想定していたよりも最悪だ。

 ただ加減をコントロールできないだけではない。その振れ幅も百かゼロか……昨日テミス自身が話していた内容よりも明らかに悪化している。

 しかし、テミスは名実ともにファントの主なのだ。激闘の末の敗北ならば兎も角、こんなあっけない敗北を喫した印象を残す訳にはいかない。


「ほら! 何か言ってみなさいよ!! どんな気分かしら? 慢心しすぎた結果、見下していた私に呆気なく負ける気持ちは? これを期に、あなたも日々の弛まぬ鍛練と、いつでも相手を敬う騎士の心を磨くべきだと思うわよ?」

「っ……!!!」


 ならば、このような結果となった理由をすり替えてやればいい。

 『テミスが弱かったから負けた』のではなく、『テミスの慢心と、私の努力が偶然重なった』その結果なのだと。

 だからこそ、フリーディアはテミスの周りをちょろちょろと動き回りながら徹底的に囃し立て、テミスの慢心を煽り立てながら、全力で自らの努力を声高に触れ回った。

 その結果。テミスにもようやく調子が戻ってきたのか、微かにぎしりと歯を食いしばる音が聞こえてくる。


「理解したのなら、早速行くわよッ!! 今日は一日中、私に付き合って貰いますからねっ!!」

「…………。チッ……やれやれ……仕方がないな……」


 それを確認した瞬間、フリーディアは間髪入れずにテミスの腕を掴むと、中庭へ来た時と同様に半ば引き摺るような格好で詰所の中へと、不承不承といった雰囲気を醸し出すテミスを連れ去っていったのだった。

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