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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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75話 一点突破

 ラズール南部戦線中央部・最前線

 にらみ合いの膠着が続くこの戦線を、一つの部隊が疾駆していた。その部隊は規模にして一個中隊。加えて、騎兵のみで構成されたその部隊には、一見して馬上槍などの騎乗武装をしている兵は一騎も居なかった。


「進め! とにかく進めッ! 今はいかに敵陣深くに食い込めるかだけを考えろ! 我らの脅威を見せつけてやれ!」


 その部隊の中心で。銀の髪をなびかせながら檄を飛ばす少女が一人。黒い甲冑に身を包んでいなくても、その姿は間違いなく魔王軍第十三独立遊撃軍団軍団長・テミスその人だった。


「ハルリト! 爆炎術式だ! 五連ほどで良い! 派手にやれッ!」

「ハッ! っ……爆炎術式ですか? それではこちらの存在が露呈してしまいますが……」

「黙って撃てッ! そら! 気を抜いた間抜け共が見えて来たぞ!」

「ッ! 了解しました!」


 テミスが指揮を飛ばすと、右翼を走っていたハルリトが最後尾まで下がり、術式の詠唱を始める。一方で、その様子を両側から見ていたサキュドとマグヌスが顔を見合わせ、小さく頷いた。


「テミス様……敵陣に奇襲をかけるのは良いのですが、その後はどうされるおつもりでしょうか?」


 ぐんぐんと迫る人間軍の急ごしらえな砦に目を細めながら、意を決したようにマグヌスが口を開く。


「ん……? そうだな……」

「テミス様ッ! 次善の行動を知っているのと知らないのとでは俊敏性が異なりますっ!」


 しかし、それを聞いたテミスは意味深な笑みを浮かべると、言葉を切って前方の空を見上げると、マグヌスが焦れたように声を上げた。現状テミスは、マグヌス達に突撃後の行動を知らせていなかった。何故ならこの作戦はぶっつけ本番。いかなマグヌスとサキュドでも、断固として止められるのは明白だったからだ。


「ククッ……この戦線を食い破って直接ロンヴァルディアまで攻め込んでやるのも面白いかもしれんな……」

「っ……ご冗談を……」


 テミスが頬を吊り上げて凶悪な笑みを漏らすと、マグヌスの頬を一筋の冷や汗が滴る。この時のマグヌスの心情を言葉にするのであれば、畏怖という言葉を置いて他にはない。

 心の大部分は、猛勇誇るテミスの冗談。薄い戦線を食い破り敵の本拠地を叩くなど、いかにテミスであってもあり得ない事だと考えている。けれども、頭の片隅では。このお方ならばやりかねんという恐怖にも似た感情が息づいていた。


「冗談なものか……多少のサバイバルは覚悟しなければならんが、案外いい所まで行けるかもしれんぞ?」


 テミスはマグヌスの顔をチラリと眺めてそう言うと、薄く喉を鳴らして笑みを浮かべる。実際、この一個中隊規模の早馬部隊ならば、ロンヴァルディアまで辿り着く事さえできれば、打撃を与える事は容易いだろう。


「だが、まあ。それも魅力的だが今回はそんな所どうでもいい」


 目を見開いて驚愕するマグヌスの表情を一通り楽しんだ後、テミスは前方の敵陣を指差した。同時に、部隊の最後尾から複数の火球が勢いよく前方へと向かって行った。


「我々は前方の間抜け共を切り裂いた後、そのまま敵陣後方を通って中央戦線の敵本陣を叩く」

「なっ……!」


 火球が着弾し、巨大な爆発が起こると同時にマグヌス達の顔が青ざめる。気持ちは解らないでもないが、テミスはこの作戦にこの戦いを終わらせる光明を見出していた。


「そう怯えるな。なにも後ろから食らいつく訳では無い。適度に気を引いて奴が出て来るまで逃げる……それだけだ」

「いや、しかしっ――!!」

「ハァ……諦めなさい。マグヌス」


 疾駆する馬上で体ごとこちらを向いたマグヌスを、深いため息を吐いたサキュドが諦めたように制する。


「こういう風に言い出したテミス様は梃子でも動かないわよ……アンタも知ってるでしょうに」

「ムゥ……」

「ハハハ! 判ってるじゃないかッ!」


 テミス達はまるで歓談でもするかのように語り合いながら、ハルリトの魔法で焦土と化した敵陣地を駆け抜けていくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ラズール中央戦線・人間軍本拠点


「フリーディア様ッ!!」


 簡素な椅子に腰掛けて出撃準備をしているフリーディアの元に、血相を変えたミュルクが飛び込んで来た。


「リック。どうしたの? そんなに慌てて……」

「ッ……南部戦線が突破されました!」

「えっ!?」


 報告を聞いたフリーディアは思わず、音を立てて椅子から立ち上がった。この中央戦線が膠着している今、手薄になっているとはいえ、魔王軍に南部戦線を突破できるほどの戦力は無いはず……。


「っ……それと。まだ未確認の情報なのですが……」


 立ち尽くすフリーディアを見ながら、ミュルクは表情を苦虫をかみつぶしたようなものに変えると続ける。


「戦線を突破した部隊の規模は一個中隊程……指揮官と思われる者は……長い銀髪の女だったそうです……」

「そんなっ……!? 嘘っ……!?」


 目を見開いたフリーディアが振り向いた先には、鼻歌を歌いながら呑気に紅茶を傾けるルークの姿があった。

2020/11/23 誤字修正しました

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